機体の整備と、装備
強面のオッサンに絡まれていたおかげで、ここに来た本来の目的を忘れかけていたが、エリスから何とか話題を反らそうとしていた所で目的を思い出す。
「じゃ、近いうちにエントリー出来るか調べてくるよ。よほどの敵、さっきみたいな黒い機体なのに当たらなければ、勝てるだろうし」
女心は分からないと内心で思いつつ、エリスの逆鱗に触れないように、カウンターへと足を運ぶ悠斗。
「あの、出場したいのですけど」
「初めての方ですよね」
カウンターのお姉さんから説明を受ける悠斗。
ランクは全部でF~Sランクまである。一つ上のランクと当たる事もあるだろうが、基本的には、近い実力者としか当たらない様になっている。
機体制限は無し。火器などは、アリーナ側が許可したものしか使えない。
大型のミサイル一発撃ちこんで終り。なんて試合にさせないためだ。
強力なシールドを展開出来るとはいえ、それには限界がある。
それらの了承を得る形で記入してエントリー完了という流れである。
「これで終わりですか?」
「はい。後は、出場できる日時を教えて頂ければ、こちらで試合の日を報告させて頂きます」
「じゃあ」
出来れば早い方がいいと考えて、明日チェックを入れる。機体の損傷はしていない。推進剤を補給すれば、問題なくハエレティスクは動く。武装も弾を詰めるだけだ。
「登録完了です。ご希望された日時にはズレがある事をご了承ください。それと一戦終わるごとに、都合のいい日を明記して頂ければ幸いです。でわ、御用があれば声をお掛けください」
登録が済めば、次に必要なのは、ハエレティスクの整備だ。さて、どうするかと悠斗が思考した所でエリスが姿を見せる
「登録完了したのね。あっちの方で、パーツショップ見つけたわ」
「何処かに消えたと思ってたら、探索してたのか」
「必要でしょ? 私もスナイパーライフルを見たかったし」
「いいのはあった?」
「試し撃ちしてみないと何とも」
不意に悠斗に近づいて、耳打ちをするエリス。
「それと、さっき私が見た限りだと、エネルギーライフルや、ブレードの類は無いって頭に入れおきなさい」
「分かった」
自分達の持っていた武装は、もしかしたら、とんでもない武器かもしれないという警戒をしなくてはならないのを悠斗も理解する。
エネルギー消費が悪いからユニバーサル使用ではないという理由もあり得るが、一撃必殺を見込める武器なのだ。多少の燃費の悪さには目を瞑るという選択肢を捨てているとも思えない。
勿論、アリーナー側が許可をしていないと言う事も十分にありえる
「すみません、パーツ見せてほしいんですけど」
「カタログはコレな。あと、身分を証明できるもんを提示してくんなきゃ売れねえよ」
こんな事を聞かれるのは、建前上は、ハエレティクスの武器が簡単には手に入らないようになっているからだ。手に入らない様に一応はなっているが、裏で武器が流れているのも今の新東京の実情である。
西から来たという証明こそ無いが、ゲートに居た兵から外からの来客である証しを貰っていて、それを提示するとタブレット情の端末を渡され、ホログラフィックで投射されているパーツに目を通す。
「機体の発注から出来るんだ。ま、今回見るのは、武器なんだけど」
「機体のパーツもだけれど、私達も武器を持っておいた方がいいわね。結構簡単に手に入る物みたいだし、護身用だとしても必要よ?」
「使う機会は無い事に越したことはないけど、備えは必要か」
現在悠斗の来ている服は、施設にあった服をそのまま着ている状態だ。病院で着るような服ではないにせよ、防御性能は無いに等しいだろう。
「なら、防弾ジャケットに、ハンドガン当たりが妥当かな」
「そうね。ハンドガン、スペアマガジン。悠斗は銃の扱いは?」
「Mシリーズしか使った事ないかな。それなりには当たる」
「ま、妥当な所よね」
エリスがチョイスしているのは、Gシリーズの反動の少ないハンドガンだ。扱いやすく、初心者から、女性にまで幅広く扱える代物だ。威力が低い分、正確に当てれさえすれば取り扱いはもの凄く良い。
「うげ、やっぱ防弾ジャケットは高い」
悠斗が顔を歪めたのは値段だ。例え、それが必要だとしても、高い物は高いと感じざるを得ない。悠斗は大金を手に入れた後も、豪遊というのをしなかったのだ。
「それで、命が拾い得るなら、安い物よ」
ジャケットの値段が、一人、三十万。それを二人分に、ハンドガンを二丁にスペアマガジンを入れると、全部で、七五万の出費になる。
理屈は分かっていても、というのが、人というものだ。
「とりあえず、それは仕方ないとして、後は稼がないとダメか」
「そうね。機体のパーツは更に高いもの。欲しかったライフルも、百万だし」
そのエリスの欲しいと言っていたライフルを見て、悠斗は顔を歪める。
「そのライフルって、手間ばっかりかかって、良い噂聞かなかったけど?」
「それこそ、素人の目線ね。ツーアクションの狙撃銃だけど、弾の装填は選べるし、何よりも大口径。カタログスペックを見るに、使える弾に、一撃でシールドを食い破れる代物があるわ。弾の方もそれに比例して高いのだけど。その辺を差し引いても十分すぎる代物よ」
「エリスの腕前あってこその銃ってわけね。普通のパイロットは扱いきれないよ。セミオートで撃てた方がよほどいい」
悠斗の言葉に気分を良くしたエリスは、胸を張って、髪を払うと、悠斗に言葉を返す。
「褒め言葉として、受け取っておくわ。事実、私くらいしか、そんなピーキーな武器を戦場では見なかったもの」
意図せず、エリスのご機嫌も上々。ジャケットとハンドガンを受け取ると、宿に戻ってくる。が、扉が閉まり、鍵をかけるとその表情を険しいものに変えるエリス。
「はい、悠斗。パーツショップを見て、思った事は?」
テーブルにある椅子に腰をかけて、足を組むと、本題とばかりにエリスが言葉にする。
これがエリスの本題である。この世界に置いての不安要素であり、都合があまりにも良すぎるのだ。
「え? なんか、俺の知ってるパーツが沢山あったかな?」
「そう、それが問題よ。ここは現実であって、ゲームの中じゃない。なのにもかかわらず、ゲーム内のネームのままパーツが存在していた」
あり得ない事ではないが、その可能性は限りなく低い。たまたま、そんなめぐり合わせの言葉では説明になっていないと考えてしまうほどに。楽観視は出来ない。
「でも、ブレイバーって名前じゃないみたいだけど」
「ハエレティスク、ね。その辺の名前の変更があるのなら、パーツやその他の装備だって名前が違っていてもいい。なのにもかかわらず、パーツ名は一緒だった。それに、ハエレティスクの操作だってそうよ。あまりにも都合が良すぎる」
エリスの抱いていたおかしなところ。ゲームの世界から一部が飛び出して来たかのような、そんな世界を見て、符に落ちないのだ。
「考えすぎって、笑いたい所だけど……誰かが意図的にそうした?」
あまりにも、悠斗やエリスに都合よく出来ている。それでいて、優勝賞金は自分の口座にある状態なのだ。
「そう考えた方が自然よね。まるで、この世界になる事を見越していたかのような世界よ」
では、そうしたのは誰なのか。それは現状の情報では全く足りない。そこから出た答えは、推測と呼ぶにもずさんなものしか出来上がらないだろう。
「誰が、こんな世界を予想出来たんだか……もう、神様くらいしか居ないと思うけどね」
「それを掴むためにも、もうしばらくは情報収集が必要ね。バトルアリーナーに、出来れば、ハンター行為でもしてみる? 東京から遺物になった過去の遺産を掘り起こす作業。必要があれば、ドンパチもしますと。ブレイブワールドの設定が飛び出して来たのかと思っちゃうくらいよ」
悠斗がバトルアリーナーの登録に勤しんでいる時にエリスが入手した情報である。
見た目がいい女性の方が、男も口は軽くなるものだ。
「縄張り争いに参加って事? それもなぁ」
「企業の護衛だそうよ、基本的には。ま、派手に暴れまわるのも変に目を付けられそうだし、暫くはバトルアリーナーでいいいと思うけれど。悠斗はアリーナ―。私は情報収集」
この提案には悠斗も異論はない。悠斗も、情報収集が上手いかどうかで言えば、ヘタの類に入る側だ。
「それが妥当かね」
「当面の行動は決まりね」
今後の予定が決まると同時に、悠斗へ試合の日時が表示される。
そこには、使うハエレティクスの運送に、セコンドを付けてもいいというものだ。
「何? 誰からか、メールでもきたのかしら?」
「あぁ。バトルアリーナーからね。日時が決まったみたい。七日後の十三時」
口にするよりも、見て貰った方が早いと判断して、電子メールをエリスに投げる。
ナノマシンと端末補助により、電子メールを拡張現実での手紙加工し、渡したい人に投げる事によって、データを渡すことが出来る。
「乗って、町を徘徊するわけにもいかないのは分かるけれど、運送、ね」
「なにか問題でも?」
「真っ赤な他人に機体を任せるのよ? 自分の命綱を」
悠斗の考え無しの言葉で空を仰ぐエリス。エリスの考えでは、整備ですら忌避したい状態なのだ。
「えっと、聞いても?」
悠斗も警戒こそしているが、まだまだ甘い。それをエリスも分かっているからこそ、聞かれれば答える。
「整備も出来れば信頼ある所に任せたいわ。何故か分かるかしら?」
「邪推するなら、機体に小細工を仕掛けられる」
「その通り。悠斗の言う通り、気にし過ぎならいいわ。でも、信用は出来ない」
ゲーム内ならNPCだから、警戒なんてする必要は無い。だが、現実ではどんな手を使われるのか分からない。ましてやルーキーだ。どんな洗礼を受けるのかも想像はつかない。
「なら、俺に石をくれた人とか?」
甘い所はあるにせよ、指摘されれば考え無しで言葉にはしていない。
「同じよそ者ってわけね」
「そう。それに、外から来たんだったらハエレティクスの整備くらいやれると思うんだよ」
実際ハエレティクス襲われれば応戦の必要も出てくるはずなのだ。艦だけで撃退出来るとも思い難いという悠斗の考えである。
「私達くらい子にお父様、なんて言わせてる変人だけれど」
「いい血筋の子とか? エリスは疑いすぎだと思うんだ。正直、疑いだしたらキリがない」
誰も信用できないからこそ、周りに居る人物が全員敵に見えるエリスの言葉も分からなくはないが、悠斗の言葉もまた事実だ。
「こんなへんぴな所に居るのに、ユウトは気にしなさすぎ。と、言いたいけれど、ま、貴方の言う通りよね。うん、取りあえず、あの人にもう一度会ってみましょうか」




