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5.転機の日記No.1

桜月の三十日

 家族ができた。もう日記の頻度には驚かないぞ。諦めたからな!!だが、まぁびっくりだ。アリアがプロポーズを了承してくれてよかった。本当に良かった。あまりに感動しすぎると人は気持ちの整理でいっぱいになるんだな。日記に書きたいのに書けない。


☆☆☆

 

 その日、スティルは珍しく緊張していた。何度もジャケットを直し、部屋をうろうろしている。窓が開けっぱなしだからか、桜の花びらが部屋の中に入ってきてしまっている。

(落ち着け。落ち着け…こういう時は深呼吸…まてまて、深呼吸ってどうやるんだっけか!?)

 声は出していないが、行動はとんでもなくうるさい。元々身振り、手振りが大きいこともありそうだが、今日は特にうるさい。

「やば!?時間だ」

 スティルは時計を見て大慌てで、自宅を出た。

 しかし、数分後戻って来た。そして、チェストの中にしまっていた物を取り出しもう一度家をでた。


(待ち合わせは、十時三十分。今は…太陽の角度的に十時十五分から二十五分。あと五分で着けってか!?)

 ロイヤルヤードでは、紡ぎの祭りというものが行われている。これは、アステリア王国でも行われている祭りでもある。

 愛の最高神、シモール・ニュウテがこの日に山から天に上ったから…らしい。言ってしまえば、愛や感謝を紡ぐ日ということだ。スティルは、この日を知ってからアリアにしつこく誘いを掛けていた。相変わらずの冷たさだったが、どうにか休みを取ったとこの間の定期検診で言われていたのだ。スティルが、喜びのあまりに大きな声を出したのは言うまでも無い。

 全力疾走をしていたスティルは、待ち合わせの噴水広場についた際に一人の女性が何人かの男に絡まれているのを見た。女性は、アリアだった。

「ねーちゃん、あそこの病院の娘だろ?オレ、社長の息子だぞ。いい気分させてやれるけど?」

 スティルは、反射的に魔術を使おうとしたが慌てて引っ込める。魔術は、感情にも左右されるのだ。間違いなくあのまま魔術を使っていたら祭りどころでは無くなる。

「なぁ、いいだろ?待ち合わせか知らんが、すっぽかす奴はロクじゃない」

「そーだぞ?大人しく兄貴の嫁に来いよ」

 どうやら、アリアにちょっかいをかけているのは兄弟らしい。

(はぁ?お前らはいったい誰だよ?どうせ肩書だけみてんだろ)

 スティルは、アリアの方へ向かう。ガツンと言ってやろう、と心に決めたのは呆気なく散る。

「どちら様でしょう。わたしは、王国の全ての社長、次期社長候補を見ておりますが貴方の顔は存じ上げませんね」

 アリアは、冷ややかに兄弟たちに言い放つ。初めに話しかけた男は何かを言おうとしてるが間髪入れずにアリアは告げる。

「それに待ち合わせ時間はまだ過ぎておりません。すっぽかされたら相手の嫌な治療を受けさせるので問題ありませんので」

 アリアの本気の声色と表情に兄弟達は気圧されたのか、おぼえていろ!、なんてセリフを吐いて逃げていった。アリアは、それを見送り時計を見ている。それをスティルは見ていた。

(俺の好きな人……つっっっよ…てか、カッコいいな、いや…あのツンケンした態度も可愛い…)

 改めて、自身の惚れた女の良さを認識したスティルはアリアの元に近づく。

「悪い、待たせた」

「三十秒の遅刻よ」

「は!?」

スティルは慌てて時計を見る。長針は六を…超えていない。

「超えてねぇじゃないか⁉」

「冗談よ。そんなのも分からないの」

 スティルの慌てっぷりにアリアは面白いのか口を手で隠し、肩を震わせている。スティルは非常にふてくされている。だが、すぐに思い出した様に話しかける。

「てか、お前、ナンパされてただろ」

「あら見てたの。助けてくれない薄情な男ね」

「そこまで言うか⁉」

「煩い、ただでさえ行動が煩いのに声まで煩いとか正気じゃないわ」

 スティルはうぐっと言い返せない様子。しかし、アリアは気にも留めずに髪の毛を少し直している。街は、恋人たちの声や楽しそうな家族の声であふれ返る。すると、遠くから鐘の音がした。

「鐘…?まだ、じゃないか?」

 鐘は毎日三時間おきに鳴っている。それを頼りに国民は暮らしている。しかし、今鳴ったのはいつもの重い鐘の音では無い。軽い鈴のような音だ。

「あれは、山の鐘よ。今日は祭りだから」

「祭りと何か関係あるのか?」

「…それを知らないであんなにしつこく誘ってきたの…?帰ろうかしら」

「待て、待て待て、帰るな帰るな。悪いから、教えてくれ」

「…お祭りの逸話は知ってる?」

「え、あぁ、愛の神が…ってやつだろ」

「そうよ、愛の最高神シモール・ニュウテが山から天に上った。そこから、山で二人で鐘を鳴らすと愛が深まる、という逸話よ」

 ふーん、とスティルは興味なさそうだ。

「…やっぱり帰ろうかしら」

「だから、待て!!!」


☆☆☆


 いや、もしかしたら書けるか…?そうだな、まず、遅刻しかけたな。で、アリアがナンパされてた。あいつ、俺が遅刻したらいやーな治療させるとか言ってたんだぞ!?中々恐ろしいな…そこも好きなんだがな…


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