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室町ひょうすべ拾遺1  作者: ずずつすず
彷徨の終わり
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滞留

 義興は、二月に帰国の意志を伝えていた。だが、まだ出立せぬ三月十七日夜、大変なことが起こった。

 義稙が消えたのだ。

 彼は、わずかな供のみを連れて、近江国甲賀に出奔した。当時の関白・近衛尚通の日記によれば、義稙は細川髙国や義興に不満があり、それがこの突如の出奔につながったのだという。

 この「不満」が何だったのか、はっきりとしたことは分からない。義澄という政敵が消滅し、四大名間での団結に綻びが生じていたともいう。

 ただ、ここまで見てきた限り、義稙という人物にはどこか、峻烈なところがある。

 冷徹、そういいかえてもいい。

 (二度と、細川政元を出すわけにはゆかぬのだ)

 そういう機微があったのではないだろうか。

 (京兆家であろうと、大内氏であろうと、畠山斯波氏であってもだ

 (足利将軍家を忽せ(ゆるがせ、なおざり)にはできぬのだ)

 当然、四大名はパニックに陥った。翌十八日、政所頭人・伊勢貞陸(さだみち、貞宗の嫡男)の邸宅に集まり、善後を協議する。

 結果、義貞に改めて忠誠を誓い、帰京をこいねがうことになった。

 四月三日、義稙は四大名に「七ヶ条の条件」を突きつけた。ーーどこかで見た流れである。政元と義澄の不和だ。

 『文亀元年(一五〇一)正月、二人の不和が高じて、月末になっても政元は出仕しないという事態になる。

 『その後、政元は出仕するようになるが、二人の対立は解消されなかった。

 『それから一年、文亀二年(一五〇二)二月十七日、政元は家臣・安富元家(安富氏は紀氏末裔、紀氏は武内宿禰子孫)の宿所に赴くと、そこで隠居と称して引きこもるようになる。

 『仕方なく、義澄は、当時政元が滞在していた宇治・槙島城に自ら足を運び、政元を説得。

 これで、ようよう政元もかんがえなおし、四月二十五日に上洛した。

 『その後、二人はまた、百四代後柏原天皇の即位礼費用の献上をめぐって対立する。

 すると、八月四日、今度は、義澄の方が、隠居すると言って金龍寺(京都高倉)に出奔、今度は政元が慰留に乗り出す。

 ・金龍寺にやって来た政元に、義澄が七ヶ条の要求をつきつける。』

 これだ。そして、こうなる。

 『そこには、義材の異母弟義忠の殺害が含まれていた。

 『・政元が七ヶ条の要求を容れ、足利義忠を殺害する。』

 政元は、義澄の要求を受け入れ、義材(義稙)の異母弟・足利義忠を殺害した。

 あの権勢家の政元さえ、義澄の出奔には屈した。当の弟が殺された事件であり、周防にいた義稙も衝撃を受けただろう。

 この、彼にとってもっとも衝撃的な事件と、同じことをした。有無を言わさず「七ヶ条の条件」を呑ませるつもりだったのだ。

 是非、七ヶ条の条件の詳細を知りたいが、残念ながら伝わっていない。ただ「諸事不可背御成敗之由申入云々」四大名は、将軍の御成敗(指図)に背かぬ旨、誓紙で提出している。

 おそらく、七ヶ条の条件には、義稙の下、四大名が平等に従い、尽くすよう、上下関係も自分との遠近もないのだとしたためられていたのだろう。

 義稙は、執拗だった。徹底していた、四大名が誓紙を提出しても、まだ甲賀に留まった。ーー出奔したり脱出した人間が、やたらと甲賀に行き着いているようだ。やはり交通の要所だったのだ。

 義稙が京に戻ったのは、五月三日、突然の出奔から、一ヶ月半が経過していた。四大名は、五月一日に近江国大津・坂本まで自ら出向き、これに応える形で、義稙の帰京となった。

 四大名に謝りに来させているわけで、やはり、金龍寺に籠もっていた義澄を迎えに来た政元の「故事」に倣っている。義稙の入京は、三万の軍勢を引き連れた、盛大なものになった。「大樹御歸洛也(中略)人數三萬餘人計(ばかり)歟(や・か、反語・推測・感嘆)、見物衆如竹葦云々」これだけの軍勢を引き連れ、四大名を引き連れているのだ。将軍職を継いだ当初、おのれの権威を発揚するために第二次六角氏討伐をやった人物である。

 竹や葦の如く群がる見物衆のなかを帰京したわけで(いや、敵わぬ)四大名は、そんな風に思ったかもしれない。

 

 さて、その後、四大名並立制はしばらく波風もなく運営される。

 だが、永正十年(一五一三)十月、畠山義元の領国能登で、家臣の反乱が起こり、彼が帰国している。

 (二郎〈義元〉めに先を越されたわ)

 まだ、義興は帰国していない。


 


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