4.ダンジョンマスターのユキちゃん
子供の頃、俺は長期休みになるたびに、よくこの祖父の家に遊びに来ていた。
畑からは、いつも驚くほど美味しい野菜が採れた。オジイの作った野菜は不思議な魔法でもかかっていたのか、重度の野菜嫌いだった俺でも、なぜかパクパクと美味しく食べることができた。
ここでの虫捕りや川遊びには、都会のゲームでは決して味わえない泥臭い楽しさが詰まっていた。
けれど、今になって思い出してみると――俺はここで、一人で遊んでいたわけじゃなかった。
ゲームより楽しいと思えたのは、いつも『あのコ』が一緒にいてくれたからだ。
ここへ来ると、いつだって一緒に遊んでくれる近所のお姉ちゃんがいた。
そのお姉ちゃんは、数年経つと俺と同い年の女の子になり、さらに年月を経て俺が中学生になる頃には、まるで妹みたいな年齢の見た目になっていた。
そう、あの娘は、出会った頃からまったく成長していなかったのだ。
今思えばあまりにも奇妙で不可解な話だが、子供だった当時の俺は「田舎ってそんなものなのかな」と純粋に受け入れていた。
初めて、そのコと遊んだ日のことを覚えている。
『ジーちゃん! 今日ね、ユキちゃんって子と遊んだよ!』
『ユキちゃん……? そんな娘、この近所にいたかのう?』
『うん、あのコだよ! あれ? ……いなくなっちゃった』
俺が指さした先を見つめ、オジイは少しの間、何事かを深く考え込むようにして呟いた。
『……そうか。エイちゃんには、見えるか。そうか、そうか……』
『ん? ジーちゃん、どうしたの?』
『いやな、主様……いや、ユキちゃんと言ったかの? エイちゃん、そのコと仲良くしてな』
『うん! 俺、ユキちゃん大好き!』
『そうか、そうか……。なら、良かった』
それ以来だった。夏休みや冬休みになるたび、俺は必ずこの家に足を運び、ユキちゃんと遊ぶようになった。
オジイが遺言状で、親戚一同を差し置いてこの家の管理人に俺を指名したこと。それは今思えば、あの不思議な女の子・ユキちゃんと何か深い関係があったのかもしれない。
◇◇◇
「……さて、すっかり日も暮れちゃったな。家に入ろう」
ダンジョンマスターの事はさておき、このタイミングでなぜか思い出した「ユキちゃん」と、小さく呟いてみる。
この家に帰ってくると、どうしても当時の記憶が鮮明に蘇る。中学に上がったあたりから、なぜかパタリとユキちゃんとは会えなくなってしまい、それと同時に俺もこの家へあまり来なくなってしまった。
けれど、幼い頃の少し不思議で、温かい大切な思い出として、この家とユキちゃんのことは今でも俺の心に残り続けている。
ふと、我が家の縁側に目を向けた。
「……あれ?」
暗がりの中、縁側に小さな人影がぽつんと座っているのが見えた。
丈の短い着物を身に纏った、7〜8歳くらいの女の子だ。
「エイちゃん。呼んだか?」
鈴を転がしたような懐かしい声が、夜の静寂に響く。
その顔を見て、俺は息を呑んだ。
「ユキちゃん……?」
「おお! 儂の事、ちゃんと憶えていてくれたか!」
満面の笑みを浮かべて立ち上がったのは、あの頃から10年以上が経ったというのに、何一つ、一ミリの狂いもなく当時のままの姿をしたユキちゃんだった。
ユキお姉ちゃん。ユキ。ユキちゃん。
俺の成長とともに呼び方は変わっていったけれど、彼女だけはあの日のまま、ずっと変わらない。
「本当に……やっぱり、ユキちゃんだ……!」
嬉しい。理由も理屈もどうでもよくなるくらい、素直に歓喜の感情が胸の奥から湧き上がってくる。
「儂もまたおぬしに会えて嬉しいぞ! エイちゃんが大きくなって、儂のダンジョンに帰ってきてくれるなんてな」
「……え?」
嬉しさに浸っていた俺の思考が、一瞬でピキリと凍りついた。
いま、なんて言った? 儂のダンジョン……?
脳裏をよぎるのは、さっきハチの巣をマグナムジェットで爆破(駆除)した直後に端末に届いた、あのクエスト報酬のシステム通知。
『特別報酬:ダンジョンマスター出現』。
「っえ? えええええっ!? ユキちゃん、君……ダンジョンマスターだったの!?」
俺の叫び声が、夜の田舎の庭に虚しく響き渡った。
ダンジョンマスターは幼女でした。
これからよろしくです。




