壊れた都市
新東京に来て数日。悠斗とエリスは当てもなく新東京を彷徨っている。探索だと二人は思っているだろうが、フラフラと当てもなく街を歩いているのだから間違いなく彷徨っている。
「で、ユウト。何か情報は得られたかしら?」
「その言葉、そのままエリスにお返しするよ」
情報らしい情報が全く手に入らない。伝手もジャン以外にはいないし、人との繋がりを作るのも大変なのだ。
「ハンター業なんて本当にあるのか。その方が疑問になって来たよ」
「そう思ってしまうほど、情報が無いのよね。やっぱり企業に顔を売ってみる?」
二人が得た情報の中には瓦礫の町から過去の研究データ。ハエレティクス、その武装を見つけ企業に持ち込む例はある。
ただ、瓦礫の町を当ても無く探したところで何も見つからないし、調査、情報。それらが重要になってくる。しかも、瓦礫の町を掘り返しているのは、新東京にある大企業達だ。
それらを出し抜いて探すのは至難の業と言える。企業が狙っている土地と被れば、実力行使もあり得るらしい。中には、ブロイエリッターやレッドバレッドの様な機体が眠っているのだから、それらを欲するのは当然と言えるだろう。
「それに、外敵が居ないのにも関わらず、この新東京だけらしいんだよね、壁があるの」
「戦後に作られたのだったら特別変だとも思えないけれど」
次の襲撃を恐れ、壊れた町を直し、作ったのが新東京だとすればエリスの言っている事も間違いではない。
「そうなんだろうけど、何かに怯えてるような? 上手い言葉が見つからないんだけど」
得た情報だと、北に二つの町が生きており、西にも二つ町が生きている。だが、どの町も壁など作っていないのだとか。
「この町では大型のシールドが生きているのかもしれないわね。けれど、なんでそんなものを装備しているのか、不明よね。攻撃される心配はまず無いはずなのに」
「都市から五キロも離れると都市との通信は不可能になるんだっけ。衛星が使えてないみたいだし、よっぽどの戦争があったんだね。こうして言葉にすると、もの凄く他人事に聞こえちゃうけど」
「実際に体験していないし、その途中なのだもの。私もまだピンと来てないわ。ここが日ノ本じゃなくて、何処か違う土地だと言われた方がしっくりくるもの」
目で見たものが真実。けれど、知っている光景は何一つとしてない。変わり果ててしまったこの光景こそが今の姿だと悠斗もエリスも理解はしているが、心までは付いて行かない。
「町で得られそうな話はほぼ拾った感じかな? エリスの案に乗って企業に顔出しもありかもしれないけど」
「どうしようかしらね。悠斗の顔はアリーナーで嫌でも売れるでしょうし、外に出てみるっていうのはどう?」
「気が滅入りそうな光景だからね、ここ。俺は異議無し」
「なら、決定ね」
ハンター業と言えば聞こえはいいが、壊れた都市をひっくり返して必要なものを拾って来るゴミ漁り様なものだ。生きている施設から何かを奪うと言う点で見るとただの火事場泥棒でしかないが、今は掘り起こして資源をリサイクルしているとも言えなくもない。
戦争に使われていたであろうハエレティクスにパーツ。それらを拾ってきてお金にする。
戦争で埋もれてしまった機体は数多くあり、今も探せばそれなりに見つかる程だ。
「壊れた都市、か」
「ホントに、壊れちゃったのね」
壊れたビルに、道路。今悠斗達が居る場所は荒野ではない。だが、生きている都市でもない。そこに文明があり、壊れたと思わせる風景があるだけ。
「この辺の近場なんて何もないだろうけど、ここに来た理由は? 遺跡でお宝発見って訳じゃないんでしょ?」
宝の地図一つ持っていないのだから、探しようも無い。
「それ、あえて聞く? 分かってるくせに」
仮想通貨はあれど、現金が無い。無暗に使うわけにもいかないので、お金に困っている事は困っているが、目下の課題は現状把握である。
「新東京とは言っているけど、ここは本当に東京なのか。ってところかな。この瓦礫。もとい、この都市であったであろう残骸からその土地の情報が欲しかったってところだと思う」
「あら? 妥当な見解ね。てっきり、ハンター同士の戦いを見られるとか、どんなお宝が眠ってるんだろう。なんて所だと思ったのだけど」
「怒られるかもしれないけど、ブレイバーに似てるからね。それも期待してないわけじゃない。俺達が眠ってた場所みたいな研究施設がまだあるんじゃないかって」
同じ仲間を見つけられる可能性は十分にあるのだ。そして、コールドスリープから目覚めた同類ならば、間違いなく仲間に出来る。
「つまり、ランカー達が何処かでコールドスリープしている可能性ね」
「俺達がこの時代に起きた理由がさっぱりわからないんだよ。戦争している時に目を覚まさせて、戦わせるっていうのなら分かる。けど、起きたのは戦争後なんだよね。この状態じゃ戦争どころじゃないし、生きる為に足掻いてるって感じがする」
悠斗の目から見る日ノ本はまともに機能しているとは思えない。この状態で戦争をなどとてもではないが考えられないのだ。
ましてや国内で争うなどもってのほかだと。けれど、エリスの考えは違う。
「こんな状態だからこそ、だと思うけれどね。今頂点に立てばそのまま情勢をひっくり返すのは難しいと思うわ。一部の人達は違うのだろうけれど、大勢の人は安寧を求めるものだと私は考える。それを救ったのなら、それは英雄と呼べるのではないかしら?」
「そう言われるとそんな気がしてきた」
「そうよ。こんな時代だからこそ覇権を握りたいと考える人は絶対に居るわ」
エリスが言い終るやいなや、二人の機体に救援信号が届く。位置情報の確認を確認したいが、衛星が生きているわけではない。レーダー機能を全開にして、周囲の情報を拾うしかない。いち早く機体反応をキャッチしたのはエリスである。
「ほんと無法地帯よね。嫌になるわ。どうするのかしら? 助ける義理なんて私達には無いけれど。そうね、ユウト貴方に任せるわ」
「首をツッコむなって言われるのかと思った」
「今の気持ちを素直に言うならそうね。けれど、私達は今命を預け合ってる仲間よ。亀裂を生むくらいなら、ユウトに貸しを作れる」
口ではこうは言っているが、悠斗はエリスが危険な事をわざわざ口に出して教えていると解釈している。危なっかしい自分の手綱を引いてくれていると考えれば、不満など無い。
だが、気持ちはこの面倒事に首を突っ込みたくて仕方がないのだ。救援信号が来ているのに、見て見ぬふりをするのは気分が悪い。
「ゴメン。助けに行きたい」
「そう言うと思ったわ。狙撃銃は無し。アサルトライフルでの援護しか出来ないわよ?」
「俺の背中に張り付いてきそうな奴らを撃ってくれればいいよ。後は何とかする」
煙の上がる距離が近くなってくる。そこで戦闘が行われていると言う事だ。
救援信号を出した機体が生き延びていられる理由は、瓦礫の都市に身を隠していられるからである。
「こちら救援信号を貰った者です。お返事願えますか?」
『た、助かったであります。此方は、一二三岬と言うであります。ハエレティクスは二機。同型機。敵機は五機で、GF型〇六の量産タイプ。申し訳ないのですが、援護をお願いしたいのであります。残り弾数も此方は殆どなくて、応戦のしようもなく……ですが、報酬はしっかりと出すであります』
切羽詰まっている声だ。今すぐにでも助けを欲していると考えていいだろう。
「此方の機体信号を送ったわ。そちらの機体信号も送ってほしいのだけれど?」
『送ったであります』
「悠斗、情報送ったわよ」
悠斗の敵味方を識別するデーターが更新され、悠斗達を含めて四機の信号がレーダー映る。一番高いビルに飛び乗り、蒼い機体と紅い機体がその場所に陣取ると、辺りを見回す。
「確認した。えっと、俺は、さっき話した子の相棒。二人のシールドは生きてるかな? 生きてるなら、俺達の方へ来てほしい。その方が早く合流できる」
囲まれてハチの巣だけは回避できると考えての提案だ。悠斗が助けに行くよりも、逃げて貰って悠斗が暴れた方が二人の生還率は高くなる。
『そうしたいのは山々なのでありますが、機体が損傷、シールドシステムこそ壊れてはないですが、相方の頭部破損。ボディにも攻撃を受けていて、一部システムがダウンしてる状態であります。動いて、見つかったら次は退けるのは難しいかと』
逃げるにしても、手負いのハエレティクスをカバーして逃げおおせなければならないというのが問題だ。
追われている人数と手持ちの武器を考えても難しいと言わざるを得ない。だが、二人には逃げられると思える構図を描き出している。
「上手く逃げれているのならそれでいいわ。悠斗、お仕事よ」
「あいよ。派手に暴れてれば、逃げる隙くらい作れると思う。エリスの方で二人を回収して欲しい」
「そうね、射線の通らない場所じゃ私の援護能力も低下してるだろうし、いいわ、それで。今回のミッションは二人を撃破されないで逃げる事。その最中に倒すかどうかはユウト、貴方に任せるわ」
レッドバレッドから収集した周辺の地形を取り入れ、合流ポイントと最短の経路を指定してブロイエリッターも含めた三機に送り付ける。
「了解。無理はしない程度に、俺も確認をしたい事がある。なんだったら、倒せるかもね」
「大した自信ね。期待してるわよ、ユウト」
相方の言葉を聞いて、安心を得ると、一呼吸置いてこう答える。
「ミッションスタートよ。作戦目的は救援信号を出している機体を保護、無事に新東京に送り届ける事」
飛び出すブロイエリッター派手に飛び出す。それは、蒼い機体に目をむかせる為でもある。
「一二三さん。青い派手な機体がそちら向かったわ。その機体が通った方角に私が居る。そこまで来ればミッションコンプリートと言った所かしら」
『りょ、了解であります』
一二三岬が言葉に詰まったのには理由がある。殲滅を勝利条件としなかったのだ。
言わなかっただけなのか、本当に逃げ切れると思っているのか。まず、逃げ切れる保証が何処にも無い。数に差があるのだ。
新東京に戻ってもなおイチャモン、難癖で責めたてる可能性の方が大きい。今の新東京は治安はいいとは言えない。誰もが生きるのに必死で、地位の高い者同士以外に法律など通用しない、そんな場所になってしまったのだから。
「一二三さん、目立つように立ち回るつもりだけど、一応、敵の目だけは注意してね」
一二三達をあぶりだす為なのか、わざと瓦礫を破壊して回ているハエレティクスが二機。報告では五機のはずである。つまり、煙を出している側は誘導だ。
「こいつらは、相手にしちゃいけない。一二三さん達を狙ってる部隊があるはずなんだ」
機体の色が今回は幸いしてブロイエリッターに敵の目が行く。飛んでいる敵に対して、地面からの対空砲火はただでさえ当たらない。加えて、悠斗なら尚当たる要素は少ないだろう。
二機の位置は把握している。残りの敵の位置を知れるチャンスなのだが、ブロイエリッターの目は良くない。
レッドバレッドの目が当てに出来ないのだから、何としても残り三機をあぶりださないといけない。
「やってる事がこれじゃ逆だな。飛び回ってる俺には目もくれないと。かと言って、一二三さん達の方に向かうわけにもいかないし」
結果としてすることは一つになる。ガンブレードから大型の徹甲弾をビル群に撃ち、崩壊させる。それがあぶり出すのならば一番手っ取り早いのだ。
「どっちが追いかけてるんだか」
シールドがあると言えど、埋もれるのは嫌だろう。敵機がビル群を撃たなかったのは、一二三岬達の機体
を奪おうとしていたからである。
悠斗はお構いなしに、一、二、三、四、五発。
「出てきたな」
出てきた所に残りの一発をお見舞いする。本来ならば大切な一発のはずなのだ。
ガンブレードのエネルギー補給が出来ず、エネルギーソードが使えない現状、悠斗の武器で効果が見込めそうなのは、大型のガンブレードに付いている大型徹甲弾のみ。
これにも問題点がある。弾倉はシリンダータイプで装填数は六発。予備弾数はもう六発。盛大に今、六発を吐き出したのだ。
「試してみたい事はいくらでもある」
アリーナーで見たあの黒い機体が悠斗の脳裏には焼き付いている。ブレイバーでは接近戦をするのは、一部の物好きだけ。あれだけの実力を持っている者自体が少ない。
だからこそ嫉妬もする。この世界であれだけの技術を身に付けたのは生きる為以外の他でもないはずなのにだ。不謹慎だと思いつつもブレイバーでトッププレイヤーだった意地。
悠斗が狙っているのは、シールド同士をぶつけて、シールドの耐久値を減らす事、それと、手に持っている大型のガンブレードの切れ味だ。エネルギーソードでない状態で何処まで期待できるのか。
シールドを全損させるのはリスクが高い。悠斗がしようとしている事は、味方同士の同士討ち。弾の雨を掻い潜り、蹴りつける。転がした所にワイヤーを引っ掛けて、引き戻しながら、ガンブレードを振りかぶる。
「効果はどうなのかねぇ。ありそうも無さそうだけど……」
一撃で斬れるとは思ってはいないが、効果の確信を得るまで斬り続けるわけにもいかない。斬る事を取りあえず端に置き、相手のシールドを潰す行動へとシフトする。
蹴るだけでも、自分のシールドの耐久値は減るが、それは相手も同様。
本来、ビル群は盾になりえるはずのものだが、悠斗が相手では違う。逃げるのに、ビルが邪魔をする。追いつかれ、ガンブレードで叩きつけられ、蹴りつけられるのだ。
保護されるのは、機体のみで、コックピットはそうはいかない。揺さぶられ、味方機に衝突して、更にシールドを削る事になる。
弾を撃ってハチの巣にするでもなく、確実に、少しづつ追い詰められていく感覚。
悠斗は相手の声は聞こえないが、言葉に出来ない恐怖が彼等に広がりつつある。
「何だってんだよ、あの蒼い機体」
「知るか!」
「幽霊だ。青い幽霊だぁ!」
三者三様に言葉で恐怖は伝染し、怒鳴り声は悲鳴に変わる。シールドの耐久値が無くなり、手に持つライフルは恐怖で乱射しているに過ぎない。
そして、弾が当たらないのだ。最初の方はいざ知らず、今はただ弾を垂れ流しているだけだと言う事に気づいていない。
追い詰められ、機体の頭部と腕を斬り飛ばされる。一人、また一人と。
◆
「悠斗、敵は撤退したわ。一二三さん達も回収済み」
「了解。試したい事も出来たし、満足かな」
「貴方って、ホント怖いわね」
「怖いって」
「言葉の通り。これじゃトラウマものよ。ね? 一二三さん? あの戦い見ていたでしょ?」
「はいであります。撃った弾は六発。大きな剣で叩きつけて、蹴り飛ばしただけで戦いが終わると、誰が想像しましょうか。味方で助かったのでありますよ」
乾いた笑いを見せる一二三岬。素直に凄いのと、助かった感度。全ての感情が混ざり合った乾いた笑いである。
「ね? 少なくとも私には無理だもの」
「あの黒い機体はきっとやれるよ」
「あれは特別。それに命を賭けて生きてきたんでしょうしね。ちょっと待って!」
唐突にエリスの声色が変わる。警戒すべき何かをレーダーに捉えたのだ。
「ここで一時停止」
ライフルに付けたスコープを覗き込む。大きな影が少しづつはっきりと映って行く。
「これは、艦ね。ハエレティクスを運ぶには十分の大きさがある反応だけれど」
「カメラ越しの映像って見れる?」
「映像、送ったわ」
送ったのは、悠斗だけではなく、一二三も同様に今レッドバレッドが見ている光景を見ている。
「あ、助けの艦であります。私達はあの艦のキャプテンの依頼でこの地域を調べてたのでありますよ」
『こちらはジャンだ。お前等生きてるか?』
これは一二三達にのみ送られた通信だ。
「はい。生きているでありますよ。ぎりぎりでありましたが、通りすがりの探索者に助けてもらいました」
『人見はどうした?』
本来ならば、二人分の返事が戻って来るはずなのだが、返って来たのは一人分だけ。
「コックピットが潰れて……その、中がどうなっているかまでは……」
完璧に潰されているわけではないが、それでも返事を出せない程には破壊され、パイロットにもダメージがあるはずと想像出来る。
『潰れきってないならば、可能性はある。気に病むなと言いたいが、ほどほどにな』
「はい、であります……」
一二三の返事を聞くと、次は一二三だけではなく、悠斗、エリスの機体へ通信を繋げる。
一二三と会話した時のトーン低さは無く、悠斗達に合わせたテンションで口を開く。
『助けてもらった相手が良かったな。悠斗、エリス嬢。世話になった』
「これ、ジャンの艦なのね。まったく。私達が居なかったら、この子達どうなってたのか分からないわよ?」
『痛い所を突くねぇ。取りあえず、こっちに来ないか? 話はそこでも構わないだろう?』
このお誘いは渡りに船だ。悠斗は一線交えているし、弾の補充やシールドのリチャージも出来るなら済ませた方がいい。
「丁度いいかな。休憩もしたいし」
「そうね。お邪魔しようかしら。新東京まで送ってもらうのも手よね」
『おし、こちらで収容する』




