第34話 それ異世界でも同じこと言えんの?
『よっし! 撃破完了!』
『やっぱりボク達って強い』
金髪と桃色髪の二人組探索者、シャドウリオは十七層のモンスター、ケルベロスの三つの首による連続攻撃を捌き切り、撃破した。
“すげーーーーー!”
“もうそこに階段あるし、ついに十八層だね”
“シャドウリオはやっぱり最高だぜ”
武器も強くなり絶好調の彼女たちは、元々トップクラスだったがさらに深い階層へと歩を進めている。
その昔辛辣なコメントされたことは水に流して、俺も配信を見ていた。
さいたまダンジョンの最前線にいる配信者だからね。しかも経験値的に不利な二人組でここまで来ているのだから、その力は認めざるをえないし配信も気になっちゃう。
しかし、だ。
“まだ十七層でしばらく稼いだほうがいいんじゃないかな”
盛り上がるコメント欄に俺がコメントを投入した。
たしかに勝てはしたけれど、ケルベロス相手の立ち回りを見ると、まだ余裕ってほどじゃない。
十六層以降の深層と呼ばれるところでは、一階層先に進むだけで難易度が大幅に上がるらしい。またそれまでは五階層ごとにあったショートカットできる転移門も一階層ごとになる。これもまた、深層の厳しさの裏返しといえる。
これは異世界でもあった傾向で、深くなるほど、ワンステップが厳しくなるのだ。十六、十七層に出てくるモンスターの種類を比較してみても、一階層進むだけで一気に強くなっている。
そこから考えると、十八層はまだ危ないと思うんだよなー、まあもしかしたら十八層のモンスターがたいしたことない可能性もなくはないが……。
シャドウリオの二人は階段を下り、転移門フロアを経て、十八層へと至った。
十八層は、いくつもの丘が連なる草原だった。見た目はのどかで気持ちよさそうな風景だが、さて。
『へぇー、なんか気持ちいい場所じゃない』
シャドウリオは近くにある丘を登っていく。
順調に登っていって、一番高いところまで行ったところで、画面には二人以外に、モンスターの姿があらわれた。
『ボク達第一モンスター発見~』
丘の下を歩いているモンスターの姿が見えている。
大柄な鬼のようなモンスター――ハイオーガだ。
丘の下に六体の群れで行動している部隊がいて、離れた別の丘の麓には同じような規模の群れが二つ、三つといくつも歩いている。
『数で押してくるタイプね、ってことは一匹一匹はたいしたことないでしょ。行くよ』
『うん、ボクらないける』
二人は丘を降りていく。
――まずいな。
あの二人の戦いぶりを見て、ハイオーガに勝てる気がしない。運良く勝てたとしても、後に何部隊も同じようなのが控えているのにすべて勝つのは無理だ。
前ボロクソに言われたから嫌だけどな~、でもわかってて無視するのもな~。はぁ。
【¥10000】
” ダズルヘイム: いったん十七層に引き返すべきだ。深層のモンスターが一層ごとにぐっと強くなるのは感じてるはず。ここは十七層が目をつぶってても勝てるくらいまで鍛え直さないと危ない“
『お、ギフトが来てる……なになに……はぁぁぁ? 見てよこれ!』
『ボクらを舐めてるね、これ。自分の方が詳しい気分でアドバイス? 身の程をしれって感じだよね』
まったく聞く耳持たない。コメント欄も二人に同調している。
あっ、シャドウリオの二人が丘を降り始めた。
くそっ、馬鹿なマネを!
命がヤバいって言ってるのに、鵜呑みにしなくても、もしかしてやばいかも、くらいの警戒感は持てよ!
「はぁ、もうええわって感じ。いくら言ってもダンジョン甘く見るってことはさ、つまりお前ら――」
【¥10000】
” ダズルヘイム: 死にたいらしいな? “
『またギフトが来てるわね……なんかブチギレてるんだけどー、アハハ』
『きれす…………えっ!? ちょっと待って! ねえリオ!』
その時、シャドウリオの桃色髪の方が、はっとした表情になった。
そして、小声でよく聞き取れないが、何かを話し始めた――。
(ねえ、ねえリオ、この名前見てよ)
(えー、なんでこんなうざリスナーの名前を。ダズルヘイムがどうしたって……ダズルヘイム!? ってあいつじゃない! 特殊ドロップ教えマンの!)
(そうだよ、なぜかなんでも知ってる奴だよ! あれだけモンスターに詳しいってことはわかるでしょ? リオも)
(それくらい色々なモンスターを倒しまくってきてる……つまりめちゃ強いし多分ダンジョンの奥深くに行ったことがある奴…………えっ!)
二人は顔を青ざめさせて、額がくっつくほどに目を見合わせた。
(そ、そんなヤバい強い奴が私たちに“死にたいらしいな”って……)
(ひいいいいいいいいいいいい! ボク達命を狙われてる!?)
(ヤバイヤバイヤバイどうしよう!)
(死にたくないよおリオー。帰ろうか!?)
(そんなことしたら、リスナーに日和ったと思われちゃうじゃない!)
(うううううボクわかんないよ。ダズルヘイムに殺されたくない~)
PPPPPPP。
その時、シャドウリオの金髪担当の方のスマホの音が鳴った。
配信中は普通の通信は鳴らないようにしているので、来るのは緊急の連絡だけだ。よほどのことがあったに違いないと、リオはスマホの画面に目を落とす。
(ちょっと! 見てこれ!)
(これマジ? ボクらも帰らなきゃ!)
(ちょうどよかったかもしれないわ、戻る口実できたし)
(たしかにボクら命助かった~)
『ごめん皆! 今ギルドから連絡があって、モンスターが町中に現れたから、緊急で対処してほしいって!』
『だから配信はここで終わりにするね。また今度会おうね、バイバイ』
“ええええええええええ”
“ギルドから信頼されてるんだなあシャドウリオって”
“街の平和を守る二人に敬礼!”
ブツ、っと突然に配信は終わった。
「……なんだったんだ。小声でボソボソ行ってたかと思ったら急に」
配信画面を見ていた俺も呆気にとられてしまった。
モンスターが町に出現っていうのは、あの町中にできた転移門みたいなことだろう。ああいうことには、探索者が対処に当たるのはわかる。それもある程度実力がある人が。
だから呼び出しがかかっていなくなることはわかるんだが、その前にずいぶん小声で揉めてたのが気になるな。何を話してたんだろう。
「まあ、無謀な前進をして死なずに済んだなら良かったか。……なあ、あんたらもそう思うだろ?」
十一層、下水道風のダンジョン。
その通路の曲がり角に隠れている奴らに、俺は声をかけた。
「なんでばれたんだ?」
「お前が物音でも立てたんじゃないのか」
「黙りなさい、二人とも。奴はダンジョンに精通してるらしい。それくらいわかっても何も不思議じゃない」
仮面を被った三人がゆっくりと出てきた。
声からして男二人と女一人。
最後に発言した女が、前に進み出てきた。
「はじめまして、ダズルヘイム。ある人から言われてあなたに“対処”することになったの。ただ、最後に一回だけ警告してあげる。誰にもあなたの持っている情報を教えないようにしなさい。そう宣誓すれば、何もせず逃してあげる」
「この前の奴らと同じか。もし断ったら?」
「ダンジョン内じゃ、人が一人いなくなったところでわからない、色々詳しいあなたならわかるわよね?」
「……なるほど、よーくわかった」
俺は鋼の剣を抜いた。
「俺はやりたいようにやる。逆にあんたらに警告だ。今すぐ帰るなら見逃してやる」
女が魔導書を手に取る。
「誰に向かってそんな口きいてるの? やっぱり、ぶっ殺す方が良さそうね!」




