70.涙の再開
「俺達が合流して姫路城攻略に入るのは良い。ユキちゃんとシーナちゃんも賛成してくれている」
ダンジョン協会での打ち合わせに来ていた。
出席者は、【瑛沙の東翼】のメンバーである東悟、沙織、翼の3人。
【雪の使徒】からは、なぜか俺一人。
あとは協会の偉いさん達だ。
「三雲。何かあるのか?」
ダンジョン協会の会長兼、ダンジョン学園の校長がこの会を取り仕切っている。
「いや、今住んでいる家を3日以上空けるのは不安なんです」
「家に何かあるのか?……そうか、三雲が急に強くなった理由があるのか?」
「いや、田んぼとか畑をやってて、本当は毎日世話しないとダメなんですけど……」
「なんだよそれは……つまりそういう事か……」
流石は協会会長。「詮索するな」との意図が伝わったようだ。
「そういう事です。諸々の事は話せないんです」
◇◇◇
ユキちゃんのこと、ユキちゃんのダンジョンのこと、シーナちゃんの称号のこと、農作物の経験値のこと。
協会に報告できないことばかりだよ。
3人で話し合って、パーティメンバーだけの秘密にすることにしたんだ。ユキちゃんに称号をねだる人や、農作物が評判になって「分けてほしい」とか言う人が殺到しても困る。
称号はユキちゃんが心を許した人じゃないとダメだし、農作物は俺たちの貴重な経験値だもんね。
◇◇◇
「了解した。三雲らはもはや貴重な戦力だ。姫路城も日帰りで問題ない」
「えっ、日帰り!? どうするんだよ?」
ここからは500kmくらいあるよね?新幹線で3時間くらいだっけ⋯
「アレだよ」
協会会長……俺からしたら校長の方が馴染みがあるが、指さした窓の外にはヘリポートの様な広いスペースがあった。
「お前ら超級パーティがダンジョンへ潜ったら、協会に入ってくる利益は一億はくだらねえ。さらに姫路城ダンジョンクリアの暁には、国が潤うほどの資源が採れるはずだ!」
「そうなんだ……」
「しかもお前のパーティには椎名がいるだろ? 『万能荷役』の」
「あ、いや。まあ……」
シーナちゃんは「くノ一」に転職しちゃってる……。
けど、ストレージはレベルが上がって今や10tトラックよりも運べるから、まあ良いか。
万能荷役としての能力は引き継いでるしね!
「だから協会としてもお前らにも行ってもらいたいんだよ。アレで送り迎えしてやる」
アレと指した先には、垂直離陸できそうなプロペラの輸送機……。凄いな。
「あとは探索者同士で決めてくれ」
◇◇◇
「その……なんだ。そういう理由らしいから、よろしく頼むよ」
瑛沙の東翼の3人に挨拶する。
「なんだよ! 『そういう理由』って……でも、おかえり、エイガ」
東悟……「おかえり」なんてヤメてくれ。泣いてしまう。
「まあ、三雲君の場所はずっと空けてたからね」
そうだよな。【瑛沙の東翼】は1人少ないメンバーで頑張ってたんだよな。
……だから泣くから、そういうのヤメてくれって。
「エイガ……待ってたんだから……」
泣き崩れるサオリ……声になってないよ。だから泣いちゃうんだって……。
「ぶふぇえ〜っ!(お前ら泣かすんじゃねえ!)」
うわ、俺マジで泣いちゃってるよ。
バタンと扉が閉まる音。
協会会長が気を利かせて偉いさん達と出て行ってくれたみたいだ。
会長……先生も、俺達が卒業してからもずっと見守ってくれてたんだよな。
閉めた扉の外で、
『―出来の悪い教え子を持つと苦労するぜ』
と呟いているんだろ?
だから泣かすなって……。
◇◇◇
4人で腕を取り合った。みんな泣いていた。
あの日、初級ダンジョンボス討伐に失敗して俺は抜けた。俺が足を引っ張っていたからだ。
俺が抜けた後、コイツらは紆余曲折を繰り返して、日本でも数えるほどしかいない超級パーティにまで成長した。
【瑛沙の東翼】という俺が付けた名前も変えず、欠員の補充もせず、俺がいつか帰ってくると信じて……。
俺は底辺で泥水を啜るような生活を繰り返して、一度は引退したけれど、ユキちゃんに会ってレベルが上がって、シーナちゃんっていう頼れる仲間に会って(……愛も知ったね)、ようやく追いつけた。
岩沙と東は引退したけれど、これからもサポートメンバーとして助けてくれるらしい。
せっかく瑛雅が戻ってきたから、何かしたいとのことだ。
岩沙は斥候職。シーナちゃんの良い手本になってくれそうだ。
東は姫路の拠点の管理だと。妊活中らしいし、無理はしないんだって。
◇◇◇
「パーティ名、どうするか?」
ひとしきり泣いたあと、東悟が言った。
「『瑛沙の東翼』のままでいいんじゃねえ?」
俺がそう言えば、うまく収められる気がする。「雪の使徒」というパーティ名に未練はないしね。
「それだと、ユキちゃんと椎名さんはどうするの?」
それについては話してある。
ーーー
「『儂はもはやエイちゃんのものだから、【瑛】に入っておるぞ』」
とユキちゃんは、ちょっと意味のわからない感じだったけど、
「『私も……エイガさんのだから……』」
と照れるシーナちゃんはめっちゃ可愛い。
ーーー
「というわけだから大丈夫だよ」
4人は立ち上がり、みんな希望に満ちた顔をしていた。
◇◇◇
……4人で腕を取り合って泣いていた時。
サオリの大きな胸に手が当たって、
(ナニコレ、柔らかっ、デカっ、すごっ、ウホッ!)
と「ゲスエイガ」となってしまったのは絶対に内緒だ!
……ユキちゃん連れてこなくて良かった。
(心読まれるからね!)
こんな時まで、ゲスエイガになってしまいましたが⋯。
まぁ良いでしょう。




