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7.父の日記

秋桜月の十三日

 娘が生まれた。アリアの腹が毎日大きくなっていくのを見て、心配したな。母親とは強いと改めて思った。娘にはセレナ、と名付けた。穏やかで、優しい人になってほしいな。悪いやつからは父さんが守ってやるからな!!

 …本当は五日前に生まれたんだけどな。日記の存在を忘れていた…。いや、日付は五日前だ!だから、セーフ‼

 

 ☆☆☆

 

「なぁ、アリア。この子の名前はリンゴとかどうだ?あ、レモンでもオレンジでも良いな…」

「一旦果実から離れなさい。親バカ」

「俺は真剣ですけどー?あ、イチゴとかどうだ?可愛いな」

「この耳は飾りですか?それとも難聴ですか?医師という妻がいながら?」

 スティルの耳を容赦なくアリアは引っ張る。いだっ⁉、と言う悲鳴が部屋中に響き渡る。その悲鳴をかき消すようにアリアはスティルの口を塞いだ。ハッとしたスティルと口を塞いだままのアリアの視線は一つに向かう。

 布団の上ですやすやと寝ている女の子だ。アリアは、何も言ってないが表情が煩いスティルをほっとき、我が娘のもとに寄る。先程までとても泣いていたが今ではスヤスヤと寝ている。いつの間にかスティルも来ていた。

「やっっば…天使過ぎる」

 スティルは一人で感動している。数日前、初めて我が娘を見た時のスティルは、まぁ面白いものだった。赤子が泣いてるのを見てまず慌てていた。なんで泣いているんだ⁉そんなに俺が嫌いか⁉と一人病室で騒いでいた。看護婦に怒られたのは言うまでもない。

「…そうね、可愛いわ」

 アリアもとても幸せそうに娘の頬をツン、と押す。スティルは隣で羨ましそうにしている。

「……あ、天使とかどうよ」

「…名前、とか言うんじゃないでしょうね」

「え?いや、名前候補」

 アリアはもう呆れ、知らないフリをする。スティルは構って欲しそうだ。アリアを後ろから思いっきり抱きしめる。

「なに、突然…動きにくい、離して……離して!」

「おやおや?アリアさーん。照れてますねー。俺の奥さん初心!可愛い!」

「黙りなさい!」

「いやー、可愛い。娘も可愛いが俺の妻可愛すぎだろ。ツンケンしてる所も……」

 スティルは完全にアリアで遊び始めた。アリアは相当に嫌がっているようにも見える。痴話喧嘩をしていると女の子が泣き始めた。

「あら、貴方のせいで泣いた」

「俺かよ⁉」

「えぇ、貴方のせい」

「ち、違う娘よ!父さんは何もしてないぞ!」

「生まれて数日の子に言い訳してどうするのよ」

「大事だろ!?第一印象って!」

「貴方の第一印象は病院で怒られていた男よ」

「ぐっ……」

 そんな会話をしていても女の子はぴゃんぴゃん泣いている。アリアは抱き上げ寝かしつけようとする。スティルは、前回抱き抱えたらアリアには危なっかしい、と言われ、娘には更に泣かれ、と負の連鎖に陥った。

 その為、スティルはジメジメと隅っこで待機している。しばらくすると娘は泣きやみ、またスヤスヤと寝始めた。

 アリアは、布団に娘を寝かせた後、息を吐いた。スティルはその様子を見終えた後、アリアと娘に近づく。

「さて、本当に名前決めないとね…」

「やっぱりイチゴじゃダメか?」

「ちゃーんとした意味が有るなら考えてあげなくも無いわ」

「意味か…音が可愛い」

「却下」

 アリアはもう諦めかけてる。スティルもそれを察したのか、慌てて辞典を開き始めた。百科辞典だ。

「……」

 アリアは何も言わずにスティルから視線を外す。その代わり、娘に視線を向ける。やはり、とても可愛い。

「海とかでもいいのかもしれないわね」

 ねぇ、どう思う?と問いかけるように娘の頬をツン、とアリアは押す。スティルは海、と言う言葉に反応し顔を上げる。

「なんで海だ?まぁ、海良いかもな」

「穏やかでしょ?綺麗だし」

「お前、海そこまで好きじゃなかっただろ」

「なんの事かしら?」

 アリアは視線を娘に固定したままだ。スティルは、フム、と顎に指を当てて考え込む。

「海なら、群青とか凪、波…が連想されるな…。水関連だとせせらぎとかか?」

「どうやって名前にする気よ」

「…ナミちゃんとか」

「いそう…」

 スティルは、更に考え込むように万年筆を取り出し、回し始める。深く考える時のスティルの癖だ。

(穏やかで、海……うみ?なんか難しいな…)

 考え込んでいるスティルの隣でアリアは娘の頬をツンツンとしている。もしかしたら、アリアの方が娘にゾッコンかもしれない。

「なぁ、セレナとかどうだ」

「…?聞いた事ないわ。どういう意味」

「確か…穏やかとか、静か…とかだった気がする」

「気がするって何よ」

「あと、ほら、せせらぎと似てる」

「初めの文字だけじゃない…」

 アリアは本日何度目かの呆れ顔をする。ただ、アリアも少し考えた後、娘の方を向き直り顔を覗き込む。

「…良かったね。お父さんがお名前考えてくれたよ。セレナちゃん」

「お、採用か‼」

「煩い。少し静かにしなさい」

 

☆☆☆

 

 いやー、やっぱりセレナもいいが、イチゴも捨てきれないな…。何かにイチゴって名付けるか?

 ぬいぐるみとか…。

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