第35話 これぞトップの力
狐面の女に、翁面の男に、火男の男。
どれもなかなかの力量だな、ダンジョンですれ違う探索者とはレベルが違う。
だが、その中でも差がある。狐面の女から感じる魔力は圧倒的だ。
「あんたらが前衛でしょ! さっさといって!」
狐面に言われて、翁と火男が向かってきた。
翁は槍、火男は剣を持っている。
まずは翁が中距離から槍で突いてくる、それをかわしたところを狙って火男が剣で縦斬りに切ってくるが、それをこちらも剣で受け止めると、狐面が氷の魔法でツララを高速で放ってきた。
とんできたツララを足に魔力を込めて蹴り飛ばすと、天井を砕き、ぐっさりと刺さった。石より硬い氷とは、やはり相当の使い手。
「げっ! フォックスの魔法を!?」
「こいつやばくねーか!?」
「ひるんでないで攻め続けなさい!」
ビビる男二人に檄を飛ばし、狐面は扇状に複数のツララを展開する。
また前衛が攻めてるところに、今度は防ぎきれない数の攻撃を叩き込む算段か。それならば……。
再び翁と火男で中距離と近距離のコンビネーションで攻めてくる。
だが今度は俺は突き出された槍をかわしながら柄の部分を掴み、翁ごと振り回した。
「んなっ!? ごふぇっ!」
剣で斬りかかろうとした火男に翁の体をぶつけてやって、ついでに放たれたツララの盾にして後に隠れる。
「ぎゃあああああああああ!!!」
二人の体にグサグサとツララが刺さり、これはもう戦闘不能だな。
ぽいっと槍ごとそのへんに投げ捨てた。
「あ~あ、ひどいことしやがる、仲間に対して」
「どの口が言ってるの。所詮はただの数合わせだし、お前の動きを見られからもう仕事はしたわ。力量はだいたいわかった。私に声がかかったわけもね」
狐面の手の金の魔導書が輝きを増していく。
空中に浮かぶ氷の盾が出現し、もう片手には氷の剣が現れる。
「近接戦もイケる口か」
「ソロ魔法職が遠距離だけじゃ上まで行けないでしょ」
「違いないな」
「もちろん、それだけじゃないわよ」
さらに魔導書が黄金の光を放つと、狐面の周囲にツララが後光のように展開された。
「なるほど」
「簡単にやられないでよ、わざわざ埼玉まで来たんだから」
狐面は魔法使いにもかかわらず、先の二人の戦士より俊敏に俺に迫り、氷の剣を振り下ろした。
回避して反撃をすると氷の盾で受け止めてくる、と同時に周囲のツララが俺に向かって射出された。
「やるな!」
剣で撃ち落とそうとするが数が多すぎ、二発は命中を許してしまう。
「そこっ!」
さらに氷の剣で追撃してくるが、そこまでは許さない。転がるように回避した。
「よくしのいだわね、褒めてあげる」
「そっちこそ、いいコンビネーションだ。対人戦はモンスターとは一味違っていい。だから、楽しませてくれたお礼に――」
狐面が大きく身を震わせた。
「なに……その魔りょ――」
一閃が、盾を切断した。
狐面が次の魔法を繰り出す間もなく、鋼の剣の柄がみぞおちを深く抉る。
「かはっぁ……!!」
倒れ込む狐面を肩で支えて、俺は剣を鞘に納める。
「久しぶりにいい汗かいた、ありがとう」
「あれ、また二人いる?」
ギルドに戻った俺は、受付に海羽さんと図司の姿を認めた。
また『ダズルヘイム』のことについて作戦会議だろうか? だったらラッキーだな二人は。ちょうど当人がヒントを担いでやってきたんだから。
「あ、探索者さんおかえりな……げっ」
海羽の笑顔が凍りついた。
「な、なんですかー! これは!」
「おやおや、妙なタイミングに居合わせたみたいだ」
二人が驚くのも無理はない。
狐の面を奪って変装した俺が、ロープで縛って気を失ってる三人を引きずりながら現れたのだから。
「襲われた。返り討ちにした。連れてきた」
「お、襲われた? つまりこの三人を返り討ちにしたってことですか? ……えっ、ちょっと待ってください、この人……!」
「おいおい、渋谷のクイーンじゃないか」
俺を襲ってきた狐面の女を見て二人が驚いている。
渋谷のクイーン? なんだそいつ。
さいたま以外のことには疎いんだよな、有名人ってことか。
「日本の探索者の頂点の一人ですよ、この人。なんでその人がさいたまに? しかも返り討ちにできるんですか? わからなすぎます!」
「……あんたの言うことがマジなら、相当とんでもない達人ってことになるんだが……なんで顔を隠してるんだ?」
そんな有名人だったのか。
そうなると……へたに隠すよりは真実を話すほうがむしろいいかもな。天沼だってことがばれなきゃいいんだ。
「……俺がダズルヘイムだ」
「こいつは驚いた……」
「えええっ!? あなたがダズ――!?」
「しーっ! 声が大きい!」
海羽さんが慌てて口を抑える。
図司が参ったなというように眉を下げ、俺に質問をした。
「それ、本当か?」
「彼女は相当な実力者なんでしょ? 倒せる探索者がどれだけいると思う?」
「なるほど正論だ。俺達の見立てじゃ、ダズルヘイムは他の誰よりも半端なくダンジョンに精通してるはず。ってことは実力も相応にあるのは道理だな」
「そうそう、あなたはよくわかってる」
納得した海羽さんは珍獣を発見したみたいな顔で俺を見ていたが、つと首をかしげた。
「あれ? でも、結局なんで襲われたんですか?」
「こいつらは言っていた。特殊ドロップのことを広めるのをやめろ、損害が出る、と。拒否したら、それなら口を封じさせてもらうと」
「ええっ!? 殺すつもりってことですか。ひどいですね、それは! ……どうしたんですか? 図司さん?」
「いや、この前に探索者の間で噂になってるって話があっただろ、ハニトラとか」
「はい、ありましたね」
「それで今度は口封じ……おそらくおなじ奴が人を雇ってやらせてるってことさ。つまり、こいつらを調べれば……」
「黒幕がわかるかもしれない!」
よーしよし、二人とも俺の狙い通りの方に話を進めてくれてるな。
これで黒幕がわかれば、面倒ごとからも解放される。
「じゃ、あとはよろしくお願いします」
「あ、待ってください、真相究明するならあなたも協力してくれると助かると思うんです」
「……悪いけど、俺は何にも縛られず誰にも知られない……ってことでじゃあね!」
俺は引き止められる前にギルドを立ち去った。
長居するとボロが出るかもしれんからね!
◇ ◇ ◇
「あっ! 待って……行っちゃった……」
「まあ、そうなる気はしたよ。これだけ界隈が騒ぎになってるのに出てこないんだから、表に出てきたくはないのさ、彼は。ただ、色々嗅ぎ回られるのもうざいから、この三人を俺達に託したんだろう。……この前言った企業のこと、覚えてる? 海羽さん」
「はい。覚えてますよ。ダンジョンスミス……そこと繋がりがあるか、彼女たちからしっかり話聞きましょう。じゃあ、準備してきます。マネージャー! マネージャー!」
図司は受付背後のオフィスに行く海羽を眺めながら口の端を持ち上げた。
ダズルヘイムを味方につけるのは誰にも無理そうだ。だが、業界トップがこれで失墜すれば、結果的には得できる。あと、今回のことでちょっとばかりは恩を売れたし、ずっとは無理でも少しくらいは口聞いてもらえるかもしれない、と。
「冬のボーナスが楽しみだな、ははっ」




