9.プールに行きたいユキちゃん
初級ダンジョンへ行く心の準備をしている俺⋯。
まぁ、怖いっちゃ怖い。ソロってのもなぁ。
ふと部屋を見渡すと。
テレビの画面にくぎ付けになっているユキちゃん。
最近はどうやら、テレビがお気に入りらしい。
座敷わらしのような存在のユキちゃんだけど、他の人に認知されないだけで普通にご飯も食べるしトイレも行く。リモコンも自由に触れるので、テレビだって見られる。
「この金さんっての、本当は昔こんなんじゃなかったが、まあこれはこれで面白いぞ」
エンドウ豆を揚げたおやつをポリポリと頬張りながら、時代劇を観てご満悦のユキちゃん。
言動はジジくさいが、見た目は5歳の美幼女である。……うん、まあカワイイから許す。
「おう、エイちゃん。豆も美味いが、この前買ってくれたポテチがまた欲しいのう」
「また今度ね」
ポテチ自体は安いものだけど、今の俺には現金収入がない。
なので、あんまり贅沢や浪費はできない。そろそろ外のダンジョンへ行って、少し稼いでこないとまずいな。
現役時代の武器は全部売り払ってしまっている。買い戻すのも余計な出費になるし……最初は魔法で進んでいって、持ち前の「運:S」によるドロップアイテムに期待すればいいか。
そうだな、ソロも良いけど、斥候とポーターは欲しいかな⋯
運Sで下手にドロップ率高いから、収納スキルが無いとキツくなりそう。
なんてことをぼんやりと考えていたら。
「エイちゃん! これは……儂はここへ行きたいぞ!」
「ん……?」
ユキちゃんが画面を指さした先には、プール施設の爽やかなCMが流れていた。
「えっと……ユキちゃんが行くの?」
「うむ! 行きたいのじゃ!」
「えっと……さすがに着物じゃ泳げないよ?」
「着る物か? それなら問題ない。ホッ!」
ユキちゃんが一瞬ピカッと光ったかと思ったら、なんとCMの女の子が着ていた可愛らしい水着姿に変身していた。
「おぉ……そんなこともできるんだ」
「そう言えば、エイちゃんが小さい頃の近所の子どもらは、夏場はこんな感じじゃったか」
もう一度光ったと思ったら、今度は白いワンピースを着て、赤いプールバッグを持った女の子に早変わりした。
……確かに、ここ数ヶ月はずっと畑を耕して野菜を作ってばかりだったな。
レベルは爆発的に上がったけれど、考えてみたら一度も息抜きなんてしていなかった。
「……よし、じゃあ行こうか。プール」
「うむ!」
「うむ」なんて偉そうに言いながらも、表情はめちゃくちゃ嬉しそうだ。
……なんか俺、この笑顔にすっかり毒気を抜かれてるよな。ユキちゃんが嬉しそうにしていると、自然と俺の心まで弾んでくるのだから不思議だ。
◇◇◇
田舎なので、バスと電車を乗り継いで市街地のプールへと向かう。
ユキちゃんは見た目5歳だから運賃はいらない。……というか、そもそも周りの人間には見えていないので大丈夫なのだが。
プールに着いてからは、ビーチボールで遊んだり、流れるプールで浮き輪に乗せたユキちゃんをプカプカ浮かべて流したり。
ウォータースライダーもユキちゃんがえらく気に入ったので、何度も列に並んで滑り倒した。
「ほほー、爽快じゃー」
「おぉ~。キモチイイー」
……いやあ、本当に楽しかった。
しかし、ふと我に返ると――周りからの視線が異様に痛いことに気づいた。
『しっ! 見ちゃダメよ……』
『……えっと。いい年したオッサンが、1人ではしゃいでるよ……』
『大丈夫なのかしら、あの人……』
「……ユキちゃん、そろそろ帰ろうか」
「……うむ。なにかスマンの」
ユキちゃんも、何に対して謝ればいいのか分かっていない様子だが、少し申し訳なさそうにしている。
「……楽しかったよね?」
「うむ! 昔のエイちゃんが戻ってきたようで、すごく楽しかったぞよ」
「……じゃあ、いっかな」
まあ、ユキちゃんには内緒で若い女の子の水着姿を盗み見して密かに喜んでいた自分もいるわけだし、何よりユキちゃんが楽しんでくれたんだ変なオッサンの汚名くらい甘んじて受けるとしよう……。
◇◇◇
――とあるダンジョン協会の支部にて。
「ねえ、昔『エイガ』さんッて人いたよね?」
「あー、いたいた! あの底辺痛勇者でしょ?」
「なんかさ、この前1人でプールに行って大はしゃぎしてたらしいよ」
「なにそれ……。あれかな、パーティー追放されて頭おかしくなっちゃった?」
「そーかも。なんか田舎の山に引きこもってるって噂だしね」
……周りの不躾な噂話を、苦虫を噛み潰したような表情で聞いていた一人の少女が、不意に立ち上がった。
「ねえ。そのエイガさんが引きこもっている山って……どこ?」
「ん? 何? なんか死んだおじいさんの家に行くとだけ聞いてるよ。〇〇のあたりとか言言ってたかな」
「あっそ」
(……よし。エイガさんの有力情報ゲット!)
田舎なら、直接行って近所の人に聞いてみるのが一番早いかもしれない。
「……行ってみよう」
少女は固い決意を胸に、そう呟いたのだった。
幼女の水着姿がご褒美になったかはわからんが、エイガさん楽しんでくれてよかったです。
あ、ちゃんとご褒美になる人用意しましたので、赦してね。
作者にも、ご褒美を⋯。
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