第20話 ダンジョン企業とサラリーマン
見た目を変えるスキンなるものが使えるんだな、地球のダンジョンでは。
あやちやアイハーもこれを使ってダンジョン探索をしてるってわけか。
資本主義の企業はダンジョンも貪欲に取り込みそういう製品を作るんだな。……あ、そういえば。
” ダズルヘイム: 仕事しながらダンジョン探索もしてるって言ってましたけど、もしかして仕事がダンジョンと関係あるからだったりします? “
『まさか! 僕の勤めてる会社はたしかにダンジョンと関連はしてるけど、別に仕事のためにダンジョン探索や配信を始めたわけではないですよ』
” ダズルヘイム: そうなんですか、完全に個人的な趣味か何かで。でも、会社はダンジョンに関連してるんですね“
『今どきはダンジョンと完全に無関係な会社の方が少ないくらいですからね。いろんなところでダンジョン産の素材は使われてますし。僕の会社も、入社したときはまだダンジョンとは何の関係もありませんでしたけど、今では色々やってます』
少し気になって再び検索。
すると、出るわ出るわ、すでにダンジョンのものが社会に浸透してると聞いてはいたけど、思ったよりずっと多くのダンジョン関連企業があることがわかった。
ダンジョンで手に入れた素材を利用するっていう点では、アイハーの言う通り数え切れない企業がダンジョンと関わっている。スマホのガラス、保護フィルム。自動車部品の一部、発電、鉄道、家具……昔からある有名企業も普通に製品の材料の一つとして活用しているようで、そういう意味ではアイハーの言う通り関わりがない企業の方が少ないかも。
だがもっと深い関わりの企業もある。たとえば生のダンジョン素材を加工して、色々な製品に使える形にして他の企業に売る企業や、そしてダンジョン内で使用するスキンやピクシーカメラみたいなものを作っている企業。
そういうところはダンジョンとの関わりがより直接的で深いといえるだろう。ただ素材として使うだけじゃなく、ダンジョン自体を商売に組み込んでる。
『会社のため……ですか。むしろ僕は逆なんですよね……会社のことを忘れたくてダンジョンに入っているというか……』
スキンを作ってる大手はダンジョン・レクリエーションズ。
既製品もあるが、オーダーメイドもしてくれるようだ。お、名前を知ってるダンジョン配信者が利用者の声を寄稿してる。
他にも、ダンジョン・スミスっていう装備品を作ってるとこもあるな。ギルドの売店にはそこが作った武器や防具がおいてあるらしい。
『まあ、仕事って色々あるじゃないですか、ねえ色々。ダズルヘイムさんもわかりますよね、あはは……』
ちなみに、武器でも重火器の類はモンスターに通用しないとネットに書いてある。魔力を帯びた攻撃しか通用しないようで、魔力をもった人間の直接攻撃でダメージを与えるか、人間の魔法で攻撃するか、だそうだ。ダンジョンが出現した初期には銃をダンジョンに持ち込んだこともあったそうだが、あえなく草魔にボコられて敗走したらしい。
『でもダンジョンに来てよかったです、毎日ぼんやりとした空虚さを感じていたのが、最近は考えずにすんでますし』
ギルドの講習でもそんな話をしてたな。ダンジョン内で何かあっても警察や自衛隊に銃火器で助けてもらえる、なんて甘えたことは思うなと。
異世界じゃ銃火器がそもそもなかったから気にならなかったけど、でもま、せっかくモンスターがいるんだから、剣と魔法で倒すほうが楽しいし問題なし!
あ、そうだ、魔法と言えば。
” ダズルヘイム: そういえばアイハーさん、その魔法はどうやって? オーブを見つけたんですか? “
『アイハー? ああ、アイアンハートだから……。いえ、魔法はギルドの売店で魔法のオーブを買いました。初級のオーブなら売ってますから。お金を使うほどハリのある生活してなかったので、貯金だけはあったんですよね、ハハハ……』
アイハーがまた乾いた笑いを漏らしながら頭をかいていると、前方から今度はオークがやってきた。
六層にはトレントだけじゃなくこいつもいるんだ、だがトレントが倒せたなら大丈夫だろう。
『あ、またモンスターですね。しかも二体同時です。近づかれる前に……』
魔法の砲丸でこちらに気付かれる前に大ダメージ。気づいて近づいてくる途中にさらに一発ぶつけてそいつを撃破。
アイハーはさらに残り一体になったオークに対して魔法を使おうとしているが、
” ダズルヘイム: そういえば魔法使いなら炎の魔法は使えますか? 尻尾を焼いてから倒すと面白いものが見られますよ“
「面白いもの? やれそうならやってみます」
” ダズルヘイム: やられちゃったら元も子もないので、無理はなさらずー。余裕があったらで!“
とはいえアイハーは興味を持ったらしい、オークから距離を取り、近づかれたら木々も利用しつつ攻撃をよけて、足を狙って魔法弾を撃ち、相手の機動力を削いでまた距離をとる。王道の魔法使いらしい戦い方でいいね。
アイハーが足を集中的に狙っていると、ついにオークが膝をついた。と同時に、背後に回り込み、火の玉を尻尾に向かって発射する。
豚のようなくるりんとした尻尾に火球が当たると、マッチのように燃え上がり、表面が黒く煤けて焦げた。
『これでいいんですか?』
” ダズルヘイム: オーケーです! もう倒しちゃって大丈夫!“
俺のコメントを読むと、アイハーは魔法の砲丸を打ち込み、オークを倒した。
すると、普通なら塵となって消えてあとにはオークの魔石、オークジェムが残るはずなのだが――。
『えっ!? 尻尾が!?』
残ったのは、黒く煤けたオークの尻尾。
” ダズルヘイム: 特殊な状況でモンスターを倒すと、普通とは違うものを残すんです“
『そんなのあるんですか!? 始めてみましたそんなもの!』
アイハーが尻尾を手に取ると、表面の黒い煤が剥がれて茶色く渦巻くオークの尻尾がきれいな状態で出てきた。それをアイハーは物珍しそうに上から下から眺めている。
俺と同じくいい年のおじさんのはずだが、まるで虫取り少年のようだ。
話の流れで特殊ドロップのテクニックをノリで話しちゃったな。なんか話しやすいんだよなアイハーって。同年代同性同じダンジョン好きだからかな。
特殊ドロップ情報は異世界じゃ情報料を取れるネタではあったけど、今の俺はガツガツレア素材集めようって思ってるわけでもない。地球のダンジョンを満喫できればそれでいいのだから、競合しない相手に教えても特に損はないし、まあいいでしょう。
『これは……珍しいものが手に入れられました! この歳になってもまだまだ知らないことがたくさんあるんですね! ギルドに持っていくのが楽しみです』
このダ的好奇心、やはりダンジョン探索者の才能がある。
アイアンハートちゃんねるは今後も視聴確定、と。
その後もじっくり探索しつつ、オークに出会った時は尻尾を狙い、アイハーは配信を続けた。長い時間探索できたことに自分自身で驚いていたが、それは琥珀の指輪のせいだな。ダンジョン探索で見つけたレアアイテムでダンジョン探索の効率が上がる、これぞ醍醐味よ。
『今日は珍しいものが色々手に入ってよかったです。それにずっと見てくれた方ありがとうございました』
四時間ほどすると、アイハーは挨拶をして配信を〆た。
結局視聴者は15人程度になり、コメントをする人も少なかったため、ほとんど俺とアイハーでサシで会話してる時間がほとんどだった気がする。ついつい長居してしまったな。
また今度配信やったら見てみるか、七層到着も見届けたいし。
窓の外を見ると、童が自転車でどこかから帰ってくるところだった。
夕方か……といってもまだ外は明るい、夏だし。
見るもんなくなったし他の配信見ようかな…………ん?
そういえば?
「アイハーは特殊ドロップ知らなかったけど、他の人も知らないのかな? もしや? まったく聞いたこともないって素振りだったしな、知れ渡ってることなら、アイハーにも多少は情報入ってくるだろう。だとしたら……ふふ、これからの配信でアドバイスしていくことは決まったな」




