10.妹のようなカンケイ
プールに行った次の日。
いつものように畑仕事をして、収穫した野菜を食べたけれど、もうレベルは上がらなかった。
「ユキちゃん。そろそろ、外の初級ダンジョンの攻略を考えてるんだけど」
「おぉ、そうじゃな。お主のレベルも上がりにくくなっておるしの」
「うん。まぁソロで行くつもりなんだけど……勇者って『収納スキル』とか『斥候スキル』って無いの?」
打撃ヨシ、魔法ヨシの万能アタッカーの能力に加えて、バフも盛れて回復までできるのが『勇者』という称号だ。
だけど、マッピングや警戒を担当する斥候と、アイテムを運ぶ収納スキルを持った荷物持ち(ポーター)がいれば、攻略の効率は爆上がりするのだが……。
……。斥候で、ポーターか。
前のパーティーで、最後まで俺を庇ってくれたコがいたっけな。
名前は、椎名薫。シーナちゃんって呼んでたな。
当時は高校生探索者だったけれど、今年で高校を卒業しているはずだから、今頃は立派に独り立ちしているだろう。
思い出してしまうのは、あのパーティーを追放された日の苦い記憶だ。
『おい、おっさん! 足手まといなんだよ!』
『そうだ、そうだ!』
『そういうわけだ。パーティーを抜けてもらう』
光魔法によるバフだけじゃなく、持ち前の「運:S」によるドロップ率上昇や罠回避など、裏方として貢献してきたつもりだったけれど……仕方ない。
パーティーのメンバーもレベル20を超えてきて、俺では戦闘に全くついていけなくなっていたのだから。
『ちょっと待ってよ! エイガさんを追い出すなんて、私は反対よ!』
あの時、一人だけ声を上げて反対してくれたコがいた。
探索者生活の中で、そんな風にかばってもらえたのは初めてだったかもしれない。
『シーナちゃん、いいんだ。いつものことだから』
『でも、エイガさんのフォローが無いと、私……』
【万能荷役】のジョブを持つ少女、椎名薫。
荷役だけじゃなく多彩な補助スキルを持っていて、斥候役もこなしていた。
ショートカットが似合うボーイッシュで可愛い女の子だが、俺からすればお兄ちゃんと言うよりお父さんと言ってもいいくらいの年齢差だ。
初心者の頃から同じパーティーにいて、まるで妹か娘のように思えてしまい、色々とフォローしてあげていたっけ。
そんな彼女も、あの頃で既にレベル20。支援職でありながら戦闘職の俺なんかよりよっぽど強い。
俺を庇ってくれているからと言って、あのパーティーに俺が残り続ければ、他のメンバーからのヘイトは消えない。
以前、別のパーティーに無理やり居座った結果、ダンジョンの最深部に置き去りにされたことだってあったんだよ。……あんなの、もはや殺人未遂罪だよ!
ただ、俺の「運」はSランク。
命からがら、文字通りの奇跡で生還を果たしたのだった。
……うぅ、ちょっと泣いていいか?
畑の真ん中で涙を堪えていると、
「エイちゃん。また泣いておるのか?」
「ユキちゃん……! な、泣いてなんかないもんね!」
「そっか。まあ、良いが」
「ユキちゃん、どうしたの?」
「いや、儂はお腹が減った。ラーメンが食べたいのじゃ」
パスタも良いが、やっぱりラーメンだそうだ。
「わかったよ。今日はネギをたっぷり入れよう」
「おぉ〜! わかっておるではないか〜!」
二人で顔を見合わせて笑い合い、仲良く手を繋いで家に入っていく。
――畑の隅で、ひとりの少女が【隠蔽】スキルを使って身を潜めているなんて、夢にも思わずに。
◇◇◇
(……。ひ、独り言……かなぁ……?)
草むらの中で、息を殺してそれを見ていたシーナは呆然としていた。
一人であんなに身振り手振りを交えて喋って、笑って……。
(やっぱりエイガさん、パーティーを追い出されたショックで変になっちゃったのかなぁ……)
だけど、じっくり観察してみて、ふと気づく。
(でもでも……なんか以前より日焼けして、引き締まってカッコよくなってない!?)
ドキン、と胸が高鳴る。
(ヤダ……やっぱり好きかも……)
どうしよう、とパニックになりかける。
「こんにちは」って、素直にお家に入っていきたいけれど……。
『誰?』って冷たく言われたら。
『帰れ』って追い出されたら。
悲しくて泣いちゃうよ。
(でも……あのパーティーから追い出すなんて、酷いことしちゃったから……)
ギュッと胸の前で拳を握りしめる。
(お願い。あのパーティーのことは嫌いになっても、私のことは嫌いにならないで……!)
(……って、違う! 私のことは嫌いになっても良いから、元気に生きていてほしかったんだよーーっ!!)
すぐに泣いちゃうって思うのは、エイガの影響か、似たもの同士なのか⋯。




