侯爵の逆襲
ヴァルガス侯爵は、査問に、応じなかった。
代わりに、彼は、牙を剥いた。査問の召喚状が届いた夜、侯爵は、自領に立てこもり、私兵を集め、そして――王国に、反旗を翻した。
「王家は、よそ者の女に、たぶらかされている! 我らは、正しき秩序を、取り戻す!」
そんな大義名分を掲げて。だが、その実態は、既得権益を守るための、追い詰められた叛乱だった。侯爵は、徴税で肥え太った金で、大量の傭兵を雇い、さらに――隣国オルレアに、内通していた。侯爵が反乱を起こし、王国が内戦で疲弊した隙に、オルレアが侵攻する。そういう、密約だった。
王宮は、震撼した。
「兵力で、劣ります」ガレスが、軍議の席で、苦い顔で報告した。「侯爵の私兵と傭兵、合わせて八千。対して、我が王国軍は、五千。しかも、幽霊兵を粛清したばかりで、再編の途上だ。まともに、ぶつかれば――勝てん」
軍議の空気が、重く沈んだ。若き王・エドヴィンの顔にも、焦りが滲む。
俺は、末席で、その報告を聞いていた。そして、静かに、口を開いた。
「――ガレス殿。一つ、伺います。侯爵が雇った、傭兵。彼らの給金は、いつ、支払われる契約ですか」
軍議の全員が、俺を見た。この期に及んで、何を、金の話を、という顔で。
「……月末に、一括だと聞いている」ガレスが、答えた。「それが、どうした」
「なら、勝てます」俺は、言った。「戦わずに」
広間が、ざわめいた。
「傭兵は、金で動く兵です。忠誠心では、動かない」俺は、続けた。「彼らが侯爵に従うのは、月末に、約束の給金が、支払われるからです。……では、もし。その給金の原資が、支払い日の前に、侯爵の手元から、消えていたら?」
俺は、一枚の書状を、掲げた。
「ヴァルガス侯爵の資産は、その大半が、王都の両替商――ロンバルディ商会に、預けられています。徴税で得た金を、王都で運用していたのです。皮肉なことに。……わたしは、すでに、ロンバルディ商会と、話をつけました。侯爵の口座を、凍結する、と」




