四話「俺はお前で、俺の本体や他のみんなはどこだ?」
ひんやりと湿った部屋。その上に引かれる布団。その上で私たちは寝ていた。宿に入って客人も店員もいなかった。ユリさんが「許可は取らないと罰当たるのでは?」という声を聞いていたが、アルファが「たまたまいないんだ。まっ、何かあればその時はその時だ。自分の身は自分で守れっていうやつだろうよ、これ」と言っていたので私たちはそれに従ったまでである。飯は元の世界で言うカップ麺が焼きそばやラーメンなど豊富に備蓄されていたので給湯機を使って湯を温めて鳴いていた腹を鎮めてやった。シャワー室やトイレは部屋ごとにあったのでそれを使用した。そして寝る前から怖がっていた彼女も落ち着かせてから部屋の襖を引いて布団を引いた。壁のところに貼られたお札のことなど無視をして。
そして太陽の光を浴びた現在。私の周りには誰もいなかった。いや、寝ている布団は確かに人数分ある。だが、その上には私以外誰も寝ていないのだ。外にでも行ったのかと思って昨日アルファが無理矢理引っ張って閉めたカーテンを開けてみる。そこには人がゆらり歩いていたが、アルファたちの姿は見えない。歩いている人は何かがおかしいことに不思議に思ったが、それよりも窓にある赤黒い文字に気が付いてしまった。文字の内容はこうである。
『黄金の剣を持って墓に来い
懐かしき待ち人より』
懐かしき待ち人……。誰のことだろうと思ったが、墓と言うとやはり昨日見たあの墓の一列のことだろう。私はそう思い、後ろを見るとくらっとふらついてしまった。そして布団に両膝が付くと同時に墓場で誰かが両膝を付いて泣いているのが分かる。だが、墓はここの墓ではなく元いた世界の墓の形だ。それに名前が見えないし泣いているのが男なのか女なのかも分からない。ただ一つだけ言えるのが、”この人に会ったことがある”と言うだけである。
倒れた拍子に自分の体を見てみる。メイド姿に何やら胸が膨らんでるのか分からないが、下の視界が見えない。私はもう一度立ち上がってみる。
「なーんだ、ダメイドいるじゃん。ははははは……は?」
私は窓に反射された自分の薄らとした顔を見て驚く。そしてその声で言う。
「なんじゃこれー!!」
どうやら、私はユキさんと体が入れ替わったらしい。私は服の襟を緩めて本物の胸を見たり、パンツの中身を見る。彼女の麗しきアレらが姿を覗かせる。見るだけで触るのはやめた。そして脱いだ部分をしっかり着て私たちが泊まった二〇一号室を出て階段を降りる。この建物が何階まであるのか、奥の部屋が何号室まであるのかは知らない。ただ桃姫さんが「どうしてもここがいい」という言葉を聞き入れて満場一致でここにしただけである。この部屋以外に誰もいないのだろうか。それほど静けさのある階段を黄金の剣を持った私は急ぎ足で階段を降りるのだった。黄金の剣がいつもより少し重く、階段の下が見づらいことを嫌に思いながら。




