間話二編 - 禁書庫書物の民話 -
※ 保護者の方へ ※
本民話選集の編算にあたり、この物語の挿入には
学問に身を置く者として相当な葛藤を持っていた事を告白します
存在していない魔法体系を児童文学へ組み込んだ
当代の書き手が心中を知る事は叶いません
よってその方達を慮りそのまま掲載するに至りました
その点をご考慮戴きますようお願い申し上げる次第です
編者:ベルナルディタ・ロチャ
アリアメス歴1166年
※※※
国立魔法学院編集部編
『帝国の民話101選 第4巻』より 『 女王様はひとりぼっち 』
とおい、とぉ~い昔のことでした。
帝国のとあるばしょ、とても豊かな地方のひとつ。
そこにはとても綺麗な女の人がすんでおりました。
土地の人々からは『ズメイ様』と呼ばれ慕われていて、高貴な血筋の御方でした。
彼女がその土地にすんでいたころ、その地域は苦難が続いておりました。
帝国ができるまでの『建国戦争』で多くの土地と人々は傷つき、天気一つでころころと姿をかえてしまうのです。
水が村も、街もおそいました。戦争で魔法使いも足りません。
堤防をなおす事もなかなかうまくいかず、人々は苦しんでいました。
ズメイ様は、そんな人々をあわれみ、自分の財産をつかって、ひとびとを雇いいれました。
戦争はおわったばっかりで、仕事がほしい人々はたくさんいたからです。
「たりないものがあったらすぐに言いなさい」
そうズメイ様は言いました。
「ズメイ様、家のお金がなくなってしまいます」
「それいじょうは言わないで。
私達は人々をまもるからこそ、はじめて豪華なお家に住めるのですよ」
ズメイ様のけらいは、ズメイ様がびんぼうになってしまうことを心配しますが、ズメイ様は聞きませんでした。
そして何年かのじかんをかけて、ズメイ様はとても大きな堤防を完成させました。
その地域の水はおとなしくなり、豊かな実りがもどってきました。
いちめんに広がる小麦色のそうげんが、人々の心に希望をともしました。
人々はズメイ様をほめたたえました。自分のお金をなげうって、ゆたかなこの地域を取り戻してくだすった、と。
―― そのまま生きていければ、人々も、ズメイ様も幸せだったかもしれません。
ですが、人々は知りませんでした。
ズメイ様は、その時生きている人々の中で最も美しく、最も強い人でした。
そして誰よりも残忍で、誰よりも酷薄で、誰よりも性悪な本性を持っている人でした。
それは、堤防が完成してから、十数年ものじかんがすぎたころでした。
ズメイ様がすんでいるお城に、ひとりの兵士がやってきました。
「もうしあげます! 陛下がおかくれあそばされました!」
帝国の皇帝陛下が、亡くなられたというほうこくでした。
国のいちだいじです。かなしみのことばをおくり、のこされた陛下の家族をおなぐさめするべきでした。
ですがズメイ様はかなしむことをしませんでした。口元にいつものえがおを浮かべたまま言いました。
「それは重畳。ようやくくたばったか」
人々は耳をうたがいました。この地域を救ってくれた、美しい人の口からきこえることばだと思えませんでした。
ですが、だれもズメイ様をたしなめることができませんでした。
この地域は堤防をつくるために、たくさんの人々が雇われていました。
この帝国の中で、いつのまにか『いちばん豊かな土地』と、『たくさんの兵士』をそろえる人になっていました。
「ズメイ様、やめてください。陛下はズメイ様のお兄さまではありませぬか」
「めいっこ様がこれからあらたな皇帝になられるのですよ」
そう、彼女のじいややメイドが言いました。
そしてズメイ様ははじめて、この地域の人々の前で『魔法』をつかいました。
じいやのからだが、あっというまに腐ってしまいました。
メイドの目や鼻や口から、滝のように虫がわいてきました。
ズメイ様が使う魔法は ―― 『死』 ―― でした。
彼女はいう事を聞かない人々を殺して、起き上がらせました。
いう事を聞かないのなら、聞くようにしてしまえば良いのです。
いう事を聞きたく無い人も、むりやり聞くようにさせられました。
豊かだったこの地域にすむ人々はみんな、死体になってしまいました。
ズメイ様を止められる人が、いなくなりました。
帝国の人々はみな、彼女がそんな事をする人だと思っていませんでした。
ゆびをたたけば命がひとつ。にかいたたけば命がよっつ。
死んだ人を起き上がらせて、別の人を殺させて、それも起き上がらせました。
軍人さん達ががんばっても、とめられませんでした。
死体は殺せないからです。斬ってたおれても、おきあがってきます。死んだ仲間も、そいつらの仲間になります。
あっというまに、ズメイ様は大いなる都をせめおとしてしまいました。
帝になったばかりのめいっこ。ズメイ様のお兄さんの娘だった人は、殺されてしまいました。
ズメイ様が、自分の手で、手足の先からちょっとずつ切り刻んだそうです。
ゆっくりと、じかんをかけて殺しました。2日間かけました。
ズメイ様は、自分のむすこであるファヴニル様を、あたらしい皇帝陛下にしました。
ファヴニル様はまだ2さいです。
人々は、ズメイ様を称える事をやめました。
すべて嘘だったのです。人々をいつくしむ笑顔も、なにもかも。
このまま、彼女の思うままになってしまうのか。
みんなが途方にくれたとき、英雄があらわれました。
彼の名は『アルトゥル』様といいます。
ズメイ様とはお父さんがおなじで、ちがうお母さんから生まれた"おとうと"にあたる人。
彼はお姉さんが、みのけもよだつ悪魔になっていくのがゆるせませんでした。
ズメイ様に反発する偉い人たち、そして嫌気がさしていた人々のてをとって、たちあがりました。
悪となった人を打ち倒すために、"大精霊"様はアルトゥル様にかごを与えました。
彼の仲間たちがうち倒したモノたちは、"おきあがり"になりませんでした。
たくさんいた"おきあがり"たちは、すべて精霊様の身許へ送り返します。
大いなるみやこを追い出されたズメイ様は、もとのお城へ帰りました。
怒りくるった人々は、そのお城の前でファヴニル様を殺してしまいました。
壁の上から、ズメイ様は斬られてさらされたファヴニル様のお顔を、5日間見つめ続けていました。
ズメイ様は、ひとりぼっちになってしまいました。
称えてくれた人はもういません、"おきあがり"にしたからです。
お世話をするメイドもいません、"おきあがり"にしたからです。
じいやももういません、"おきあがり"にしたからです。
兵士たちももういません、"おきあがり"にしたからです。
お城の中には、ズメイ様しかいません。
アルトゥル様は、お姉さんを許しませんでした。ですが殺そうともしませんでした。
お城から、いっぽも出さないようにしたのです。
食べものも、なにもあげない。飲むものもあたえない。
そうなってから、5年がたちました。
皆怖くて、お城に踏み込めなかったのです。もしかして、生きているかもしれない。
そしてアルトゥル様は知っていました。お姉さんは『おにんぎょう遊び』がすきだったことを。
女王様のふしぎなにんぎょう。
人のようなかわ、人のような髪の毛、人とおなじ血と肉をもっているおにんぎょう。
魔法でつくった骨のまわりを部品でくみたてたおにんぎょう。
魔法の石をつかってうごく、立ってしゃべるおにんぎょう。
見た目は普通の人のようだったおにんぎょう。
7つもつくったおにんぎょう。
それらを使ってくるかもしれない。
そう思って、踏み込みませんでしたが、5年たちました。
アルトゥル様が踏み込むと、いちばん高い部屋の中で、ズメイ様は死んでいました。
死んでいたというべきなのか、わかりませんでした。
そこにはもう、たましいが残っていないような気がしたのです。
女王様がつくったおにんぎょうは、どこにも残っていませんでした。
~ 『 女王様はひとりぼっち 』おしまい ~




