第21話 見ーつけた
先週土曜日にアイハーの配信を見てから数日。
ついに狙っている日が来た。
「あやちのダンジョン配信が……ある!」
雑談配信や晩酌配信でしばらくなかったダンジョン配信再開の日が今日。
七月の暑い火曜日、まさにダンジョン日和。
あやちの配信は夜六時からスタートすると一週間の予定に出ている。毎週配信予定を出しているのは助かる。あやちがマメな性格でよかった。
配信があるということは、確実にダンジョンに入る。
あやちは十三層を現在攻略中ということもわかっている。
帰還は十層と十一層の間にある中継点の転移門を当然使うはずだ。
つまり配信を見て、終了を確認してから転移門で待っていれば確実に会える。
会ってお《・》願い《・》を聞いてもらうことができる。
…………が、それはNG。
ギルドで初回講習の時に教えられたが、転移門での出待ちはマナー違反ということだった。付きまとわれたくないとか、プライベートで話しかけられたくないとか、そういう探索者も当然いるわけで。
ギルドが始まった頃は、そうやって待ち構えて強引に連絡先を聞こうとする不埒な輩がいて問題になったらしい。まったく、ダンジョンをマチアプ扱いするとは探索者の風上にも置けないやつらだ。
ギルドさん、ストーカー対策GJ。
そんなわけで、この作戦は使えない。
探索者登録したばかりでいきないルール違反したら、目つけられちゃうしな。
だが俺はあやちと出会って交渉しなければいけない。
ではどうするか?
「こういうときは力技よ」
俺は朝一でさいたまダンジョンに出かけていった。
俺はいつものように電車に乗って大宮駅まで向かっていた(さいたま市は複数の市が合併してできた市なので広く、市内の移動でも電車を使うのだ)。相変わらず暑い中人が多くて余計に暑い。はやくギルドで冷えてえなあ、と思いつつ吊り革に掴まっていると、
「おい見たか? シャドウリオが雑誌のダンジョン配信者特集に載ってたの」
「へー」
「へーって、反応薄いなおい」
「いや俺はシャドウリオ別に推してないし」
シャドウリオ? なんか聞き覚えがあるような……。
話してるのは、大学生っぽい二人だな。
「さいたまダンジョンで今一番アツい二人だぞ? まあいいや、貸してやるから読めよ、そして二人のどっちを推しにするか決めろ」
「どっちかは絶対推さなきゃいけないのかよ」
ダンジョン配信者って雑誌とかにも乗るのか、熱い業界なんだな。
あ、電車がついてしまった。熱いホームにでなければいけない。つらい。
つらいのは我慢して、ギルドに到着。
受付嬢の海羽さんに挨拶をして、俺は転移門に入った。
すでに解放している、十階と十一階を繋ぐ転移部屋からスタート。
目指すは十三階だ。
「…………ふーーー。これでいいかな」
俺が今日のダンジョン探索を始めてから実に十二時間以上が経過していた。
すでに午後九時だ。モンスターに苦戦はしないとはいえ、さすがに疲れる。ダンジョンを歩くだけでなく、しっかり地形を把握しながらじっくりねっとりしゃぶり尽くし探索したから。
だが、これで準備はできた。
スマホで配信をチェック。
『今日も見てくれてありがとね、みんな。次回こそ十三層でいいもの見つけてみせるから、明日も見に来てね❤ またね~』
あやちが配信を終えようとしているところだった。
喋るあやちの後に見えている背景は、十三層の光景。
牢屋の前にいるが、鉄格子の右から三本目にサビが濃く浮いている。
部屋の広さは、画面から見える範囲では十畳くらいで、たらいが一個と壁に備え付けられた手錠が二個ある。
「…………五時間前、だな」
解析完了。
今あやちがいる場所を特定した。
俺が五時間前に見た部屋だ。最寄りの階段Cから三十分くらいの位置にあった。
となると帰る時に通るルートは…………。
「よし、脳内マッピング完了。出発だ」
ダンジョンには複数の階段がある階層もある。
十二層と十三層を繋ぐ階段は三つあることが探索でわかり、それに便宜上A、B、Cと名付けた。そして俺は――十二時間かけて、その周囲の地形を頭に叩き込んだ。どういう通路があり、その通路から入れる部屋はどのような特徴があるか。
もちろん、あやちがいる場所を知るために。
あやちがどの場所にいるかがわかれば、帰り道もわかる。普通に考えれば、最短の階段へと向かってくる。その経路にいけば、会えるってわけだ。
これなら転移門で出待ちじゃないからルール違反でもない。完全に合法に出会える。
そうして経路をたどること五分。
新雪のような銀髪ロングの女性が牢獄の前方から歩いてきた。
女性はこちらに気づくと足を止めて、目を丸くする。
「大樹さん!? わあ、偶然ですね」
「久しぶり、彩乃さん。ちょっと話したいことがあって」
彩乃さんは配信で見るのと同じ可愛い冒険者服のアレンジを着ているが、これとか銀髪もスキンなんだろうな。
実際はちゃんと防御力のある装備をしていて、本当の髪も銀髪ではないんだろう。俺もなんかスキン使ってみたいな。ギルドの売店、今度覗いてみよう。
彩乃は小走りで俺の側に来ると、ってちょっと側すぎない?
「話したいこと? なんですか? あれ、その言い方だと、偶然じゃなくて彩乃を探してたんですか、もしかして? でもどうしてあやをダンジョンで見つけられたんですか? こんな広大なところで?」
「なに簡単な話だよ、配信画面に映ってるダンジョンの風景を見れば、どこにいるかはわかる。壁の汚れ、牢獄の錆、細かな器具などなど。それらを元に彩乃さんの現在地を割り出す、さすれば最寄りの階段へのルートもわかるから、帰り道で確実に会えるってわけ」
「えっ……へ、へえ~~。す、すごいですね、そんな細かいとこまでダンジョン見られるなんて」
「まあ、ダンジョン長く潜ってれば自然とどういうとこに注目すればいいかもわかってくるんだよね」
ダンジョン歴二十年のスキルに彩乃さんも後ずさりするほど驚いてるな、フフフ。
さて、それじゃあ本題だが。
「それで、話したいことなんだけど……これから話すことは秘密にして欲しいんだ。いい?」




