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オリジナルと、コピー

 聞こえてくるのは、足音一つだけ。敵の本拠地であるのに、警備兵はおろか、防衛システムが全く動いてないのである。


「敵が人っ子一人居やがらねぇ。随分な警備態勢だ。待ってるから、いつでもどうぞ、ってか」


 まるで誘われているかのように人は居らず、聞こえてくるのはジャンの駆ける音のみだ。例え罠だとしても、ここまで来てしまえば引くわけにはいかない。

 目的地の扉を開くと、椅子に座っている人間がジャンに映る。


「よぉ、俺」


 ジャンからしてみれば捨てた姿で、憲明からしてみれば見た目こそ違えど、自分と同じ存在。自覚していたとしても、お互いに顔を見合わせれば、おかしな存在に見えるのは間違いない。


「やぁ、僕。姿だけではなくて、性格まで随分と違うんじゃないかい? ジャン・フリーデン」


 お互いにハンドガンを向け合う。お互いにお互いが敵だと言い合うように。


「オマエとは違う人生を歩んだからな。もう、アンタのコピー品じゃない。ジャンという一人の男だ」

「こんな状況じゃなければ、喜べたのだろうけどね。今のキミは僕の道を遮る邪魔な石でしかない。キミが僕だというなら、分かるはずだ。どれだけ経っても人は醜い生き物だと。この世には必要ない物に過ぎないと。僕だけではなく、キミの持つ衛星を手に入れに、各国がまた争いを始める。この世の覇権を握ろうと、また無益な殺し合いを始めるんだ。それも、私利私欲で。許せるかい? 自分の作った物が、大切なものを壊していくんだ。あり得ない」


 穏やかに話してはいるが、その言葉の節々には憎しみがこもっている。この世界への憎悪。


「そうだな。俺もそう思うぜ。だが、俺は、違うな、俺達は神の真似事してホムンクルスを作った。神様ごっこをして、思ったんだ。善意も悪意も全てひっくるめて人だ。どうしようもない奴が居るのもまた事実だが、それを否定したら全てが悪になっちまう」

「そうさ! この世の有象無象の人など悪そのものだ! 目の前の利益に飛び付き、暴利をむさぼる。それが人だ。奪い、踏みつぶし、高笑いを上げる奴が屍の椅子に座り覇者になる。人を平等に束ねる事は出来ず、無能は不平等を叫ぶだけ」


 穏やかだった言葉も、今は怒気であふれている。彼の体験してきた事全てが許せない。

 全てを否定して、壊して、無かった事にしようとするのには、十分の体験をして来たのだ。


「あぁ、アンタの言う通りだ。何も間違っちゃいない」

「なら、どうして僕に牙を向ける?」


 憲明の言い分を理解していてなお武器を向けられる理由。これはお互いの信念の問題になるだろう。

 譲れない物が出来てしまい。食い違って、争う。何処まで行っても、どれだけ綺麗事を口にしても、争いという形で以外の解決策を用いる事の出来ない人はやはり醜いと言ってもいいだろう。

 ただ、これも言える事はある。人は万能ではない。神などという全能な存在ではないからこそ、世の中は楽しいし、醜い。


「理屈じゃねぇんだよな。長く生きすぎて何かを悟っちまったのかもしれない。嫁さんが出来て、娘も出来た。幸せを願うとよ、例外はあるが、人を憎めなくなってくるんだ。お前の願ったものは一体なんだったんだ? 俺はお前で、お前は、俺のはずなんだ。戦うと決めたあの日にお前は頭の中をコピーした。お前の見た未来は何だった?」

「人を救うはずの力を技術を殺しに使われて、全てが嫌になって、全てを壊す事にした。それだけだよ、ジャン。ブレイバーはね、ただの抑止力だったんだ。ジェノヴァシールドも」


 憲明だけではなく関わった全てのエンジニア達は、平和を願ったのだろう。武器を向け合う世の中に終わりが来ればいいと。ゲームの中だけで行われる戦争。それだけで済むのなら、どれだけ良かったか。


「もう、殆ど正解してると思うんだがな。目の前の研究費や、成果。それを得る為に心を売た部分もあるだろうさ。だがな、根っこにあったのはなんだ? 自分の研究成果が人の幸せにつながるからだろ? ジェノヴァシールドだって、精製次第で核一発くらいなら防げる。それによって、核を持つ事自体に殆ど意味を成さなくなったんだ。俺には戦争の経験が無い。だが、何が原因でお前さんが狂っちまったのかは想像出来る。憎んで殺されて、殺しては殺し返されて、また憎む。憎悪だけが積み重なっていく日々で、精神が削れて、一つまた一つと憎悪が積み重なる。一体どれだけ大切な人を失ったんだろうな。俺には想像がつかねぇよ」


 ジャンの言葉を黙らせる様に、憲明がハンドガンの引き金を引くが、弾はジャンに当たらずに反れていく。


「黙れ! 見て来たような事を」


 分かるはずがない。知るはずがない者に知ったような口をきかれたくはない。感情を高ぶらせて、ジャンを睨みつける。が、直ぐに、感情を落ち着かせる。


「俺が狂うならそれくらいしないとな。いい加減、休めや。憲明さんよ、疲れたろ?」

「だからといって、止まる訳にはいかない。この世の有象無象を皆殺しにするまでは、この足は止まらない。止めちゃいけない。キミが世界を統治しても、違う何処かで力無い者が踏みつぶされる。我々はただの動物じゃない。知恵ある動物だ。感情は獣であり、他の感情を喰らう。それがいい感情であれ、悪い感情であれ、食い潰すんだ。今の世は狂ってる。何度でも、僕は世界をリセットしよう。知恵を失った人間に知恵を与えよう。世の人間がバカな思考を止めるまで」


 覚悟の違いこそあれ、憲明の覚悟もまた地獄だろう。何度でも、何度でも。文化が消滅しようとも、彼はこの世界を見届ける。そんな事が出来るのは、神だけだ。


「理解してやれなくはないが、地獄だな」

「どっちが正しいなんて、無駄な問答は止めよう。勝った方が正義だ。歴史はいつもそうだろう?」

「頑固もんだな」

「僕はキミで、キミは僕だ。分かりきっていると思うけどね」

「なら――」


 ジャンのこの言葉で、お互いにハンマーを倒し――


「「ご退場願おうか」」


 引き金を引く。ジャンの弾は、憲明の心臓に。憲明の撃った弾は、刻印術によって、防がれている。


「これが、僕とキミの力の差、ってわけか。刻印術。完成してたんだね。僕は未完成だっていうのに」


 銃で撃たれて事よりも、刻印術が完成に至らなかった事への悔しさの方が勝っている。


「まぁな。天才が五人も集まれば完成もする。しかも約百年だ。世界は変わって行くだろうよ。人の体に刻印石が馴染みつつある。遠い未来は、刻印術を魔術と呼ぶ時代が来るかもしれない」


 量子を制御して現象とする技術。それはもう完成している。これから先、もっと研究が進めば、誰もが、この魔法のような力を手にするだろう。


「悪くないね。転生したら、ハーレムか」


 過去にあったサブカルチャーの人気だったジャンルだ。ジャンが相手だからこそ、この冗談が通じる。


「夢見過ぎだ。だが、そういう未来もあるのかもな。何もかもが今の理と違う世界になる可能性だってある」

「夢のある、世界だね。僕、は、そろそろ行くよ。異世界で最強ってのも悪くない」

「バカ言ってろ」


 事切れた様にして、力の入らなくなった体は、地面へと落ちていく。歩みを止めたその顔は、憑き物が取れたかのように、晴れやかだ。


「逝ったか。自分の死ぬ姿を見るってのも、変なもんだ。世界を何とかする役目は俺が引き受けてやる。バカも間抜けも、でけぇ声出して不満を垂らす世の中だろうがな」


 倒れた憲明の懐から出てきたのは記憶ディバイスだ。


「お前の、残しもんか。頂いていくぜ」


 大きく息を吐くと、インカムのスイッチを入れて、口を開く。


「憲明は始末した。後は、掃討戦だ」


 ジャンとの通信が来たと同時に、エリスの大声がジャンの耳を突く。


『遅いわよ! ジャン。アンタのオリジナルは何てもんを残していくのよ!』

『巨大なマシーンで、ジェノヴァシールドの耐久値も、火力も桁違い。正面から戦ってたんじゃ、押しつぶされる。わぁ!?』

『悠斗、気を取られすぎよ』

「お前等、一体に何と戦ってるんだ? 映像を見せてくれ」


 レッドバレッドから送られてくる映像は、巨大なハエレティクス。その映像をみて、目を見開くジャン。


「なんだ、コイツは……美学もクソもない」


 巨大なハエレティクスの様なもの。四脚でそこかしこに武装を付けた異様な機体が映っている。


『ジャンすら予測し得なかった機体ってどうなのよ!?』

「直ぐに戻る。対策を取らないといけないだろうしな」


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