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異世界帰還指示厨おじさん  作者: 二時間十秒


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第19話 アイアンハート

「これを……ここでいい?」

「うん、そこに置いて……そう、位置バッチリ!」


 あやちの魔法剣を見てから数日後の土曜日。俺はリビングのソファをゆっくりとおろした。母が模様替えをしたいっていうんで、家具の配置を変えていたのだ。

 まだあやちのダンジョン配信はないし、家の手伝いでもして平和に過ごしている週末の一幕ですね。


「大樹が力持ちで助かるわあ。たくましくなったのね」

「ふっ……パワーは鍛えたからね。二階から机を一人で持ってくることだって必要とあらば余裕」


 家の力仕事は自然と俺が担当している。お呼びがかかればすぐにかけつける。異世界で鍛えたパワーの使い所ってわけ。異世界行ってなくても家で一番若い男が俺だから力仕事は俺の仕事になってたという説はある。


「えー、すごいじゃないのー! 母さん見てみたいからちょっと往復してみてくれなあい?」

「嫌だよ見世物じゃないんだから、無意味に運ばせるなと」


 えー、という母の声を背中に聞きつつ、アイスを冷凍庫から持っていって部屋に戻る。一仕事終えたあとはアイスに限る。

 ソーダアイスを食べつつ部屋の窓から外をぼーっと見ていると、自転車を立ちこぎしている帽子をかぶった少年の姿が見える。どこかに遊びに行くのかね、7月の猛暑の中でも元気だねー童《わらべ》は。


「俺は暑いの嫌だから部屋で過ごすが……お、やってんね」


 週末ということもあって、昼間からダンジョン配信をしている人が大勢いる。

 平日は朝昼の配信少ないんだよな、やっぱり視聴者数が夜ほどは増えないから。俺みたいに平日だろうが容赦なくマイルームにいる人間からすると困ったもんだぜ。


 さて今日はどれを見ようかな。

 とりたててチェックしてる配信はないから適当に……おっ、この人は。


 前に見てちょっと気になっていたダンジョン配信者がちょうど配信している。これはちょうどいい、と俺はその配信サムネをクリックした。


『えー、今日は六層をクリアして次に行けたらいいなと思っています。階段を見つけられたらいいんですが……頑張ります』


 PC画面に映し出されたのは、俺と同じ30代中頃に見える赤髪の男性探索者。以前も見たことがある人だ。

 配信者名は、【アイアンハート】か。

 それじゃあアイハーのダンジョン探索をしばらく見させてもらおうかな。


 アイハーはダンジョンをじっくりと探索していくタイプだった。

 赤色の長髪という派手な髪の割に堅実だ、髪の割にといえば、赤髪長髪のくせに顔つきがオラオラ系でも不敵な笑みもなく、生真面目な表情で、地道に探索をしている。

 六層は樹海のフロアで視界がきかず物陰も多いが、それを警戒しながら、また何かありそうなところは確かめながら、ゆっくりと行動範囲を広げていっている。


『あ、こんなところに琥珀が!』


 木のうろを覗き込んだアイハーの表情が明るくなった。


『皆さん、こんなものが見つかりましたよ!』


 そう言ったアイハーが手にもっているのは、リング状の琥珀だった。


 ほー、なかなかいいもの見つけたな。

 これは森の魔力と生命力が凝縮されたもので、装備していると体力魔力が自動回復していくというかなり使えるアイテムだ。

 装備品が直接見つかることは稀なんだが、細かいところまでじっくり調べてたのが功を奏したな。探索者としての姿勢が好結果を生んだ。


 しかし、だ。


 俺は画面を見る。

 アイハーはカメラから遠くで琥珀の指輪を持っていて、なんなのか分かりづらい。俺は異世界で見たことあるからわかったけど、そうじゃなきゃなんか光ってるものとしか見えないだろう。それにアイハーも『こんなもの』って言ってるだけだしな。


 うーん、配信者としては腕がまだまだかな。

 あやちならなあ。


「ま、そういう素人感あるところから成長するストーリーを見るのもまた一興。完成品にはない魅力があるというものだ、しばらく見ようかアイハーを」


『あっ……はは、はしゃぎすぎですね』アイハーは照れ笑いを浮かべて、頭をかいた。『あっ、トレントです! もうこいつには負けませんよ。頭の木のまたを狙って……』 


 そうこうしているうちに、木陰よりカサカサ音を立てながらやってきた木のモンスター、トレント。

 アイハーは魔導書に魔力を集中すると、魔力の弾丸をトレントの木のまたに向かって発射する。それは的確に命中し、さっくりと撃退した。

 うむ、この前教えたトレントの弱点もしっかり覚えてるな。すーぐ忘れるやつもいるんだよなー、世の中には。だがこれなら教えがいがある。


 ……が、今日はお金がないので指南はひかえておく。


 まあ普通に投げ銭抜きでコメントをするのもたまにはいいだろう。

 コメント欄もそういう人が……ん?


『いやあ、今週は仕事が大変で、あまり配信できなくて申し訳ありません』


 ………………。


『有給取ってダンジョンだけ行く週間でも作りたいですよ。あはは、そんなの本当にできるわけないですけど』


 ………………。


『ゆっくり探索しすぎでしょうか? うーん、でも急ぐよりもしっかり見ていきたいんですよね。小心者なので』


 ………………。


「いや誰かコメントしようよ!」


 配信画面のコメント欄は凍りついたように動かない。

 なんということだ、誰もコメントしていない。


 リアルタイムの視聴者数が表示されているが(同時接続数とも呼ばれる)、それによると見ている人の数は二十四人。

 んーー。これだと、コメントがなくなりもするか。配信見ててもコメントしない人の方が多いらしいし。


 しかし反応が全然ないっていうのもやりづらいだろうな。ずっと独り言言ってるようなもんだからな。

 俺と同じくらいの歳で、ダンジョンの探索スタイルも俺の好きなじっくり派だし、応援する意味でコメントしてみるかな、普通のコメントを。


” ダズルヘイム: ゆっくり探索で全然いいと思います。ダンジョンは探索するのが一番楽しいんだから。その方が色々見つかりますし“


『ダズルヘイムさんこんにちは。そう言ってもらえると焦らずにやれて助かります。この指輪も、探索のおかげですしね』


 そうそう、探索こそ醍醐味。……っと言いつつ俺はさいたまダンジョン一気にすすんじゃったけどな。まあ明確な目的がある時はしかたないってことで許されるんだ。

 ある程度先の方までいってお金とこっちのダンジョンの特徴がわかったら、浅いところから迷路を進む粘菌のようにすみからすみまで探索していこう。


『こういう性分なのでなかなか変えられないんですよねー。会社でも仕事の要領が悪いってよく上司に言われてしまいまして、あはは』


 へえ、ダンジョン以外にも仕事もしてるのかこの人、すごいな。

 地球はそういう人の方が多いのかな?

 週末や夜に配信が多いっていうのも、それもあるのか。


 堅気の仕事の方がダンジョン配信専門でやるより安定してるし収入もいいのかもな。ダンジョン探索者って厚生年金も失業保険もボーナスもなさそうだし。

 調子のいい一日だけ見て儲かりそうだと思っても、ちゃんと計算するとほとんどの場合はどこかに勤める方が儲かるんだろうね。


 だから、アイハーみたいに働きつつ、趣味兼小遣い稼ぎでやるのが一番賢いと。

 ……でも、めちゃめちゃ赤い髪だよな、アイハー。

 許されるのか? サラリーマンがこの髪は。


” ダズルヘイム: 仕事って髪の毛自由な感じですか? “


『あはは、もちろんこれは地毛じゃないですよ、スキン使ってるんです』


 スキン、そういえばたまに聞くこの言葉、ちゃんと調べたことはなかったな。

 俺は配信を見ながら、検索する。


「ほうほう、ダンジョン内で見た目を変更できるアイテムがあるのか。ダンジョンの魔力と現代科学の技術の融合。魔力の濃いダンジョン内でしか使えないけど、見た目を変更できる。主に髪の毛とか防具のアレンジに使われる」


 なるほど、あやちが冒険者っぽいけどかわいいアレンジしてる防具を装備してたのは、そういうことか。あの新雪のように美しい銀髪もそういうことね。


「注意書きもあるな、『ただし人間の複雑な表情をリアルタイムで再現するのは難しいため、顔は変えられません』だと」


 残念、そこまではスキンでも自由にはできないと。

 しかしスキンってのは面白いな。気分で見た目変えられるのは楽しそうだ。俺もお金貯まったらスキン買って、金髪でツンツン頭にでもしてやろうか。


 なんて思いつつ、検索結果からアイハーの配信画面に俺は再び視線を戻す。



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