新東京
レーダーやカメラに頼らずとも目視で町が見えて来てもおかしくない距離まで来ている。
「エネルギーライフル置いてきてよかったの?」
VRゲームの時と違った形状で大型でははあるが、狙撃銃である事には変わりない武器だ。
『あんな大きなの持ち歩いたって邪魔なだけよ。弾も無いんだし。必要なら取りに戻ればいいわ。岩陰に置いてきたから、そう簡単には分からないでしょうし』
悠斗の持つガンブレードも同様に大きい。彼がガンブレードを置いて行かなかったのは、剣だからだ。
代わりに、ブロイエリッターの持っているライフルをレッドバレッドが持っている。
「見えて来た」
鉄の城、そう言葉にするのが似合っていそうなほど物々しい。大きなゲートに、ブレイバーが三機待機して、来訪する者を止めている。
『止まれ、そこのハエレティスク二機』
オープンの回線に流れ込んで来る声。
「ハエレティスク?」
『この機体の呼び方じゃないかしら?』
「あぁ。呼び方が変わったのか」
時代の流れと共に、呼び方が変わるなんて事もそう珍しい事ではない。
『何処出身だ?』
「えーっと」
『西の方から来たって言えば分かるかしら?』
「確かに西から来たけど、出身は……」
『こら、バカユウト。もう少し考えなさい。コールドスリープから起たばかりなんて、どう考えても、世間知らずのお嬢ちゃんと坊ちゃんよ』
そこまで言われて、やっと思考が追いつく。おのぼりさんだとばれれば何処まで足元を見られるのか。それだけならばまだいい。
機体事取り上げられた挙句、放り出される事もあり得る。ハッタリも時場合によっては武器となるのだ。
『西か。戦争後、あっちこっちでジャミングが酷くてな。京の都から来たのか』
悠斗達を救った一つの要因。この都市では、西の状況がつかめないのだ。地域ごとに強力な電波障害が起きており、長距離通信は不可能になっている。
今の日ノ本は、外国と外交すらない状態だ。この国の外国人は、戦後に残っている者達のみである。そういった要素が集まり、悠斗達が戦った事も彼等には認知すらしていないだろう。
『ええそうよ。証明できるのは、この機体だけっていった所かしら。物珍しかったのか、ちょっと、襲撃を受けてね。お土産もあったのだけれど、無くしてしまったわ』
『京の都の物は、俺達じゃ手に入らない物ばかりでな。物を見せられても正直、見分けがつかん。ハエレティスク二機の管理費用と、お前達二人分含めて、十万だ。現金あるか?』
『私達、現金持ち歩いてないのよ。グルーブで支払える?』
グルーブというのは、同盟国作られた仮想通貨。一番信頼できるお金となっているのが、悠斗やエリスの常識である。
『あぁ、西には金が余ってるのかね。まぁいい。要求した。確認してくれ』
エリスに表示されているのは、グルーブ支払い額にして、千。国によって、レートこそ違えど、この金額は何かの間違いかと思うほどである。
だが、兵の反応を見るに表示されている額で間違いはない。
『金額に間違いがないなら、通してちょうだい。後、換金もしたいのだけれど』
『あぁ、現金は取られちまったのか。中に入ったら、ちょっと待っててくれ』
ほどなくして、重厚なゲートが開く。他にもハエレティスクがハンガーにある事を踏まえると、似たように外からハエレティスクに乗って、この都市にやってくるのは、悠斗やエリスだけではないということだろう。悠斗とエリスがコックピットから降りると口笛を吹く男が居る。
「歳はまだ若いがいい女になるぜ、これは。ディナーを御一緒したいね」
一言で済ませるならば、遊んでいそう。この言葉に尽きるだろう。
「そう? ありがとう。でも、男は間に合ってるわ」
そう言って悠斗の腕を引き寄せると、腕をつねる。
「あっ!? ちょっと座りすぎて、身体がこっちゃったかな?」
つねられた悲鳴を何とか誤魔化すと、笑顔だけを兵士に向ける悠斗。
「男持ちか。さぞ坊ちゃんなんだろうなぁ」
それは、悠斗の容姿を見て言った言葉だ。良くも悪くもない顔。ただ、誰もが見ても、裕福に育ってきたとだけは想像出来る。そんな顔だ。
「まぁ、否定はしないです」
事実、グルーブの通貨だけで見るならば、二十億。かなりの大金である。加えて、悠斗の生きた平和な時代を考えれば、今の世では世間知らずの御坊ちゃまの完成である。
「高嶺の花かぁ。で、兄ちゃん。いくら換金するんだ?」
「じゃあ、取りあえず二万グルーブで」
「デカい額を換金するな。また取られても知らねえぞ?」
端末を取り出して、それに、悠斗の携帯端末を当てる。
「一束百万だ。数えるか?」
「いえ、そこから十万程抜き取って良いんで、情報、教えて貰えます?」
「いいねえ。世渡りが下手かと思えば、中々に分かってるじゃねの」
チップを配って気分を良くさせた上で情報聞き出すというのは、ゲームで得た知識である。
特別悠斗がそういう交渉に優れているからではない。故に、この見た目チャライ男が嘘をついていても判断のしようがない。
換金ついでに相手の反応をみて、どれだけの額なのかを見たのだ。その上で、これだけ渡せば、気分が良くなるだろうという金額を与えた。それは成功といえる。
「そうだな。大金持ってるんだ。安い店は止めておけ。変に狙われるぞ? 日ノ本の東京といや、戦争前は花の都だったらしいが、今はスラムだってある危ない都市だ。名物のハエレティスク同士を戦わせるバトルアリーナーがあるくらいか。ここを出て、北西にある飯屋、和って店がある。宿もやっててな、そこがお勧めだ。飯は美味いし、小奇麗にもされてる。ま、俺の身内が経営してる店なんだけどな。身内びいきだとは俺も思うが、変に探し回るよりはいいって言っておくぜ」
「いいですね。宿と、お食事処はきまりです」
用意されていた服がそう見せるのか、エリスがほほ笑むとよりお嬢様に見える。
「くっそ。ホントに、いい女だなぁ。後だ。これは重要だから絶対に覚えておけよ。スラムは、町の東地区。あそこだけは寄るなよ? ま、雰囲気が違うから分かるだろうがな。そこのいい女なんて連れてたら一瞬でカモになるぜ」
「想像以上に怖い所ね、東京」
悠斗も驚きの撫で声のエリス。それだけで、悠斗のからは、鳥肌と変な汗が噴き出している。似合っていないだなんて、口にした日にはエリスに蹴られるだろう。
「ま、そういうこった。物見遊山で来たんだったら、二、三日でこの都市を出ていく事をお勧めする。ハエレティスクの操縦には自信があるんだろうが、生身の戦闘経験がないんじゃ、金持ってるぼんぼんなんて、カモだよカモ」
「ま、物見遊山なんでお土産と、食事。後はハエレティクスのメンテナンスが受けられれば、問題ないですよ」
「そっちの心配も必要か。この辺は東京跡地だからな。その辺の地面に沈んだ都市の名残がある。そんな訳で、この辺じゃ遺跡化した旧東京の遺物探しが職業になるんだ。無くなっちまった技術は多い。おっと、話が反れたな。そんな訳で、整備が出来るところは多い。でもまぁ、装備なんかの補充をしておきたいなら、さっき言ったリング。そこで、武器も整うし、整備も頼めるだろ。他になにか聞きたい事はあるか?」
親切で聞いているのだろうが、返答によっては悠斗達は怪しい人間だ。何も知らないからこそ根掘り葉
掘り聞きたいところだが、それが出来ない。
結果として、出せる答えは一つしかなくなる。
「今の所はないですね」
「そうか。なら、新東京へようこそ。まぁ、さっきも言ったが、目玉なんてバトリアリーナー位なもんだ」
そこまで口にすると、合点がいったのか、悠斗の脇腹を肘で小突く。
「あぁ、もしかして、そっち目的か? 腕試しにってパイロットは多い。一旗上げれば企業のバックアップあり得るしな」
「腕試しってのはあるかもしれないですね。西には無いので。無理行って、里を出て来たのもそれが一つなのもあります」
これは咄嗟に出た嘘。それっぽい事を口にしただけである。
「酔狂だねぇ。ま、頑張れよ。お前がエントリーするなら、多少賭けてやってもいい」
「その時は勝ちますんで、是非お願いします」
「言うじゃねえか。ま、これも何かの縁だ。多少は期待してやるぜ。ほれ、証明書だ。無くすんじゃねえぞ?」
「じゃあ、また」
追加で五万を握らせ、お互いに微笑み合う。他人が見れば気持ちわるい事この上ないが、悠斗と、あの兵士の間には、確かな金の繋がりが出来たのだ。
お金だけの安い関係と言えばそうだが、その安い関係を壊すにも、それ相応のお金が必要になる。それをしてでも、相手に得をさせないといけない。
手を振って、何事も無かったかのように町へと出る悠斗達。
「悠斗も、中々やるじゃない。もうちょっと、おどおどするのかと思っていたわ」
エリスの知る限り悠斗の取った行動は、お金だけの安い行動だ。けれど、賄賂は時と場合相手さえ選べば便利に運ぶ。悠斗達に有益な情報を持って来れば、またお金を得れるお客なのだ。
悠斗や、エリス達から見ても大金を握らせて、味方とまでは行かなくとも、何かの特になればそれでいい。今の彼らに必要なのは、お金だけの関係だとしても、味方を得る事。
それを悠斗が狙って行ったかは別だが。
「何となく、この世界のノリがこんな感じじゃないかってね」
「それはゲームっぽいのが抜けないって意味かしら?」
悠斗の言葉を聞いて、目を鋭くするエリス。
エリスの地雷を踏み抜いたのかと勘違いを起こすほどの目力に圧倒され、たじろぎながらも、何とか返事を返す悠斗の姿がある。
「そう、だけど……」
不思議そうに聞いてくる悠斗に、真剣なまなざしを向けたエリスがこう返す。
「その考えは間違えよ? 命を失いたくなければ、考えを改めなさい。それ以外の答えは要らない」
考え方の差。この戦争が起きた後の世界で、悠斗が居た世界の優しさを望むなら、それは無理だ。身ぐるみを剥がされて、終わりだろう。
悠斗には自覚が足りないのだ。だが、それも仕方ないといえる。
ぬるま湯に浸かっていた人間が寒空に投げ出されれば、それ相応の歓迎受けるのは常だ。身構える事が出来ただけでも運がある。
「確かにその通りだ。ブレイバーも思い通りに動かせて、ここを何処か、VRだと思ってた節がある。俺が殺したパイロットだって今日だけで、いくつ増えた事やら」
自覚すると同時に、悠斗の顔が青くなる。想像してしまったのだ。自分が殺した相手がどうなったのか。苦しんだのか、即死だったのか。腸を撒き散らして叫んでいたのではないかと。
「俺が思ってる以上に、メンタル豆腐なのかも」
「覚悟の差ね。吐くなら、宿に行ってからにしないよね」
「俺も、こんな往来の道で吐きたくない……」
青い顔をした男の子が女の子に連れられて宿を取るのだから、視線を集めたのは言うまでもないだろう。




