34.シーナちゃんからのご褒美
【椎名 薫】
あの日もお祭りだったな。
ダンジョン災害が落ち着いて、日常を取り戻した頃。
助けてもらったお礼にと施設の夏祭りに、あのパーティを招待した。
「ありがとうございました!」
みんなで挨拶して、歌なんかを披露する。
「では、ゆっくりしていってください」
と施設長が言うと、施設の子どもたちが学生パーティに群がる。みんな、モンスターを追い払ってくれた格好よかったお兄さんやお姉さんに話を聞きたいし、遊んでほしい。
あ、あのお兄さんだ。
ポツンと一人でいるお兄さんを見つけた。
確かに戦っている姿、カッコよくなかったもんね。
でも、私には命の恩人だし、あれ以来、あの笑顔が頭から消えなくなった理由と、あの雷に打たれたような衝撃の正体を知りたい。
「こんにちは」
勇気を振り絞って声をかける。
「あ、キミは……大丈夫だった?」
「おにいさんこそ、ケガしてた」
「大丈夫だよ。回復魔法あるからね」
おにいさんは、ニカッと笑って答える。なんか身体が凄く熱くなる。
誤魔化すように手を取って、施設を案内しながら、輪投げとかスーパーボールすくいとかの屋台に連れて行く。
おにいさんは楽しそうに遊んでくれた。
私はただドキドキしてたけど……。
私の事はみんなが「しーちゃん」と呼んでいたので、おにいさんも「しーちゃん」って呼んでくれた。
「おにいさん。おなまえ」
「あ、オレ? エイガだよ」
「エイガさん。おれいしたいです」
女の子のお礼って言ったら、ミーちゃんが言ってたもん。やらないと。
「ん? そんなの良いよ。一緒に遊んでくれたから十分だ」
私の視線に合わせて、かがんで言ってくれる。
あの頃から優しかった。
でも、これなら届く。
ほっぺにチュッとして、
「わたし、エイガさんのおヨメさんになる!」
ミーちゃん。お礼ってコレで合ってるよね……? めっちゃ顔が熱いんだけど……。
◇◇◇
あの時は、エイガさん笑ってくれたな。
「大きくなったらね」って言ってくれたの、忘れない。
あの頃は、手も自然に繋げたし、ほっぺにチュウだってした。
高校生でダンジョン学園に行って、ストレージを持つ荷役兼斥候職として自分が割と役に立つと言うことがわかった。そして、募集中のパーティにエイガさんがいる事を知って、歓喜したけれど……。
再会したエイガさんは、相変わらずカッコ悪くて、カッコ良くて、でも私の事は全然覚えてくれてなかった。
「椎名薫です。しーちゃんです!」
って自己紹介したのに、
「しーちゃ?……あ、シーナちゃんで良いのかな? 三雲です。よろしく」
だって。もうっ……!
そして、今……。
椎名は小柄で大きくはなれなかったかもしれないけど、大人にはなったからね。
お嫁さんになるって約束、思い出してほしいな!
手を伸ばさなくても触れ合える距離。
必要なのは、少しの勇気だけ……。
◇◇◇
【三雲 瑛雅】
神社の前まで来て立ち止まった時、不意に手を掴まれた。
「エイガさん。行きましょう」
シーナちゃんが手を掴んできた。ビックリしたけど、悪くないかな。
以前行った、とある施設のお祭りでも、女の子がこうやって連れ回してくれたっけ。
お礼って言って、ほっぺにチュッとしてくれたっけな。お嫁さんにする約束までしちゃったよな。
でもあれが、俺のモテ期のピークだったよ。
ふふんっ、もう泣いちゃうよ。
手を繋いで神社を散策して、リンゴ飴食べたり、金魚すくいしてみたり……。
金魚か、ダンジョンで養殖池ってのはアリだろうか?
経験値サーモンとかどうでしょうか……。
今度ユキちゃんに聞いてみようかな。でも、まずは稲作だけど……。
「もう。私とデートなのに、なんか違う女の人の事考えてません?」
「え? 考えてないってか、ユキちゃんはノーカンだよね」
「むぅ、やっぱり……。手強いライバルだわ」
「えっと、まあ仲良いとは思うけど、同じパーティメンバーだから仲良くね」
シーナちゃんのほっぺが膨れて、またそれも可愛い。
「そう言うことじゃないんです! もう良いです」
あれ? なんだか拗ねてる?
「わかった。パーティに入ってくれたし、畑仕事手伝ってくれるし、お礼兼ねて今度どこかにお出かけしよう!」
「デートですね?」
「うん。まあ、そうなるかな」
パァっとシーナちゃんの表情が明るくなる。
……こういうのなんて言うんだっけ。
チョロい?
シーナちゃんが俺を見上げて、
「私だって、ストーカーやっつけてくれたり、エイガさんには滅茶苦茶感謝してるんですよ」
お祭りは賑やかで、シーナちゃんの声が小さくて聞き取りにくい。
「ん、どうしたの?」
聞こえるようにちょっとかがむと、
「エイガさん。お礼したいです」
どっかで聞いたことがあるセリフと⋯
チュッとほっぺに生暖かい感触――
クっ!
くたばれエイガ!




