8.最後の日記
紅葉月の六日
流石に誤魔化せなかったな。今は騎士団に見守られながら最後の日記を書いている。残忍なものだな。どうせこの日記も燃やされるんだ。少しくらい派手に書いてもいいだろう。これが遺書になる可能性は極めて低い。最後は万年筆の書き心地を楽しもう。
六年前から日記を買い替えたんだ。それからは驚くほどに書くようになった。そのせいか、こっちの日記は手つかずになったがな。仕方ないな。
アステリアから追い出された時はどうするかと思ったな。一時間で出てけと言われ、荷物も大慌てで準備した。お陰で色々忘れ物をしてしまったな。ただ、まぁ良かった。
☆☆☆
ロイヤルヤードに来て記念すべき十回目の秋。スティルは脱力し、椅子にもたれかかっていた。発注届は、既に義父に送達済み。後は、修正点が無いことを祈るだけだ。
アリアは仕事を、セレナは学校へと行っている。下手したら一週間外に出ないスティルとは大違いだ。
(あー、マジでミスしてませんように。お義父さんのアッパー痛いんだよ…)
ミスをすれば体に教え込むのが、アリアの父親流らしい。お陰でここ数年で関節技、アッパー、手刀まで受ける羽目になってしまった。
そんな事を考えていると、ゴンゴン、と力強く扉を叩かれた。
「誰だ?来客…聞いてないな」
まぁいいか、とスティルは立ち上がり扉に向かう。そして、扉を少し引いたが直ぐに閉じる。
(六人、殺気は五人…一人は素人か)
素早く扉を閉めたつもりがそうもいかなかったらしい。
「スティル・サイリック。良くもノウノウと生きていたな」
どういう訳か、今の騎士団は魔術も使うらしい。魔術を使い、扉を壊してきた。スティルが素早く結界を張ったため大事には至らなかったが扉は木っ端微塵だ。
「アステリアとロイヤルヤードは友好国では無い。お前らがここに来れる訳がないが?」
「お前が消えれば我々を見たと言う人間は消える。これは国王陛下の命でもあるのだ」
「お前らはアイツの駒かよ」
「国王陛下を良くも……」
一人は手を強く握り今にも腰のサーベルを抜きそうだ。後ろに控えてる三人が必死に止めてる。
「それに本気で捕まえられると思ってんのか?仮にも魔術国家機関にいた人間だぞ。お前らが魔術で俺に勝てる訳無いだろ」
そう言いながらスティルは、右手で炎を出す。表情は抜け落ち、冷酷だ。
天八座には色々な名称がつけられる。スティルが現役時代に言われていた事と言えば、魔術を行使すれば生物問わず焼き払う冷酷無慈悲。
──魔術の天才。スティル・サイリック。
それがスティルに付けられた名称だった。
「スティル・サイリック。お前は勘違いをしている」
「何がだ。お前らはどうせ俺の首でも取ってこいとか言われてんだろ」
親指を立て自らの首を切る様な表現をする。騎士団は嘲笑ったように笑みを浮かべる。
「そうだよ。お前を抹消し、魔術は努力で手に入ると世間に知らしめるのだ」
ハッハッハ、とどこぞの悪役の様に高笑いをしている。スティルはそれを冷たく見つめている。
「質問だ。お前らの後ろのヤツ。あんた何もんだ」
スティルは、騎士団の後ろ。眼鏡をかけ、怯えきっている青年を指さす。目の前にいる騎士団の一人は青年を見た後、スティルに視線を戻す。勝ち誇った顔をしていた。
「探偵だよ。そうだな、冥土の土産に教えてやるよ。こいつは、アステリア一の探偵、カレン・ナンシェ。お前が結婚した事も、こっちに住居を構えた事も掴んだんだよ」
スティルは、自身のロイヤルヤードの生活がほぼ筒抜けなのだろうと目星を立てた。しかし、少しの違和感を覚えたのだ。
(…結婚した事か、セレナの事を知ってるなら妻子持ち、と言うな。つまり、まだセレナの事は知られてない…と考えていいな。下手に漏らさないようにしなければ)
魔力とは親から子へ遺伝していくものである。その為、両親のどちらかが魔力量が多ければ必然と魔力の多い、つまり、強い魔術が使える子が生まれる。
魔術しか見ていないアステリア王国だ。スティルの娘、セレナの事を知られたら彼女も処刑または引き込まれるだろう。それは父として絶対に避けたい事だ。
「お前らは何を求めてる」
スティルは身の危険も分かっていた。しかし、自分と愛する人達。それを天秤に掛ければ答えは簡単だ。
「お前の存在を抹消する事だ」
「そうか」
☆☆☆
ロイヤルヤードに来てからは四季を楽しんだな。それと、過去の自分に言えるならもっと人に関心を持て、だな。
奥さんとも会えたのは大きい。姓が変わった事で騎士団の追跡を少し隠蔽出来たのもそうだが、愛する、という感情がよくわかった。愛されてたのか?未だに真意は不明だな!
もっと色々書きたいが、手紙も書かなければならない。最後にな。
そして、追い出される要因にもなったが、この信念は絶対に曲げないと決めている事がある。これを書けば絶対に捨てられるな。仕方ない。
魔術は才能だ。
絶対にこれは、死んでも曲げない信念だ。




