巨大ハエレティクス
切り落とされた腕はスペアパーツを付けるだけで、修理完了となる。つかの間の休息を得た悠斗は、すぐさまブロイエリッターで再度出撃をしている。
ライフルの徹甲弾では役不足で、エネルギーライフルも殆ど効果を出していない。圧倒的な質量を持った兵器。今の状態では、巨大怪獣相手に、生身で戦っている様なものだ。
「あれ、どうやって動いてるんだよ? 滅茶苦茶だぞ?」
「パパも驚いてたみたいだし。予想してなかったんだろうね」
無重力状態で浮いているわけじゃないのだから、大きくなればなるほど機体にかかる負担は大きくなる。
大きければ、重力で潰れるのが通りだ。
『効果があるのは、エネルギー系の物だけ。どれだけ大きい結晶体を乗ってるのよ』
『多分だけれど、当初大きな町を守るのに使ったサイズくらいはあるんじゃないかしら?』
どれだけ撃っても、ジェノヴァシールドに遮られて、挙句、近づけば敵の砲撃を浴びる事になる。何度試しても結果は同じだ。
「それって、核すら一撃くらいは守るって代物でしょ?」
だとすればハエレティクスの撃つ弾は、例外なく豆鉄砲だろう。
「うーん、あの都市の中心部は昔の町並みを再現してるって話だし、もしかしたら、オリジナルの方が隠し持ってたのかも? 遠距離誘導ミサイルの心配も無いしね」
『今戦闘ログを確認してる。何だコイツは。あり得ない耐久値だぞ? そもそもどうやってこの巨体を維持してやがる。刻印術は試したのか?』
『やったわ。シエルのとっておきを撃ったけれど、効果があったのかは、怪しい所ね。逃げる準備でもしておいた方がいいかしら?』
『まてまて、そう簡単にあきらめるな。目には目をだ。大型のエネルギー砲があったろ? あれ、動かせるか?』
聞いた先は、叶である。
『整備はされていますが、エネルギー充填までに、おおよそ六〇〇秒。打つ方角を間違えれば、新東京に大穴が空く事になりますが』
『倒せないと意味が無い。やるっきゃないだろうよ。どうやって動いてるんだがは分からないが、かなりの数の人数が入り込んでると見るべきか。各機の映像からデータを作成する』
ハエレティクスが得た映像からパズルのように巨大ハエレティクスを完成させていく。
未だ未完成ではあるものの、一応のデータとして、完成させたデータを送る。
『出来た映像とデータを送ります』
各々がデータを確認する。送り付けたジャンですら、改めてその大きさにため息を吐く。
『なんてデタラメな大きさだよ』
敵は既に敗走。撃たれる心配があるのは、あの巨大なハエレティクスだけだ。砲撃を躱しつつ、その時を待てばいい。
『皆さん、後三〇秒で臨界に達します。回避の用意を。かすめただけで、機体は大破するレベルです』
「悠斗、これ以上は」
「分かった」
巨大な砲撃。荒野を更に焼き尽くして、巨大ハエレティクスへと直撃をする。
『敵機への着弾を確認』
『倒したのか? いや、ピンピンしてやがる。が、少し動きが鈍ったか? あれだけの攻撃を受けきって、エネルギーが底を尽きた? なら、そもそも動くはずがない。戦闘ログをもう一度漁って……』
「もうマズいよ、パパこの巨体を最前線で維持するのは」
正面に当てたエネルギー砲で数割の砲台を壊したとして、取りつけられている砲台の数が何せ多い。壊さないよりマシと言うレベルで、近寄れば、雨の様に砲弾を浴びせられることになる。
『もう少し待ってくれ……これだ。コイツ、ジェノバシールドで固定してやがる。大、小の結晶体を積んでな』
「それ、エネルギーどっから持ってきてるんですか!」
『そりゃ原子炉だろ。ぶっ壊したら、辺り一面ドカーンに決まってるだろ。そりゃ、エネルギー砲とはいえ歯が立たないわけだ。てか、今のが効かなくて良かったな。壊してたら、ドカーンだ』
現在も、送られてくる映像をジャンの周りに並べて見ている。半永久的に動くであろう巨大な兵器。それだけならまだいいが、弾が尽きた後に自爆等をされればたまったものでは無い。
何を仕出かすのかを考えれば、止めるより他ないのだ。
『ちょ、どうしろって言うのよ』
「破壊せずに、機能を停止させろだなんて無理ですよ。てか、破壊も無理なんですけど!?」
『分かってる。とんだ置き土産だぜ。この映像を見てほしい』
ブロイエリッターとレッドバレッドに送られたのは、六つの映像だ。
『コイツ、身体の支えをシールドでこなしてやがる。うごけなくして、亀の甲羅にしてやりゃいい』
「した後は?」
『正直に言う、コイツは、機能停止したら、起爆するかもしれない』
『核爆発なんでしょ? 危ないなんて問題じゃないわよ』
爆発の中心地に居たら、ハエレティクスに乗っていたとしても、無事ではないだろう。
『悪い、大分焦ってる。亀にした後が何も思いつかねぇんだよ。仮に、シールドをぶっ壊したとしても、自爆、弾を撃ちつくしても自爆。あくまでも可能性だが、無いとは言い切れない。世界を壊す自爆兵器って考えると、コイツは理想なんだ……』
血が出そうなほど、強く手を握る。いくら考えても、最善の答えは逃げる事にあるからだ。
爆発の中心地に居れば間違いなく無事では済まない。
『あぁ、クソッ! 本拠地も一発なら何とかなるかもってもんだし……取りあえず撤退だ! アイツを撒かない事には本拠地には戻れねぇ。何処かに捨ててくるぞ』
脱力と共に、椅子に深く座り込む。腕を組むと、腕に当たるのは、憲明の遺品である記憶ディバイスである。
「こいつは……試してみる価値はあるか」
端末に接続して、中のデータを取り出すと、そこにあるのは、今尻尾を巻いて逃げだしている巨大ハエレティクスのデータである。
目を通して、可能性のある項目を探す。もしかすれば、一発逆転があり得ると。
だが、掬いあげたデーターは憲明の最後の挑戦状とも言える。なんとかしてみろと。
「なんて置き土産だよ、憲明さんよ」
データーの中には、絶対に倒さなくてはいけない理由を見つけてしまった。放置しても、変に破壊しても、大惨事を引き起こす。
◆
巨大ハエレティクスからの撤退戦だ。逃げるだけなら、問題なく逃げれる。逃げれるが、逃げる先は何処なのかは、不明である。
「撤退戦か。アレが爆発するとどうなるの? 広範囲に被害を出すってくらいはわかるんだけど」
「予測範囲はこれ。ここで爆発すれば、新東京も半分は瓦礫に早変わりだね。勿論、ジェノヴァシールドで防いだ場合は、耐えると思うけど。そんな大きい結晶を持ってる事自体今は宝の持ち腐れになっちゃうし、殆ど可能性は無いと思う。と、言うか、多分目の前のデカいのが都市にあった結晶体使ってそう」
「そりゃ、歯が立たないわけだ。てか、目の前で爆発されたら、助からなくない?」
レッドバレッドとの回線はオープンになったままだったので、悠斗の言葉をエリスが拾う。
『間違いなく、焼け死ぬでしょうね。機体のシールドは核爆発を防げるほど強くないわだし』
そうならないように祈るしかないのも事実である。何かしらの条件が揃えばその場で爆発を始める事も十分にありえると考えられるのだ。
「やけになって爆発する前に捨ててこないとマズイわけか」
『何処に捨てに行くのよ。犬や猫じゃないのよ?』
あの巨大なハエレティクスを犬や猫と言った言葉に思わず吹き出す茉莉。
「可愛げが全くないのは置いとくとして、新東京からも、ボク達の基地からも離れた場所かな?」
『それじゃ上手く捨てても、彷徨う要塞ってわけなのね。敵味方の判別も出来ない殲滅だけをする最悪の兵器なわけだけど』
『あれに変な刺激を与えて爆発されても困るし、現在の対処法はそれ以外無いのよ』
既に捨てて来るつもりでいた悠斗達に通信が入る。
『撤退は止めだ。絶対にアレを倒さなきゃいけない理由が出来た』
「あの要塞を止めるって、どうやって?」
ハエレティクスでは既に歯が立たないのは試している。その上でどうやって倒そうというのか。
『今、それを探してる途中だ。そいつな、町を見つけたら壊すし、弾が切れても爆発、自分が破壊されると判断しても爆発する様になってる』
『絶対に止めないといけない理由なわけね』
エリスがため息をつく。巨大ハエレティクスの傍にしても危ないし、捨てて来るのはもっと危ないとなれば、ため息の一つも出るだろう。
『そうだ。庭でこんな危ないもん飼えるはずがない』
対処法は爆発させないで完全な機能停止に持ち込む事。
『見つけたぁ! 見つけたぞ! 奴を止める方法』
「うわっ。びっくりした。いきなり大声出さないで貰えます?」
『だけど見つけたんだよ。データを送る』
送りつけたデータを展開悠斗が見たのは、巨大ハエレティクスの停止方法だ。
簡易的ではあるが、巨大ハエレティクスに対する攻略方法。敵機の停止までの一連の流れが表示される。
『これ、本当にするわけ?』
『エリスの嬢ちゃんなら出来るだろ?』
『吹っ掛けられてる気がしないでもないけれど、やれるに決まってるじゃない。それに、庭に爆弾があるのはもっと気に入らないわ』
『なら簡単だ。レッドバレッドを一度収容。エネルギー砲をチャージ、臨界に達する前に、悠斗には、アイツを亀にしてもらう。動きが止まったら、もう一度エネルギー砲を直撃させる。
シールドが無くなるのは、一瞬だ。その瞬間に、炸裂弾をぶちかましてやれ』
ジャンの説明と共に、シュミレートされた映像が流れていく。
『このデカ物を動かしてるのは、並列につないだ脳だ。そいつをぶっ壊してやれば、止まる』
『趣味の悪い機体ね、ホント。悠斗、頼むわよ』
「一本に、百秒しかかけられないって、結構厳しくないです?」
「ほら、泣き言いわない。ボクの憧れたヒーローはそれくらい出来るよ。ボクもまだ大丈夫」
「そう言われると、逃げ道ないんですが……ま、サポートよろしく、茉莉」
茉莉の返事と共にブロイエリッターが駆ける。
『カウント開始は、ブロイエリッターが攻撃を開始したと同時だ。援護はするが、お前さん達から見たら、むやみやたらな援護はかえって邪魔だろう。頼むぜ、悠斗』
ブロイエリッターが一つ目の足に張り付く。ここからが本番だ。一つの足に一つづつ、ジェノヴァ鉱石の結晶体が存在する。それを壊さなければならない。
「カウント開始。悠斗、始めるよ」
茉莉の刻印術は風。それをフルに使う事によって、バーニアとスラスターじゃ無理な動きをして見せることが出来る。
「後は俺の方か」
黒の機体を倒した時に生まれた風の剣をもう一度出せればそれに越したことは無い。
ジェノヴァシールドは刻印術を機械的に発生させたシールド装置。刻印術と根っこは同じだ。
「やれば出来るじゃんか」
風の刻印術が作った剣。刃はどれだけ薄くても、欠けることは無く、ジェノヴァシールドにたいしても、効果がある。ただ斬りつければ、小さな結晶では紙の様に切り裂く事も可能だ。
砲撃を躱しつつ、懐に入り込む。斬りつけるのは一度。
ガラスの様に割れたシールドに、ガンソードの徹甲弾を放てば、足に積まれている結晶は沈黙する。
「先ずは一つ目」
ブロイエリッターを敵と認識した巨大ハエレティクスが誘導ミサイルを撃ち放つ。
優秀であるが故に、弱点を持つ誘導ミサイル。
「デコイ撒くよ」
数発は、ブロイエリッターを追いかけるが、数発は、デコイを追いかけて、爆発を起こす。
残りは敵の足にお見舞いしてやればいい。スピードを落とさずに、ターンを決める。
ゆっくりと旋回するなら、曲がる事も出来るのだろうが、九十度、直角に曲がるミサイルなど存在しない。動きを制限された、ミサイルは、二つ目の足に直撃。
二発三発と誘爆を繰り返して、シールドを黙らせる。後は結晶のある場所斬りつけ、二つ目も沈黙。
「二個目も完了か」
「経過時間も一八六秒だよ。十分に、余裕はある」
同じ要領で三つ目の足を破壊したと時に、巨大ハエレティクスの動きが止まる。
残り一本しか生きていない足では、支えるのだけが限界になっているのだ。
『敵さんの動きが止まった。エネルギー砲のチャージ時間は?』
『一八六秒。まもなく発射準備完了です。レッドバレッドは、射撃ポイントへ。ブロイエリッターには申し訳ないですが、レッドバレッドの弾除けになって頂きます』
「了解です。あの、エリスからの返事が全く聞こえないんですけど?」
『あぁ、今彼女は瞑想中。だから、ね?』
叶の代わり返事が戻って来たのは、シエルだ。唇に人差し指を持って行く。それが静かにね? というジェスチャーなのは悠斗も直ぐに理解する。悠斗の反応を見て満足そうにウィンクを一つ。悠斗はコクリと頷く動作だけを返して通信を終える。後は最善を突くだけだ。
「後は、徹底的に俺が狙われるように、逃げ回るだけらしい」
「それなら、得意分野だよ。鬼ごっこで捕まるわけない」
『レッドバレッドはブロイエリッターの後方一キロメートルにある瓦礫のビル群から射撃を行います。砲撃のラインは表示されているとおりです、くれぐれも巻き込まれる事が無いように、お願いします』
効果がほとんどないライフルを射撃して、こばかにするようにして、飛び回る。
射撃の的になっているのは狙い通り、ブロイエリッターだ。
敵から見れば、うるさい羽虫だろう。敵からの砲撃も慣れた来た頃合いに、通信が入る。
『大丈夫よ、いつでもいけるわ』
『残り時間は、後二〇秒です』
レッドバレッドが射撃の体制に入る。エリスのモニターに表示されているのは、撃つべき場所。止まっている敵にたいして、弾を撃つだけならば難しいことは無い。
「狙う場所は、腹部にあるセンサー。風の方向と……弾を考えれば」
そこが最も脆く、脳がある大事な場所に届く場所。本来ならば、堅い鋼鉄で守られているべき場所ではあるが、整備をするための人が通れる通路、それこそ勝機をもたらすカギになったのだ。そこを通り、最後の隔壁を突破すればレッドバレッドの炸裂弾が全てを焼いてくれるだろう。
「大丈夫よ。それに、私も見てる。当たらないはずないわ」
外しようがない。そう確信と自信をつけてトリガーを握る。
『発射まで残り一〇秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一、臨界突破』
叶のカウントダウンで、エネルギー砲が発射される。
『砲撃が止むまで、残り三秒、二、一、今』
エネルギー砲を追うようにして、シエル特製の炸裂弾が射撃される。着弾地点は、文字通り巨大ハエレティクスの脳部分。
これを爆発させてしまえば、機能は停止する。
『目標沈黙しました』
煙を立てて、支えていた四肢が沈んでいく。近くに居るブロイエリッターへの攻撃も見受けられない。歓声が上がるでもなく、爆発が起きるわけでもない。静かに沈黙した敵機へどう反応したらいいのか分からないでいる。
「試しに、ただの徹甲弾を撃ってみる?」
とシエル。
「そんな事しなくても、狙い通りに撃ったわ。これでやったか? なんて言ったらフラグじゃない」
『システムは全ダウンしてるだろう。メインジェネレーターすら落ちてると見ていいだろうな。急激に機体が冷え始めてる。オーケー、システムがダウンした事によって冷却機能が別で動いた』
これは製造途中で憲明が残した安全装置。そして、最後まで人を信用出来なくなってしまった落ち度。野に放った兵器にそんな安全装置は本来要らない。組み込んだ脳の反逆を恐れたからだ。
『アイツを解体するのには時間がかかるだろうが、間違いなく、俺達の勝ちだ。ブリッジは回線オープンのままだから、スゲェうるせえ。ったく』
『申し訳ないですが、もう一つお仕事があります。新東京の制圧。占領までがミッションとなります。攻撃の意思無き者への攻撃は禁止、降伏勧告を出します。新東京のトップは潰しましたし、他の権力者も現状ではどうしようもないでしょう。制圧したら面倒事は全てお父様に投げつければ、今回のミッションは成功となります』
新東京へ向かうと、町は白旗を上げて待っていた。自分達の兵が敗走したのだから、この結果は当たり前と言える。
鎮圧の必要もなく、弾を一つも撃つ事もない。新東京は、ジャンの手中に収まる事になったのだ。




