19.椎名の事情
「めちゃくちゃ美味しかったよ。ごちそうさま!」
「ふふ、喜んでもらえて良かったです!」
「あ、じゃあさ。お礼にまた野菜をプレゼントするから、ウチに寄っていってよ」
そう言うと、シーナちゃんはパッと目を輝かせた。
「えっ、良いんですか!?」
「おう。じゃあ車に乗って。ユキちゃんも帰ろう」
「うむ。椎名、ご飯美味しかったぞ。また作ってくれるかのう」
車の中でも和気あいあいと会話に花が咲く。……うーん、楽しいなぁ。
最近はユキちゃんと2人きりだったからなぁ。まあ、それも静かで良かったけれど、もう一人賑やかな子がいるとやっぱり明るくて良いね。
でも、ユキちゃんが居てくれなかったら、俺は今頃ずっとボッチだったと思うとゾッとするな……。
移動中、こんな会話もした。
「エイガさんの家って、すごく大きいですよね。何部屋あるんですか?」
大きいのは、まあ田舎の古い家だからね。おかげで掃除が大変なんだ。
「分からないなぁ。数えたことないや。ちょっと待ってね……えっと、10部屋くらいはあるぞ」
改めて数えてみると、使っていない部屋ばかりだ。
「へぇ~! 凄いですね! それならパーティーメンバーで一緒に住んで、拠点にすることもできそうですね!」
「おぉ、そうなったら賑やかで楽しそうだなぁ」
なんて、俺はすっかり「仮定の話」をしているつもりだったのだが――
「私も、今はパーティーメンバーですよね?」
「そうだよ。今日一緒にダンジョン攻略したじゃん」
「じゃあ……私だって、住む資格アリですよね!?」
「ん? 資格? そんなの有っても無くても、シーナちゃんなら大歓迎だよ」
「やったー! 良かったです!」
「シーナちゃんのお弁当めちゃくちゃ美味しかったし、もしここがパーティーの拠点になったら料理番をしてくれると、ユキちゃんも嬉しいよね」
「うむ! アレは美味かったし、よきにはからえ!」
ユキちゃんも嬉しそうだし、本当にそうなったら良いなぁ……なんて、俺は呑気に考えていたのだが。
……まあ冷静に考えて、ユキちゃんはダンジョンマスターという普通の人間じゃない神様みたいな存在だし、おじさんの一人暮らしの家に、うら若き乙女が一緒に住むなんて現実的にあり得ないよな。
将来的に複数人でパーティーを組むようになったら、シェアハウスみたいにするのはアリかもしれないけれど。そうなったら、もっと賑やかになって楽しそうだ。
◇◇◇
我が家に到着し、玄関を開ける。
「お世話になりまーす!」
と挨拶するシーナちゃん。
(……普通は『お邪魔しまーす』じゃないのかな?)と、うっすら違和感を感じてはいたのだが……。
「お茶でも淹れるよ」
なんて言いながら台所へ向かおうとすると――
「えっと……空いているお部屋、ありますか?」
と聞かれた。着替えでもしたいのかなと思い、俺が使っている寝室の隣の空き部屋へと案内する。
「へぇ~! なかなか広いですね!」
田舎の部屋だからそこまで広くはないのだが、6畳の部屋も家具が何も置いていないと広く感じるものだ。
「じゃあ、リビングで待ってるね」
「あ、はい! ちょっと荷物を広げますね」
シーナちゃんはそう言うと、ストレージから旅行で使うようなスーツケースを取り出した。
ストレージってやっぱり便利だよね。
「ちょっと大きいの出しますので、気を付けて離れていてくださいね」
俺の位置を気にしながら気遣ってくれるシーナちゃん。
……って、大きいって何を出す気だよ!?
スッと出された大きなマットが部屋に敷かれたかと思うと、次の瞬間、ベッドとチェストがドーンと配置された。
さらに鏡やらハンガーラックやら何やらがドンドンと並べられていき――ものの数十秒で、シンプルながら完璧に可愛い「女の子の部屋」が出来上がってしまったのだった。
……引っ越し屋が失業しちゃうな、これ。ってそんな事を考えている場合じゃない。
「さ、行きましょうか!」
何食わぬ顔で爽やかに言うシーナちゃん。
「あぁ、うん。そうだね……」
と、返事にならない返事を返すのが精一杯だった。
何だかすごく嬉しそうなシーナちゃんを見ていると「まあ、良いのかな……」なんて流されそうになるのだが――
「えっと……ここに住むって、本気だったの?」
「はい! ……あれ? そういうお話ではなかったでしたっけ!? ええっ、あれ……じ、冗談だったんですか……!? どうしよう……っ」
シーナちゃんの表情が途端に曇り出し、今にも泣きそうになってしまう。
「あ、いや! 親御さんとかは大丈夫なのかなって……」
「私、もう成人してるんですよ! 高校を卒業してから、一人暮らししていましたので……!」
「そうなんだ。なら良いのかな……」
「それにあの……前のパーティーのリーダーに家までバレちゃって……部屋、引き払って来ちゃったんです」
なんと、ストーカー被害を受けて家を引き払ってきたらしい。
それならまあ……匿ってあげるのも仕方ないよね!
……なんて自分に言い聞かせているけれど。
シーナちゃんみたいな可愛いコがこの家に住んでくれることに、明らかに俺の心は弾んでいたのだった。
シーナちゃんの家庭環境をどうしようかと思ってましたが、ダンジョン災害の孤児で他に頼る人がいないらしいです。
小さい頃、エイガに助けられた話を何処か(10話くらい後かな)に入れ込もうかと思ってます。お楽しみに。




