第2話 命の灯 儚く散る
町の西区にウロボロスが根城にしている家がある。そこそこ大きいな平屋だ。
中ではメンバーたちが酒を酌み交わしてガヤガヤ騒いでいた。
毎日のように騒ぐ彼らを周囲の住民は迷惑している。それでも何をしてくるかわからないので文句の言いようがない。
酒の入った瓶を片手に、若い男が同じテーブルに座っている仲間に言った。
「この前の女、もったいなかったんじゃないか?」
「あぁ? 仕方ねーだろ。弾みで死んじまったんだから」
声をかけられた男は酒瓶に直接口をつけて、酒を喉へ流し込む。ゴクリと喉が大きく鳴った。
「そうかー。弾みかー」
黒いレザージャケットを着たクリフは同じテーブルの席に座って相槌を打つ。
聞き覚えのない声だが、酔っている男たちはわからない。酒瓶とドンとテーブルに叩きつけてクリフを見やる。
「な? 仕方ねーだろ?」
「仕方なくねーよ」
クリフは左脇に着けていたホルスターから銃を取り出し、男の眉間に突きつけた。
男が声を上げる間もなく引き金を引く。音もなく男の頭が仰け反った。
そのまま力なく背もたれに寄りかかる。だらりと両腕が垂れ下がった。眉間からは鮮血が滲みだしていた。
クリフは動かなくなった男に冷やかな目を向ける。
「これも弾み、だよな?」
隣の席で酒を飲んでいた男は唖然として身動きが出来ない。
クリフはその男のこめかみに銃口を向ける。振り向かれるより早く、引き金が引かれた。
弾かれたように男の身体が傾いた。椅子から転がり落ち、床に倒れ込む。頭部から血だまりが広がった。
そこでようやく、部屋の中にいた男たちが異変に気が付いたようだ。
ガタガタと椅子を鳴らし、転がし立ち上がる。ナイフや銃を構えるが、クリフのほうが速かった。立ち上がりながら引き金を引く。
正確無比な射撃は次々に急所を撃ち抜いていった。
男たちは眉間を撃ち抜かれ、喉に血の花を咲かせ、胸の衝撃に息が詰まる。
ウロボロスのメンバーたちは次々に倒れていった。
クリフにとって、引き金を引くことは呼吸に等しく当たり前のことだ。狙いは外さない。
幼い頃から沁みつかせた感覚は今日も狂いなく機能している。
一通り、静かになったことを確認してクリフは手を止めた。
転がっている身体は二十近くある。
カタッと物音が聞こえた。クリフは素早く銃口を動かす。
音は倒れたテーブルの向こうから聞こえた。
銃口を向けたままテーブルに近づく。テーブルの陰から見えてきたのは、縮こまった男の姿だった。
テーブルの裏に隠れていた男に銃口を突きつける。
「ひぃっ!」
ブラウンの髪の男が情けない悲鳴を上げる。
「お、お前っ! こんなことしてタダで済むとは思うなよ! 俺たちの後ろにはラインフォード商会がいるんだ!」
典型的な下っ端のセリフを吐く男に、クリフはため息をついた。自分から情報を漏らしてどうするのか。
ラインフォード商会がウロボロスをあまり信用していないだろうことは容易に想像できる。
「情報ありがとさん。お前ら程度のチンピラがいなくなっても、困らないだろうよ」
クリフは金色の瞳で男を睨んだ。引き金にかかる指に力が入る。
男はガタガタと震えながら銃口を見つめた。すると、その目が見開かれた。
「それ貴族用の魔力で使う銃だろ!? なんで平民がそんなも……!」
男の言葉は最後まで続かなかった。音もなく放たれた銃弾が、その眉間を貫いた。倒れたテーブルに男はもたれかかる。
これで、この場で息をしているのはクリフだけとなった。
銃をホルスターに戻して建物を出ていく。用済みの場所に長居する必要はない。
深夜の時間に歩いている者は誰もいない。
クリフの姿は闇夜に溶けていった。
翌朝、ウロボロスのメンバーの遺体が発見された。
争った形跡から、半グレ同士の権力闘争と判断された。
この町の治安維持などその程度だ。誰も深く真相など追う者はいない。
「こっちは巻き込まないでほしいもんだ」
「あっちだけでやってもらいたいぜ」
「これで少しは静かな夜になるんじゃないか?」
近隣住民たちは、遺体を運び出す憲兵たちを見ながら囁き合った。
たった一人がこれを成したとは、誰も思ってもいない。
クリフは何事もなかったかのように、喫茶店のカウンターに立っていた。
奥ではジリアンがコーヒーの豆を挽いている。ゴリゴリと独特の音が店内に流れた。
店のドアが開いてベルが来客を告げる。
「いらっしゃいませ!」
クリフは条件反射で笑顔を向けた。
来店したのは二人の女性客だ。栗色の髪を三つ編みにした女性がニコッと笑う。
「こんにちはー」
「お好きな席にどうぞ」
クリフは二人を促した。まだ客はいない。好きな席に座ってもらって問題なかった。
彼女たちは窓際のテーブル席を選んだ。向かい合って座る。
三つ編みの女性がテーブルの端に立てかけていたメニュー表を広げた。
「ここ、ケーキも美味しいんだよ」
三つ編みの女性は楽しそうにメニュー表を指す。
ジリアンが焼くケーキもこの店が人気の理由だった。
向かい側に座る水色の髪の女性はメニュー表を覗き込んだ。
二人はどれにしようかと楽しそうに選んでいる。
「すみませーん」
三つ編みの女性が片手を挙げた。
「はい、ただいま」
クリフは笑顔で答えて注文を受けに行く。
――金髪の少女は、家賃を取り立てに来た大家によって、遺体で発見された。
ベッドに横たわったまま亡くなっていた。
その身体は十代の少女とは思えないほどやせ細っていたという。
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