第36話 参道百鬼夜行
「……えっ!? はい! はい! わかりました、私の方からも探索者の方たちに連絡をとります!」
突然来た連絡を聞いた海羽の顔に焦りが滲んでいた。
ただ事ではないと図司は直感した。
「何があった?」
「転移門です! モンスターが町に現れて……! しかも、多数の転移門が同時に!」
「何? そんなことがありえるのか?」
「普通はありえません、異常事態です。でも、原因を考えるより今は速く対処してもらわないと!」
「場所はどこなんだ?」
「氷川参道です」
◇ ◇ ◇
「これは……ビンビンに感じるな」
ギルドから出た俺は、ひさびさにあの感触を味わっていた。
強者の匂い。以前、自分の部屋から感じて、転移門から出てきたモンスターを倒した時に感じた匂いだ。
「これは……参道の方角か。ちょうど体もあったまってるし、行ってみるか」
匂いの強さからして、ギルドからそう遠くなさそうだし、普通に走って匂いの元へ向かおう。常識的な速度で走っても五分かからないだろう。
……なんか妙だな。
駅前の大通りを走りながら気付いた。駅の方へと移動している人がやたらと多い。その逆がほとんどいない。
「まさか、逃げてきてるのか? 一斉に? だとしたら結構たくさんのモンスターが転移門から出てきてるってことだな……それにおいおい」
参道の方から気配がしてたからそっちの方へ走って来たけど、まさかマジで……。
「みなさーん! 落ち着いてギルド員の指示に従って避難してください! 参道は危険です、指示に従って避難を!」
氷川参道に到着するやいなや、拡声器で避難誘導をする声が聞こえた。
そして参道からは最後の数人が走って出ていくところだった。
ガチでここに転移門が開いてるのかよ! 罰当たりだなおい。
それじゃあ俺もモンスター退治といきますか。
「君、今ここはモンスターが……」
「大丈夫、俺も探索者です。応援に来ました」
「そうなのか! そこら中に門が開いて、すでに探索者が何人か来ているが苦戦しているんだ、ありがたい! 神社とは逆方向に行ってくれ、そっちに転移門が開いてる」
ギルド員の人から聞いた方向へと参道を走ると、見えてきた。
半球状の転移門がいくつもあり、そこから次々に出てくるモンスター、それと戦っている探索者達の姿が。
トロールにスプリングゲータにハーピィに陸マリモに、さいたまダンジョンの色々なモンスターが勢揃いだ。
「……だけど、違う。俺の鼻に匂ってるのはもっと奥だ」
この辺のモンスターは探索者に任せて、一番強い匂いの奴の元へ行くべきだな。
通りがけにすれ違うモンスターだけは切り捨てつつ、俺は匂いの元へ向かっていく。
あ、シャドウリオがいる。呼び出しってこれだったんだな。
お、アイハーさんも頑張ってる。無理するなよ。
「……あそこだ!」
強者の匂いがしているのは、一番奥の半球からだった。
見た感じ、そこから出てきているモンスターはいないようだ。
つまり、その奥。この転移門に入った先から、一番の大物が出よう出ようとしている。
表に出したら、巻き添えで被害が出る可能性大。
出てくる前に飛び込んで中で仕留めるのが最良の手段!
「……あ! あやちもいる」
目標の転移門の一個前の門の周辺で、戦うあやちの姿があった。
雷光を纏う棍棒でモンスターにフルスイング、いいね。
「え?」
こちらに視線を向けたあやちに俺は頼んだ。
「あやち! 配信カメラを回しておいてくれ!」
「え、なんでこんな時に――」
「危険なモンスターが現れた時、弱点を伝えられる! 頼んだ!」
「……っ! もしかしてあなたはっ……!?」
そして俺は漆黒の転移門に身を投じた。
一面に広がる砂。
ゆったりとうねる砂丘が転移門の中には広がっていた。
緩やかな風が風紋を作り、独特の波打つ模様ができている。
「こんなフロアは見たことないな。知ってるどこよりも深い階層ってことか」
さて、偶発的にできた転移門はしばらく時間が経つと閉じるのが常。
閉じるまでここを見張っておこう。モンスターが近くを通らなければ何事もなくすむが、まあそれは運だな。
それまでは、表の戦況をチェックしておくためにあやちの配信を見ることにした。
『みんな、氷川参道には絶対近づかないでね! 今あや達がモンスターと絶賛戦闘中だから!』
“みんなを守るあやち格好いい”
“あやちがんばぇ~”
“あれ? ダンジョン外でも配信ってできるの?”
“知らないのかよ転移門の近くは魔力が溢れ出てるんだよ、そうじゃないと探索者も戦えないだろ”
コメント欄も普段とは違う状況にむしろ盛り上がっている。同接もあっという間に一万を突破しているて、普段以上だ。
だがコメントを見てる場合じゃないな、それよりも戦況を確認しないと……うわ、これはちょっとまずいな。
転移門から、新たにハイオーガが出てきていた。こいつらはかなり手ごわい。
さらに、ケルベロスもいる。こっちもシャドウリオクラスじゃないとキツイだろう。
今いるメンツで対処するのはかなり厳しいが……。
しかし、弱点がわかれば必ずしもそうとは限らない。
【¥10000】
” ダズルヘイム:ハイオーガは炎に弱い。炎に怯む性質があるから、炎で怯ませるといい。怯んだ隙に狙うべきは脇腹。硬い表皮と筋肉に覆われているが、脇腹だけは弱い。また、こいつらは持ってる剣でまず足を狙ういやらしいところがあるから、それを予測してガードすれば反撃の隙が生まれる”
【¥10000】
” ダズルヘイム:ケルベロスは耳がいいがその分、大きな音に弱くて、大音響を受けると動きが鈍る。そこを攻撃すれば倒しやすい。このことをみんなにも伝えてあげて。そしてこれらの強力なモンスターは協力して倒して”
『ギフト? これって……! うん、わかったよ、たい……ダズルヘイムさん! みんな、聞いて! あっ、拡声器貸してください!』
あやちは俺のコメントを読むと、職員の拡声器を使って、その場にいる他の探索者たち皆にモンスターの対策を伝えた。
新たに出てきた強いモンスターに押されつつあった探索者達だったが、攻撃の癖を読み、弱点をつくことで攻勢に転じていく。
多くの探索者が集まっていたのが功を奏した。普段はソロが多いけれど、今は大勢いるので、弱点を狙えるような能力を持った人が誰かしらいるのだ。
あやちも――。
『ワンちゃん、キーンとするけど、ごめんねえええええええ!!!!』
雷の魔法剣でケルベロスの近くの石畳を全力でぶったたいた。
ケルベロスには当たらなかったが、目の前で雷が落ちたような轟音にケルベロスが酔っ払ったようにふらつく。
そこに追撃の全力殴打で、ケルベロスに致命の一撃を与えた。
ナイスあやち!
うまくはまってるな、作戦が。
カメラに映っている他の探索者もうまくモンスターを倒していってる。
アイハーが炎の魔法でダメージは与えられないもののハイオーガを怯ませ、そこをシャドウリオの二人が脇腹を狙って致命傷を与えて倒していた。
いいコンビネーションだ。
「これなら向こう側はなんとか収まりそうだな。……残念だったな、あんた」
一人の大柄な男がゆっくりこっちに歩いてきた。
スーツを着たその男は、風紋を乱しながら俺の前にやってくる。
「お初にお目にかかります、大輪と言います。ダズルヘイム様」




