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強面のオッサン

「はぁ……」


 重い息を吐くとトイレから姿を見せる悠斗の姿がある。何も口にしていない以上、胃液しか出す物が無かったのは、救いだろう。


「スッキリしたかしら?」

「まぁね。吐くモノが無かったのは救いだったかも」

「それは僥倖。でも、のんびりしている暇は無いわ。右も左も分からない以上。情報は必須。異世界に飛ばされました。なんて、お笑いの状況じゃない限り、ここは戦争が起きた後の世界」


 現在の状態を達観出来る様な神経を悠斗も持ちあわせてはいない。

 現状は、最悪と言ってもいいのだから。


「身の振り方を考えないと、ってことね。最悪、最低限のお金は稼がないといけないわけだ」

「そうよ。って、分かってるじゃない」

「グルーブのレートが高すぎる。この宿の値段から考えても、俺達が持っていていい値段じゃない。それに、どの時代にも悪人はいるもんだ」


 グルーブを使って、豪遊でもしようものなら、直ぐにでもお金の気配を嗅ぎつける輩は必ず居る。その対処を悠斗達は持ち合わせていない。

コネもなければ、何も無いのだ。お金だけで捻じ伏せられる相手は少数と見るべきだろう。それも、法がしっかりと機能していればの話である。

 相手を捻じ伏せる手段が彼等にあるとするならば、ブレイバー、いや、ハエレティスクだけだ。


「分かってるならいいわ。私はもう少し、お金を換金してハエレティスク用のスナイパーライフルを買う必要があるのかもしれない」

「バトルアリーナーに出るって事?」

「それもあるけれど、ゲーム風に言うならハンター業よ」


 呼び方はどうあれ、ハエレティクスを使った仕事があると見ている。軍の機体という考えも出来るが、軍の機体と並べておくとはあまり考えずらい。そこから導き出された答えである。

 埋もれている瓦礫の中から使える施設を探す。そこから知識や、生き残っているハエレティクスを回収する仕事があってもいいと考えたのだ。

悠斗達はそれに襲われたと考えるのが現在では一番の納得材料だろう


「それに俺達は襲われたって見るのが自然なのか。確かに、大当たりを引けばお金になりそうだけど、これって、食いつないで行けるほどお金になるのかな?」

「見渡す限り、瓦礫の荒野。この辺で当たりを引くのは無理そうだけれどね。私達と話した兵士も言っていたでしょう? 遺跡探索が仕事になるって。それが出来れば外の景色を怪しまれずに見ることが出来る。私達の機体は目立ちすぎるわ。ハエレティスクのハンガーを見たでしょう?」

「見た」


 そこにオリジナル性はなく、凡庸型と言っていい機体が並んでいたのだ。

 多少パーツに差はあれど、量産型。その言葉に尽きる。


「まぁ、生産性に事置いて、ワンオンリーの機体を作るメリットも無いのだけれど」


 多くの人間が尖りすぎた機体を制御出来るわけもなく、コスト面から考えても、凡庸型を少し弄った方が様々な面で効率がいい。


「その情報を手に入れる為にも、バトルアリーナーへ行くべきかもね。取りあえずは、何か見ないと」

「さっきまで、吐いてた人の言葉とは思えない言葉ね。もう大丈夫なのかしら?」

「大丈夫じゃないけど、動かないといけないのも分かってる」


 それは、ほんの少しの覚悟なのだろう。生きるためにしなくてはいけない事だからだ。


「なら出発よ。と、言いたいところだけれど、今日の所は休みましょう。一戦交えているわけだし、私達が高揚しているから大丈夫なだけって考えた方がいいと思うのよ」


 ましてや、二人は人を殺めたばかりでだ。実感出来ていないなどもあるが、エリスの言葉通り高揚しているだけ。言い方を変えれば、心が驚いて、無理やり今の現状に慣れようとしている。


「俺って、まだ顔青い? いや、無様な姿は見せた後なんだけどさ」

「そうじゃないわ。このまま行ったら間違いなく、貴方も私も心が壊れる」


 これだけ環境が変われば、今まで通りに行くはずもない。世界が変わりすぎているのだから。それは悠斗も自覚しているところだ。


「ゴメン。なんか、一杯一杯で。エリスがあまりにも普通にしてるから」

「育った環境の差よ。表情に出ていないだけね。さ、もう寝ちゃうわよ?」


 寝つきが悪くなると言う事も無く、ただ泥の様に眠る。それを実感したのは起きてから。夕方から、朝まで寝続けてしまったのだから、想像以上に負荷がかかっていたのだろう。

 少し遅い朝食を食べ、宿を出る。行く予定だったバトルアリーナーへと足を延ばす。

 往来の激しい所へ出て、大きな建物が二人の目に映る。そから聞こえてくるのはもの凄い歓声だ。それだけ人を熱くさせ、声を大きくさせる場所。


「凄い声。それに、ブレイバー……じゃなかった。ハエレティスクが戦ってる音か、これ」

「ドンパチを生で聞けばこんなものよね。それでも、防音くらいはしていると思うけれど」

「それが追いつかないほどの音か。もしくは、お金をケチって建てたか」


 ハエレティスクのコックピット内は、完璧な防音である。ノイズキャンセリングのシステムがコックピットに搭載されていて、外の音を拾うにもシステムを一度挟む必要がある。

 単独行動なら問題は無いが、騒音で作戦中に声が拾えなくなるのを防止するためだ。


「中を見てみましょ」

 先を歩くエリスを追いかける様にして、アリーナのフロントに入ると、今戦闘中のハエレティスク達の姿が映し出されていて、それと同時に二機に対しるオッズが表示されている。


「そういえば、賭けがあるのか」

「それらしい事をあの兵士も言っていたわ。ま、何処までやり合うのかはしらないけれど」

 模擬弾でもなければ、VR空間でもない。となれば、機体は損傷し、パイロットは下手をすれば死ぬかもしれない。


「戦闘終了条件ってなんだ?」

「さぁ、完全破壊かもしれないわよ?」

「そんな冗談な」


 エリスの言葉は勿論冗談だ。戦闘をするたびに、ハエレティクスとパイロットを釈迦にしていたら、余程のお金が動かない限り、やろうと思う酔狂な存在は居ないだろう。

 戦闘不能にでもするか、白旗を上げるかで試合終了がいい落としどころというモノである。


「やっぱバリアーって便利だよな。ある程度攻撃を防げるって、無理に突っ込んでも多少大丈夫って事だし」

「それは、突っ込まれた側も一緒じゃない。バリアーを剥がされた所をハチの巣って事もあり得るわよ」


 それぞれの主張が違うのは、戦い方の違いからである。どちらの言い分もケースバイケースで正しいが、悠斗の行動は自殺行為に見える人が殆どだろう。


「なんか、味気ない試合ね。弾を撃ち合って、バリアー剥がしが最優先になるのは、わかるのだけど」

 二人が想像していた激しいバトルとは程遠い、手堅い試合だ。シールドを武器にお互いのシールドを剥がす。剥がした方が先制を取って、ハエレティクスに傷をつけられるという形になる。

「片方が剥がれた」

「後は、一方的に決まるって事ね」


 エリスの言葉どおりに、バリアーを剥がされた機体は、アサルトライフルの弾を浴びせられ、片腕を吹き飛ばされると、白旗を上げる。それを合図に試合は終了となる。


「ちっくしょー! なんだこのクソみたいな試合は。もっと戦いようがあんだろ」


 デカい声を上げる強面のオッサン。バリトンボイスを響かせての、このうなだれようだ。


「まぁいい次だ。次こそが本命だ」


 そんな言葉を口にして、購入窓口へと足を向ける強面のオッサン。


「賭け事が出来る場所だし、ああいう人もいるか」

「あんまり関わりたいとも思えないけれど」


 次の試合は、闘技場から見るのではなく、いくつものドローンで撮影されている光景をリアルタイムでいくつものモニターで写している。

 黒い機体に緑色の機体。悠斗やエリスの機体に比べると、見劣りするが、それでも高性能の類の機体である。機体にパーツ。それらは、簡単に買える代物ではないからだ。ある程度量産が利くし、修理も可能だとしても、限界はある。

 バトルが開始され、一手目の行動で、悠斗が口にする。


「この勝負、黒い機体の勝ちだね」

「私もそう思うわ」


 トッププレイヤーである二人が口を揃えて、黒の機体に天秤を傾ける。

 セミオート式のライフルを右手に、左手には、サブマシンガン。対する緑の機体は、ガトリング砲に、全身に付いているミサイル。躱しきるのは、至難の業とさえいる。


「ほう、なんでそう思う?」


 先ほどの、叫んでいた強面のオッサンが面白そうに言葉にする。


「って、何よ、おじさん」


 突然絡んで来た強面のオッサンを警戒する様に言葉にするエリス。どう見ても、絡まれたいと思える手合いではないのは確かだ。


「まぁ、一手目でそんな事を口にするから不思議でな。この試合は両者とも強者だ。どっちが勝っても不思議じゃない。さっきのクソみたいな試合に比べたら、この試合こそが本物だ。でだ、そう思った根拠は?」


 それは、悠斗にエリスも理解している。お互いに、戦い慣れた者同士でなければ、動けない動きというものがあるのだ。


「あの黒い機体は、懐に入り込もうとしてない。緑の機体は、量産型って感じだね。手堅いって言い方も出来るけど」

「緑の機体も動けてはいるけど、ミサイルがけん制にしかなっていなんじゃ、話にならないわ。シールドを剥がす所からスタートしなくちゃいけないわけだし、悪くない判断だと思うけれど」

「弾を撃たせてるってわけか。確かに、一度リングに上がっちまえば、弾の補給は無しだ。それ込で相手を倒す算段を付けないといけねえ。最悪、高振動ブレード辺りでも仕込んでいれば、シールドも崩せるしな。つっても、高振動ブレードもシールドの波長を崩すもんだから、一度斬りつければ良いってもんでもない。ま、そんなどんでん返しは中々ないが……」


 悠斗とエリスの言葉通りに、試合は進んでいく。まるでそうなる事が分かってるかの様に。


「未来が見えてるのかよ」


 強面のオッサンの驚きの声は当然と言える。まるで、そこで戦っているパイロットの気持ちを汲み取って、行動を知っているかのように、言葉にするのだから。


「黒い方が仕留めに掛かる」

「いやしい動きね。ユウトに比べると動きに雅さが無いわ」


 右腕に装備されていたガトリングが空回転を始める。持ち弾を撃ちつくした証拠だ。

 パージして、ギミックで仕込んであった両手に高振動ブレードを出現させると、破れかぶれに見えるミサイルを追加で発射。

 それに合わせ、防御をシールドに任せて突進を仕掛ける。

 ぶつかり合えば、バリアーの強度が物をいい、緑の機体に軍配が上がるはずだ。だが、そうはならない。


「きっとシールド同士をぶつけるつもりだ」


 生成された結晶をエネルギーに変えるのは、バリアーもエネルギーライフルや、エネルギーソードと変わらない。それを使って敵のバリアーを破り、撃破しているからこそ、分かる一手だ。


「そんなデタラメな方法で無理やりぶち破ろうってか。だとすると、最後には、機体の装甲が物をいう」

「本来なら丸裸にされる所だけど、ガトリングも撃てないんじゃ弾が当たる心配は無い。例え、高振動ブレードに加えて何処かにサブマシンガンを持ってたとしても、手遅れだと思うよ。ほら」


 悠斗の言葉通り、腰に持ってた、サブマシンガンを抜き放ち、バリアーが壊れたと同時に黒い機体へと射撃を開始するが、あれだけの至近距離でも当たらない。


「近いほうが当てやすいなんて思ってるなら、大間違いよ。機動性の高い機体相手にあの距離は、悪手。機体に振り回されるだけよ。機体の反応速度にも、人の速度にも限界がある。あの緑の機体は、反応速度を超えた黒い方の機動力で頭に飛ばれて、頭上に一撃でお終いよ」

 エリスの言葉通りに進んでいき、頭を吹き飛ばされた緑の機体は、白旗を上げる事になる。


「はぁー。スゲーな、お前さん達の観察眼。お前さん達、パイロットなのか? それも熟練の。でなきゃあそこまで言い当てられないだろ。いいもん見せて貰ったわ」

「ま、そんな所です」

「バトルアリーナーに出場するら、お前さんに賭けるわ。そん時は、宜しく頼むぜ?」


 つまりは、稼がせてくれよ? そう受けっとった悠斗は苦笑いを見せると、の場に不似合な存在が現れる。


「お父様。こんな所に居て。ちゃんとお仕事してください」


 メイド服を来た少女。お父様と言う事から察するに、強面のオッサンの娘という事になるが、悠斗にはそれが信じられない。このオッサンの遺伝子から、こんな可愛い子が生まれうるのか? と。


「すみません。お二人とも。お父様が御迷惑をかけていたようで」

「いえ、そんな事、ないです」


 困った顔をむけられれば、悠斗程度女性経験では、鼻の下を伸ばさざるをえない。

 エリスと会話が出来るのは、同じゲームをしていた親近感からだ。


「良かった。でわまた」


 お辞儀をするメイド。その横に居る強面のオッサンが丸い何かが付いた首飾りを悠斗に二つ投げる。


「おっと」

「礼だ。取っておいてくれ。お守り代わりの気休めな石っころだが、お近づきの印だ。俺は、西から東に商品を運んでる商人で珍しいもんを扱ってる。また会おうぜ」


 そんな言葉を残してメイドさんは、強面のオッサンと一緒に、アリーナーを後にする。


「悠斗の好みは、ああいうのがいいのかしら?」

「うん。あぁ!? エリスも十分すぎるくらい可愛いよ。間違いなく」


 結局、辿り着くところは好みと言う事になる。御淑やかな子も良いなと、悠斗の中で思ったのが言葉に出た形だ。


「ふーん。まぁ、いいけれど」


 エリスは悠斗を相棒だと思っている。それでいて、ライバルだとも。再度戦場で悠斗を見た時は、また戦えると興奮すら覚えた。

 そんな相棒だと思っている相手でも、他の女に目が行くのは同じ女性として、なんとなく嫌なものなのである。


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