5.ダンジョンのレベルをあげると成長します。
それから、俺はユキちゃんと縁側に並んで座り、じっくりと話し込んだ。
ユキちゃんが語った内容は、どれも驚くべきものばかりだった。
なんとオジイの畑は、この世界にダンジョンが生まれる遥か昔から、すでに「ダンジョン」として存在していたらしい。
そしてユキちゃんは、その畑の主――つまりダンジョンマスターとして、1000年以上も昔からここに鎮座しているのだという。
「お主の世界の伝承に『座敷わらし』というのがあるじゃろ?」
「ああ。家に住み着いて、家主に幸福をもたらすっていう女の子の妖怪だろ?」
「うむ。儂は、大体そんなような存在じゃな。儂が気に入った人間の前に姿を現し、この畑の管理を託すのじゃ。座敷わらしも、気に入った人間の家に住み着くというしの」
多少……というか、だいぶ話し方がジジくさい。
だが、目の前にいるのは文句なしの美幼女だ。見た目と中身のギャップが凄まじい。声が鈴を転がしたように可愛いものだから、余計に脳がバグりそうになる。
「……ってことは、ユキちゃんは子供の頃の俺を気に入ってくれたってことか?」
「そうじゃよ。おぬしに『勇者』の称号まで与えてやったというのに、ある日どこかへ行ったきり戻ってこん。一体どこで油を売っておったのじゃ?」
えっ。勇者って、ユキちゃんがくれた称号だったんだ。
「いや、学校とか、その後のダンジョン探索とかで色々と忙しかったんだよ。それに、中学に上がったくらいからユキちゃんの姿が見えなくなっちゃったし」
「ふむ……おぬし、その頃あたりから他のおなごに『邪な気持ち』を抱き始めておらんかったか?」
「ん? よこしま……? いや、そんな思春期特有のムラムラは、まあ、多少は……あったかもしれないけど……」
ジト目を向けてくるユキちゃんから、思わず視線をそらす。
「まあ、よいじゃろ。お主の爺さんの瑛達が、ある時期から儂と会えなくなったのも、まあ、そういうことじゃしな」
……あ。それってつまり、オジイがおばあちゃんと出会って恋に落ちたからってことか。
って、うわ。待てよ?
ということは、俺がユキちゃんとずっと一緒にいるためには、このまま一生チェリーボーイを貫かなきゃいけないってことか……!?
「案ずるな、エイちゃん。お主はもう大人になって、自力でクエストを達成して儂に会えたのじゃ。今後お主がどれほど邪な思いを抱こうと、儂はもう消えんし、ずっとここにおるぞ」
なるほど、消えないのはありがたい。
ありがたいが、俺は30歳を過ぎてリアルに『勇者のままで本物の魔法使い』になってしまった男だ。でもまだ男としての夢は捨てたくない。
「うむ? なんじゃ、その複雑な顔は……。もしかして、お主、そのトシで未だに……」
「あー! うるさい! ほっとけって!」
核心を突きそうになったユキちゃんを慌てて遮る。
「くすくす。まあ、儂がもう少し大人の姿であれば、お主の相手をしてやれんこともないのじゃが……。お主にそういう『特殊な趣味』があるのなら、今この姿のままでも構わんぞ?」
「いやいやいや! 構うわ! 俺は断じてロリコンじゃねえからな!?」
確かにユキちゃんはめちゃくちゃ可愛いけれど、これで一線を越えたら社会的に死ぬ。
「ろりこん? ああ、幼女趣味のことかの。ふむ、それならば……そうじゃ。エイちゃん、このダンジョンのレベルを上げてくれんか?」
「ダンジョンのレベル?」
現役時代にも聞いたことがない単語に、俺は小首を傾げた。
「どうやるんだ? と言っても、俺は自分のレベル上げすらままならない無能なんだけど……」
「そうじゃのう。儂も以前は『このままでいいか』と思っておったのじゃが、このままでは色々と不都合があってな……。まあ、まずはお主のレベル上げが最優先じゃ」
「それで、ダンジョンのレベル上げって具体的にはどうするんだ?」
「他のダンジョンを完全に攻略した際、その最奥で『ダンジョンコア』というものが手に入るじゃろ? それを儂に捧げれば、この畑の経験値となり、ダンジョンが進化するのじゃ」
「他所のダンジョンのコアを、ユキちゃんに捧げる……」
なるほど。つまり、この家庭菜園ダンジョンを大きくするには、外の世界のダンジョンをクリアしてコアを持ってこい、ということか。
だけど、今の俺の実力じゃ、他のダンジョンをソロ攻略するなんて夢のまた夢だ。やっぱり、まずはこの畑で徹底的にレベル上げをするしかない。
「……ちなみにさ。ダンジョンのレベルが上がったら、ユキちゃんも成長したりするのか?」
「うむ。それはもう、お主好みの豊満な肉体になること間違いなしじゃ!」
「よし、レベル上げ頑張ろう」
即答してしまった。
今まで一度も見えなかった、文字通りの『魔法使い卒業への道』が、まさかこんなところに転がっているなんて。これは進む一手しかない。
「うむ? なんじゃ、急にやる気を出しおって……。まあ、儂の豊満な肉体のためにも、まずはその……緊急の栄養補給をだな……」
「ん?」
そう言ったユキちゃんのお腹から、ぎゅるるる……と可愛らしい音が鳴り響いた。
どうやら、お腹が空いていたらしい。1000年生きるマスターでも腹は減るようだ。
ひとまず、キッチンから買い置きのカップラーメンを持ってきて、お湯を注いで出してあげる。
数分後、「ふーふー」と熱そうにしながら、美味しそうに麺をすするユキちゃん。
うん、今のままでも十分可愛いけれど。
もし本当に彼女が成長して、俺も強くなれるのなら――。
俺は目の前でジャンクフードを頬張る未来の美少女(予定)を眺めながら、この不思議な畑で世界最強を目指すことを、静かに心に誓ったのだった。
ちょっと強引でしたが、物語の方針が決まりました。
レベル上げして、ダンジョン攻略して、ユキちゃんが成長して、イチャイチャする!
あ、違ってて、探索者として1人前になる!




