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室町ひょうすべ拾遺1  作者: ずずつすず
北条早雲伝上
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伊勢新九郎異聞~戦国大名の第一人者~

 堀河御所を襲撃してから、茶々丸自害まで追い詰める五年間、新九郎は伊豆半島にばかり向き合っていたわけではない。新九郎は、生涯、今川家の家臣という立場を保った。明応三年(一四九四)茶々丸が伊豆半島に逃れ(これは長い戦いになる)新九郎がほぞを固め始めた時期だろう。

 今川家の武将として、駿河から西へ侵攻、遠江の中部まで切り取っている。

 (まだまだ、わが足元は心許ないわい)

 ーーこのあたりの細心さは、さすが官僚上がりだ。あくまで、おのれは義澄からお墨付きで茶々丸を追い、その立場も兵力も今川家あってのものだ。それを心得ているからこそ、龍王丸改め氏親の治政を安定させるために奔走する。

 度外れた野心を抱く。

 そのために、おのれの骨を砕くほどに忙しく働く。

 まちがいなく、戦国大名の第一人者だ。

 この今川家の兵を率いて遠江・三河を制圧していく過程で、大道寺氏や多米氏といった「御由緒六家」となる重臣たちをリクルートする。

 等身大の人間の輝かしさがある。

 

 同じく明応四年(一四九四)には、関東で山内上杉家と扇谷上杉家との抗争が始まった。非常に素人くさいことを言わせてもらえば、上杉家というのは、ややこしくして仕方ない。山内、扇谷、越後、犬懸、宅間と分かれ、そもそも関東情勢が鎌倉府と室町幕府、古河公方と堀越公方と陣営が二分されているため、どっちがどっちについているのか錯綜している。

 もともとは、上杉氏は、観修寺(かじゅうじ)流藤原北家(名家)末裔で、鎌倉時代に、宗尊親王、あの、元寇に際して廃された、源姓「惟」字将軍・源惟康の父

 その関東下向に従って京都からやって来た一族だ。

 それが、当時将軍家御門葉として代々北条氏を娶っていた足利氏と縁組みし、六代足利太郎家時や八代又太郎尊氏、直義らの母親を出したことで、運命が変わった。

 尊氏にとって、自分の母親の一族であり、おろそかにするわけにはいかない。ーーそれに、尊氏・直義兄弟の異端児たる由縁ながら、アイデンティティーではないか。

 そんな上杉氏を、関東管領という形で、分かちがたく鎌倉府に、鎌倉公方に結びつけたあたり、作者としては尊氏の感傷をかんじる。

 この上杉氏は、山内上杉氏が嫡流であり、そこから、それぞれ屋敷のあった土地を呼称とした犬懸、宅間、扇谷の三家が出た。ーー上代の、藤原不比等の子供たちが、その屋敷や役職から南家(北家の祖宅より南に位置していたため)北家(南家の祖宅より北に位置しいていたため)式家(家祖が式部卿)京家(家祖が左京太夫)の四家に分かれたことを思い出させる。

 鎌倉にとっての藤原氏、か。室町二十一屋形の中で、土岐家に並び秦氏カラーが感じられない一族で、むしろそのあたりが、尊氏のアイデンティティーを純血に保っているともかんがえられる。

 この山内上杉家と、分家の扇谷上杉家が抗争、堀越御所襲撃のあたりから、扇谷上杉家と新九郎は同盟者であり、関東へ出兵した。ーーこれもまた、関東への新九郎の野心を刺激しただろう。『北条記』には、新九郎が見たという意味深な霊夢の記述がある。二本の大きな杉の根を、一匹のネズミか食い荒らし、二本の杉を倒してしまう。そして、ネズミは虎に変身する。

 二本の杉は山内と扇谷上杉氏であり、新九郎は子年生まれだ。そして虎は、北条氏が後に用いる印章である。

 このときの関東出兵は、扇谷上杉当主定正が落馬し死亡、撤兵している。

 

 さらに、新九郎は茶々丸の討伐と捜索を名目に、明応四年(一四九五)に甲斐へ侵攻、武田信縄(信玄晴信の祖父)と争っている。ーー甲駿相と戦国期に並び称される三家だが、甲斐武田氏、足利支族今川氏、伊勢氏、と、名家ぞろいだ。単純に下剋上がすべてを食い破っていたわけではなく、依然、室町の風紀は一本通っていた、ということだろう。

 足利は支えていたのだ。

 

 そして、茶々丸を討伐するまでの五年間、新九郎は、後北条氏のシンボルとなる拠点を手に入れている。

 小田原城だ。

 

 


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