受け入れ難い現実
とある施設の一室。そこでは、一人の少年が、横たわっている。
「あの、ナノマシンを入れて、コールドスリープすれば、俺の体は治るんですか?」
健康的とは言えないほど細い体と、白い肌。現治療医学をもってしても、治せなかった病がやっと治せるというのだ。彼、ブレイブワールドにおける優勝者の高瀬悠斗は、病に侵されていて、両親が居る時以外はゲームの中。それが彼が強い所以でもある。彼にとって、ゲームの世界とは動かせない体の代わりに、身体を世界を堪能出来る第二の世界なのだ。
「あぁ、勿論だとも、悠斗くん。コールドスリープする時間も、これ以上病気を進行させないための処置だ。治療ナノマシンは間違いなく悠斗くんを完治へと回復させてくれるだろう」
悠斗は、不治の病にかかっている。このまま行けば間違いなく命を落とすと言う事は確実だった。だがある日、政府関係者から連絡があり、治療を受けれる事になったのである。
理由は、彼がブレイブワールドのブロイエリッターを駆る優勝者である事から、その才能は惜しいと言われ、紹介して貰えた形になる。
「俺だけ、時間が止まるんですよね」
親や、友達と違う時間を生きなくちゃいけないという不安。起きれば両親は、おばあちゃん、おじいちゃんと言える相貌へと変わっているだろうし、リアルに付き合いのあった歳の近い親戚、そして友達。それらは、大人へと変わっている。
「そうだね。怖い事なのは分かるよ。起きたら、十数年時が経っているだろうからね」
「でも、治せるなら、そうしてください。それと、これ」
医者に手渡したのは記憶デバイスだ。ここに悠斗の両親が居ない理由でもある。顔を見たら泣いてしまいそうという少年ならでは悩みからこの手段を取った。両親には映像を残してあり、彼の親はそれを見る事になる。
「あぁ。次に目覚める時は、キミは健康な体だよ。そうしたらまた、謳歌すればいい。じゃあ始めるよ」
悠斗は次第に眠気を覚えると目を閉じて、無駄な思考をしなくなる。彼が眠りにつくのは、直ぐだった。彼の脳波が眠りに付いた事を確認すると、同席していた医者の一人が口を開く。
「彼、きっと怨みますよ?」
少なくとも今生きる人は、悠斗が目覚める頃には居ない可能性の方が大きい。それだけ時間をかけたプロジェクトという事になる。
「そうだろうね。これからの事は、僕にも想像が出来ない。そのまま死んだ方がマシかもしれれない。生きるだけでも苦しくなる時代が間もなく来るのかもしれないのだから」
「博士も人が悪い。それならいっそ……」
言葉を止めた医者の代わりに、博士と呼ばれた人が言葉を続ける。
「いっそ、殺してあげた方が、楽なんじゃないか」
ゆっくりと、博士は医者を見て、首を縦に振り、コールドスリープしている悠斗へと視線を移す。
「それも一つの答えだ。けれど、彼の力は、もしかしたら世界をひっくり返す。パイロットとしても、術師としても」
「大人の厄介事を子供に押し付けるわけですか……」
「痛い事を言ってくれるね。僕も、彼等だけに押し付けるつもりは無いよ」
「博士、まさか」
博士のしようとしている事を悟り、信じられないという表情を向ける。それは、人であるならば、耐えれない拷問の様な事を自分に科すつもりでいると、この医者は確信しているからだ。
「そのまさか、さ。でもなければ、僕の罪は償いきれない。それだけの事をしてしまったんだよ。狂った歯車をどうにかして元に戻さないと、僕は死ねないのさ」
それが彼の覚悟。引けない思いと、巻き込んだ罪を背負い戦おうとしている。
◆
部屋には最低限の明かりしかついていない。霊安室にも見える場所で、一つのシリンダーが静かな音を立てて開き、一人の少年が目を覚ます。
「ここは、何処だ?」
コールドスリープの影響か、それともただ寝ぼけているだけなのか。軽く頭を振り、大きく息を吸い込み、脳を覚醒させていく。
「そうだ。俺は、コールドスリープで寝て、病気を治したハズ……」
長く寝ていたはずの体は、その影響を見せることなく、身体を動かす。そして、体を見ると、やせ細った体ではなくなってる。それは、治療プログラムとして、ナノマシンに組み込まれていたものでもある。
「治ったのか? まぁ、治ったからここに居るんだよな。自由に体が動くなんて久しぶりだ」
辺りは暗く、誰かが居る様には感じられない。それでも、電話位なら出来るはずだと、思いたち、視界に拡張された電話帳から家の電話番号を引っ張り出し、電話をかけようとした所で、自分には、通信端末が無い事に気づく。
「その前に、端末が無いと……」
起きた時の為に置いてあった物なのだろう、用意周到に寝かされていたカプセルの横に服と一緒にご丁寧に置いてある。
「俺のか? こんなデザインじゃなかったはずだけど。まぁ、今はいいか」
再度操作して、家の電話番号にかける。だが、その返事は、お客様のおかけになった電話は、現在使われておりません。というもの。
それはあり得ないと否定したい。だが、急に両親が事故で無くなった可能性もある。
期待して目覚めたはずが、今は不安にかられるだけだ。その不安を無理やり押しつぶして、悠斗は、寝ていた部屋を後にする。
「なんで誰もいないんだ? ネットに繋いでみた方が早いか」
膨大な情報の海であるネットにつないだ方が、現状をより深く知れると考えた悠斗は、ネットに接続、ニュース関連を検索してみるが、どうにもオカシイ。
医者の話によると、十年ちょっとのはずなのに、表示されている年数は一二四年経ってる。
「おいおい。さっそく、不具合か何かですかね? ナノマシンに異常でも起きてるんじゃないの」
否定したい気持ちは言葉になって、次第に体に伝わる。それは迷子の子供の様。施設の扉を端から開けて声を出す。
「だれか! 誰か居ないんですか? ねえ!」
静まり返った施設の中で聞こえてくるのは、悠斗の声だけ。返事はない。
「冗談だろ? おい。何かのドッキリだって、誰か言ってくれよ!」
不安と言う言葉が頭を過る。本人の知ってる病院とは程遠いからだ。感情がぐじゃぐじゃになった心は、それを振り切るために、走り出す。
誰も居ない。これだけ声を出してるのにだ。悠斗の足音以外、何も聞こえない。
「どうなっちまってるんだよ……」
施設の一室に、座り込む。電気は生きている。それは、施設が稼働している証しなのだ。
それでも、誰もいない。冷静でないのは、悠斗も心の何処かでは理解している。だからこそ一度頭を休める必要があるだろうと、入り込んだ部屋の椅子に座ると、ホログラフで映像が流れ始める。
そこには、軍事目的で作られた二足歩行型のロボットの開発に成功との事。
それだけならば、特別驚くような事は無い。技術の発達したこの時代巨大ロボット位作れるだろう。だが、戦闘機の方が空を超スピードで飛べて強い。というのは、もはや常識なのだ。
けれど、軍事目的と言ったのだ、このニュースは。
映像は更に悠斗にいろんなものを見せていく。とある鉱石を精練し、一定のエネルギーを加えてやると、物理干渉を無効化出来るフィールドが生成出来るようになったのだとか。
つまりバリアの様な物。それは、大きすぎて、飛行機は積めないって物らしい。
そこで、人型のロボットを開発して、それに積んだ。勿論、そのバリアは、無限に展開し続けられるわけじゃないし、完璧とは言えない。それでも、飛行機じゃ太刀打ちが出来なくなって、人と人との闘いが変わるって報道だ。
そして、事は起きた。力を持った連中がすることは、大抵決まってる。戦争。
「なんだ、これ。ウィルスを入れるにしても、もうちょっとマシな物を入れとけよって話だよな。それに、戦争? しても現代科学でやったら破滅するだけなんて、分かりきってる事をするかよ。何処の国だって分かる事だぞ。なんの為に、おっかない武器向け合って手を繋いでるんだよ」
アホ臭いと自分自身に言い訳をして、出口を再度探す。悠斗の記憶の中にある施設とまったく違う場所だ。闇雲に歩き回ってどうにかなるものじゃないが、今の彼には、そうする事でしか行動が出来ないのが
現状。歩けど歩けど、人が居ない。そう思った瞬間だ。ドアが開いた。
「あの!」
けれど、現れたのは言葉は業務的に話す女性型ロボット《ガイノイド》だ。誰の趣味かは知らないが、凄くいい趣味をしている。何せ、メイドさんと呼ばれる姿をしているのだから。そう悠斗が思っていると、目の前のガイノイドは口を開く。
「被検体〇一番の生存を確認。被検体〇一番は、五番ポートのデッキに向かってください」
それだけを言い放つと、悠斗に新たな端末と情報を渡す。中をみると、この施設の全体図と、そこの行き方。拡張現実には、既にルートが提示されている。
「行けってか。まぁ、それ以外にどうしようもないんだけどさ」
悠斗にお辞儀だけをして、向かう事だけを促す。誘導されているとしても、どうしようもないこの状況
では、やれることは少ない。
「まぁ、行くんだけどさあ」
愚痴を口にしつつも、五番ポートへ向かう。地上が近いのか、空気が変わってくる。出口が近いと確信
して足を速めると、目的の場所へと出だ。
「なんだ、ここ」
ニュースにあったロボットっぽい。いや、もっと言えば、ブレイバーっぽい。そして、一つのブレイバーへと悠斗は視線を向ける。そこには、あり得ない物が存在していた。
「お前、ブロイエリッターなのか……」
悠斗は、吸い込まれるようにして、ブレイバーのコックピットへと向かう。何かに誘われるようにして。
「全部、一緒だ。何もかも。どういう事だよ」
『生体チェックを始めます』
コックピットに座るなり、機会音声が悠斗の耳に届く。
「何か、されてるんだろうけど、害はない。拘束されているわけでもないし。生体チェックって、そこまでする必要が何処にあるんだ」
悠斗がぼやいている最中にもしっかりと、コックピット内から投射される光は悠斗を調べ上げている。
『チェック完了。高瀬悠斗である事を確認。システムを立ち上げます』
「勝手に、システムが立ち上がって行く……やっぱり似てる。そのまんまかもしれない。これ、俺の機体にそっくりすぎる」
戸惑いを隠せない悠斗をよそに、施設のデッキをぶち破って、武装している一機の機体がこちら側へとやって来る。敵か、味方か……




