外交という戦
俺は、オルレア王国に、一通の書状を送っていた。侯爵の反乱が始まった、その日に。
書状の内容は、単純だった。
「貴国が、ヴァルガス侯爵と結んだ密約の証拠を、我が国は、握っている。もし、貴国が、この機に乗じて侵攻すれば、我らは、その証拠を、大陸中の王国に、公開する。盟約を破り、他国の内乱に付け込む国――そう見なされれば、貴国は、大陸の外交の場で、孤立する。……それでも、侵攻を、望まれるか」
同封したのは、侯爵とオルレアの間で交わされた、密約の書状の、写しだった。これは、侯爵の屋敷を、ガレスの騎士団が制圧した際に、押収したものだ。
オルレアの王は、賢明だった。彼は、天秤にかけた。疲弊した小国への侵攻で得られる利と、大陸中から「信義なき国」と後ろ指をさされる不利。……答えは、出ていた。オルレアは、侵攻を、見送った。それどころか、「侯爵の内通は、一部の家臣の暴走であり、我が国の総意ではない」という、白々しい弁明の使者を、送ってきた。
俺は、その使者を、丁重に迎え、そして、こう返した。
「貴国の、平和を愛する御心に、感謝します。つきましては――両国の、末永い友好のため、通商条約を、結びませんか。関税を、互いに引き下げ、交易を、活発にする。戦で得られるものより、交易で得られるものの方が、ずっと、大きい。……そうは、思われませんか」
脅した相手に、握手を求める。硬軟を、織り交ぜる。これも、二十六年の役所勤めで、覚えた技術だった。敵を、完全に叩き潰すのではなく、利で、こちらの側に、引き込む。
オルレアは、その条約に、応じた。侵攻の脅威は、消え、代わりに、交易による、新たな税収の道が、開けた。
こうして、ヴァルガス侯爵の反乱は、鎮圧された。剣ではなく、金と、書状で。侯爵は捕縛され、横領した財は、国庫に、戻された。王国は、破産の淵から、一歩、後退した。
王宮は、俺を、英雄として、称えた。だが、俺は、その称賛の中で、一つの、静かな事実に、気づいていた。
この戦を通じて――エドヴィンと、ガレスの、俺への想いは、もう、隠しようが、ないほどに、深くなっていた。そして、それは、二人が、互いの想いに、気づき始めている、ということでも、あった。




