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一二三岬との再会

「え!?」


 未だに、状況を飲み込みきれていないのは、一二三である。まるでお化けでも見ているかのように口を開けて、悠斗達を見る。


「何を驚いているのかは分からないけれど、驚いているのは私達だと思うのよね。でも、納得いったわ。貴方達、最初から繋がってたのね」


 ジャンに聞きたい事が増えたと言わんばかりの表情になるエリス。叩けば埃が出そうだと思ったのは、悠斗も同じである。


「そうではありますが、その、助けて頂いたのは本当に偶然であります」

「そう。それならいいの。人見って子助かったのかしら?」

「はいであります。今はここの病院で手当てを受けて、意識もあるでありますよ」

「医務室に運ばれて来た時は私も焦ったわ。けど、見た目ほど酷い怪我じゃなかった事は幸いね。茉莉なんて、医務室から追い出されたからオペレーターやってたのよ?」


 シエルがおかしそうに言葉にする。笑いごとに出来たのは、生きていたからでもあるのだ。


「あぁ、それ今言う?」


 あの時裏で何が起こっていたのかを考えると、想像出来るのが茉莉だろう。


「騒いだのかな」

「何でわかるの!?」


 同じ故郷の顔なじみ。ましてや学生となれば右往左往しながら大騒ぎするだろうと想像出来る。


「ユウトじゃなくても分かるわ。まだ学生なのに外へ行くって、実技試験でもあったのかしら?」

「はいであります。私達は知らなすぎるのでありますよ。ですから、時折新東京で試験をするのであります」

「想定に無かった襲撃を受けたってわけね」

「当初の予定は、地下施設の発見だったのでありますよ。ですが、乗っていた機体は最新鋭の機体。小競り合いに勝ったまでは良かったのですが、増援を呼ばれて……」

「その後、俺達が来たわけか」

「紙一重だったわけね」


 こくりと頷く岬。そこで悠斗にも疑問が浮かび上がる。叶はこの町の七割は外の事を良く分かっていないと言っていた。つまりは、外に係らないでもいいと考える事も出来る。


「変な事? なのか分からないけど、何で外に出ようと思ったの?」

「ここに居る限り、何も見ないというもの一つの手なのであります。けれど、外に出てしまえば、ここも完全に安全ではないと理解させられるのでありますよ」


 この学園に居るのはいずれ外に出る人達だ。本当の世界を見て見たい。空を眺めてみたい。など、閉じこもっているからこそ憧れる世界がある。

 けれど、外は危険があると言う事も理解しなくてはならない。安全じゃない場所に行けばどうなるのかを。岬は勿論、この結果を持ち帰った事で、学生内にも危ないと分からせるには十分の事件だ。


「予鈴が鳴ったであります。教室に戻るでありますよ」

「だね。次の授業もあるだろうし。そうだ、授業見せて貰えないかな?」


 そう提案したのは茉莉だ。それに答えたのはシエルである。


「許してもらえるかしらね」

「授業を、でありますか。見ても面白いものなんて無いと思うのでありますが」

「いや、見て見たいかも。エリスは?」


 学園と言うのに嫌悪していた理由も聞いたには聞いたが、気を効かせた形だ。

 そして、悠斗も今の時代の、学校というものがどういった場所なのかを知りたいと思ったのは、学生時代、ベッドの上だったからだろう。


「学園に嫌な記憶があるのは、家の事があるからよ。これで変にお嬢様校なら遠慮したかったでしょうけど、大丈夫よ」


 予鈴が鳴れば、準備を終えた教師陣が廊下に出てくるのは当たり前の事である。その中に、人が良さそうな笑みを浮かべた初老の女性が現れる。


「貴方達は」


 懐かしい人を見た反応だ。それは、二人がここの卒業生と言う事もある。


「お久しぶりです、校長先生」


 活発な子というイメージとは裏腹に、茉莉は頭を下げる。それは叶が姉である事も大きい。


「はぁい。センセ」


 シエルは、フランクに手を上げて、軽い挨拶をするだけだ。


「急にこんな所になんの用? 飛び級で卒業させてほしいだなんて無茶御通して、外の世界に行った成果は得られたのかしら?」


 その疑問も後ろに居る悠斗とエリスを見て、解消された。


「そう、貴方達が例の」

「俺達の事知ってるんです?」


 芸能人になった覚えも英雄になった覚えも無いのに、素顔を知られているというのはむず痒いと共に、おかしい。


「そうね。私達はメディアに出る様な事はしなかった」


 疑問に思うのはエリスも一緒だ。


「こっちでは有名人よ。ハエレティクスの乗り手としては右に出る者が居ない二人なのだからね」

「ジャンね。こっちで私達の戦闘動画でも見せたんでしょう」


 決勝戦の参考動画。などというタイトルで動画サイトに並んでいた事を思い出すエリス。

 参考になるかどうかは別として、悠斗とエリスの動画は再生回数が伸びるのだ。


「だね。悠斗とエリスの決勝ほど凄い戦いは後には無かったんだよ。それでも、レベルは高かったんだけど」

「それで、茉莉さん。憧れの人とのバディは勝ち取れたの?」

「うん。ボクがブロイエリッターのサブパイロット」


 にへぇ、と口元を緩ませる茉莉。


「それは良かったわ。あれだけ頑張ったんですものね。シエルさんはどうかしら?」

「私もエリスのバディ。あの射撃に見惚れたからこそ、私はエリスのサブパイロットになる事を選んだのだけど」


 正面からの王道攻めには弱いエリスである。むず痒いを通り越して、わたわたとし始める。


「ば、ばか。何言ってるのよ!?」

「ね? 素直じゃない所もまた可愛い」


 エリスが褒め慣れていないというのもあるだろう。常に誰かと比べられられ、這いずってでも前へ進むしかなかったのだ。

 女学園も名のあるお嬢様となればそれ相応の行動と結果を求められ、努力で得た結果は当たり前と評価される。誰かを納得させるほどの成果を出すのは至難の業なのだ。


「いい関係が築けているようね」

「そうでしょ。あ、悠斗達に授業を見せたいんだけど、いい?」

「甘え上手な所も変わってませんね。いいですよ。いい刺激になるでしょう。何せ、次の授業はハエレティクスの訓練ですもの」


 校長に連れて来られたのは、まるで指令室のような場所だ。この学園の生徒が全員座っても余りある程の余裕がこの部屋にはある。

 その一番前に悠斗とエリスがいて、教員。そして、校長が現状を説明している。


「そんなわけで、今日は皆さんと一緒の授業をという事になっています。二人からも学ぶ事が多いでしょう。励みなさい」


 ここには全生徒が集まっている。それも手伝って、教壇に居る校長と教員はホログラム技術で、後ろにも見えるように大きく、そして、音声も部屋にあるスピーカー音声が届くようになっている。

 一礼して教室を去っていく校長。それを確認して、教員が口を開く。


「訓練の前に講義をする予定だったが、そうもいくまい。現時点で二人に敵うパイロットは居ない。皆、ヘッドギアを付けてくれ。申し訳ないが、お二方、もう一つの世界へと行って欲しい。此方では資源が限られているのでな。無駄は出来ぬのだよ。場所もなのだがね」


 悠斗達からしてみれば型の古いゲーム機だが、機材が大きくなれば性能は大きく跳ね上がる。これは、現実と仮想現実の差を無くす為の物だ。


「分かりました」

「椅子がゆったりしているわけね」


 システムが脳に働きかける。眩暈や吐き気などの有無。それらを順に確認して行き悠斗達は、仮想現実へと足を下ろす。


「さっきと同じ部屋? なわけないか」

「早速で申し訳ないが、授業を再開したい」

「すみません」


 編隊の組み方。行軍。それらを授業で行っていく。戦いかを知っているか否かは大きな差なのだ。セオリーとはそういうものである。その上で、どう相手を倒すのか。机上の空論にならない為の授業である。


「とまぁ、こんな感じですが、お二方はどうですかな?」

「ユウトにセオリーを押し付けるのはナンセンスだと思うわ。ね?」

「非常識人みたいに言わないでほしいんだけど」

「常識人だと思ってた事に驚きね。さっきの戦闘の話、機体の数で劣っていたら、貴方ならどうするつもりなの?」


 非常識だということを理解させる為の質問だ。悠斗の事だから、突拍子もない返事が来るに決まっているとエリスは確信している。


「正面に火力を集めてくれれば、何とかする。なんとかなった事も結構あるし」

「ゆ、悠斗さん。それって、ブレイバーのパズル計画の時の話ですか!」


 一人の生徒が声を上げる。最初はパズル計画と言われても、何それ、としか思っていなかったが、次第にあの時の事を思い出す。


「あぁ、あの時の。良く知ってるね」

「それはもう。どうやってあのように出来るのでしょうか?」

「究極的に? やってる事は言葉にすると簡単なんだよ。実行出来るかと言われれば別なんだけど」

「是非、教えてください!」

「乱戦が起こると、全員が自分を見ているわけじゃないって事かな」


 そこに居る誰もが首を傾げる。そんな事は当たり前なのだ。けれど、弾は飛んで来る。


「で、自分を見てない敵機を撃つ」

「ね? 言ったでしょ」


 聞くだけ無駄なのだ。悠斗の技術を覚えようとするならば、努力ではたして習得できるのかという疑問。


「レーダーとか見るとさ、自分を向いてる機体が分かるよね。後は実際に拾ったカメラの映像。誰かを撃ってる時なんて絶好のチャンスだよ。クロスファイアー的な?」


 敵陣のど真ん中でそれをやってのけるパイロットが一体どれだけいるのか。

 オブジェクトを操作して、こんな感じと説明をする悠斗だが、案の定、共感を得るに至らない。


「あれ? 俺の説明おかしいかな」

 

 悠斗としては、自分の戦い方を暴露してこれから身に付けるであろう技術を提供しているわけだが、誰の共感も得られなければ、自分の戦い方を疑うか、説明がおかしいのだと結論づけるだろう。

 

「間違っていなくても、理解出来ないのよ」


 そんな授業が続く。エリスの狙撃の講義に、ハエレティクスを用いた模擬戦。仮想空間だからこそ、気軽な模擬戦が行えるという利点がある。模擬戦を行えば行うほど、悠斗とエリスは異端さ増し、授業が終わる。


「本日は、お二人ともありがとうございました。私も、学ぶ事が多かったです」

「軍人さんにそう言って貰えるとは思ってなかったです」

「大尉って階級は伊達じゃないわよね。私も、戦術に関しては驚く事が多かったわ」

「本日の授業は終わりだ。皆、本日の事を存分に生かすように。でわ解散」


 授業後はベラベラと喋り出すものだが、今回に限ってはその様子が見られない。

 今日の授業は全て終了しているし、学園が終われば、町に繰り出して遊ぼうとするのが学生だろう。


「皆、元気ない感じ?」

「思ってた以上、悠斗ってタフだね」


 少しぐったりしてるのは茉莉とシエル、そして、エリスによって捕まえられた岬だ。


「今回は、悠斗がずっと味方に居たし、そこまで気苦労する事って無かったわよね?」


 エリスもケロッとしている。仮想空間でも精神的なモノは疲労するはずなのだが、これは慣れの問題なのだろう。


「ボクは久しぶりに操縦したから、精神がすり減って……」

「茉莉に同じくよ。あの教官、絶対に楽しんでたわね。エースが二人もいて、年甲斐も無くはしゃいでたわ、間違いなく」

「叶姉(かなねえ)に悪口はダメって言われているけど、シエルに同意。甘いもの食べに行こうよ。学生の醍醐味だよ?」


 男ならば、両手に花どころか、花束常態で喜びたいところだが、女の子に囲まれて憂いしいと感じる以前に、居づらさを感じて、撤退を始めようとする悠斗の手を取る茉莉。


「悠斗も行くよね?」


 逃げられないと悟ったと同時に、エリスも止めを刺す。


「諦めなさいユウト」

「パパから、お金だけは搾り取って来たから、お財布は気にしなくてもいいよ」

「本当でありますか!? 今月はお財布が寂しかったのでありますよ」


 甘い物を食べ気来たはずなのだが、町に出ればそれだけで終わるはずがない。

 小物を買ったりなど、甘い物を食べに行くというのは、町へ出る為の詭弁に近い。悠斗が音をあげた所で喫茶店に落ち着く事になる。


「疲れているの俺だけ?」


 女性の買い物に付き合うのには必要以上に体力が必要な事を悠斗は知らない。


「だらしないわよ、ユウト」


 茉莉はノーコメント言わんばかりに、飲物を。シエルは、こんなものよね。といった感じだ。更に横で見ている岬は苦笑いである。


「悠斗殿が可哀想でありますよ」


 慈悲の言葉ではあるが、何でへばっているのかは岬にも理解していない。


「あっちにぷらぷら、そっちにぷらぷら。見るだけだし、買わないし」


 町を見て回るというよりも、女性陣に付き合って、買い物をしただけだ。

 これが楽しいと思える男はそう簡単には見つからないだろう。


「女の買い物なんてそんなものよ。茉莉とデートするときどうするのよ」

「お、お二人は、もうそんな関係だったのでありますか!?」

「今の所、ボクの片思いだよ。でもね、バディなったんだから後は落とすだけだよね」


 と、自信まんまんの発言をしてストローに口を付ける。


「話がお見事にそれたよ……しかも、本人目の前に居ます」


 次から次へと会話が止まらないのも悠斗からしてみれば、初体験である。


「宣戦布告? 目標は、ここに居る間に既成事実を作る事?」

「お、おおお大人であります!」

「意識してもらった方が勝率は高いと思うんだよ」


 と、ニヤリとする茉莉。


「エリスさーん。いざ来てみたら順応し過ぎじゃないです?」


 最早愚痴に近い。もうちょっとクールなのかと思えば、はしゃいでいる姿は学生のそれだ。


「いざ来てみれば良いものよ?」

「さいですか……」

「あら、構ってくれる人が居ないから拗ねちゃった?」


 子供扱いをして来たのは、シエルである。


「テンションに付いていけてないだけ。俺は、食いものを食べる」


 ガッツリと胃の中に食べ物を入れ込む悠斗。状況はどうあれ、食事は良いものだ。


「ナポリタンを食べるのは、いいけれど、お口にソースを付けてちゃダメよ?」


 口のケチャップソースを拭きとる。お姉さんか! と言いたくなるような世話をしてくるシエル。


「えぇー。構われるのもなんかイヤ」

「贅沢ねぇ。周りを見てみなさい、悠斗。これだけの女の子に囲まれているのだから、視線は釘付けよ」


 そう言われて、周りを見渡す悠斗。奇異の目で見られているのならまだしも、これは嫉妬の目だと理解する。


「マジかよ……」

「やっと、素が出た。悠斗ってば、女の子に囲まれてるものだから、遠慮するんですもの」


 言葉の語尾に星でも付きそうなほど悠斗弄りに、るんるんのシエル。そんな悠斗の逃げ道は、やけ食いとなるのだ。

 日も落ち始めたころ。喫茶店からやっと出てくる御一行。


「久しぶりにこんなに話したわ」

「エリスも俺も、学生の歳だけどね」

「お嬢様校って思っている以上に御淑やかよ。そう教育されるものだし。私の記憶では、小学生の低学年ね、身なりを気にしないで会話なんてしてたの」


 特別扱いはしない。哀れんだりもしない。それをエリスは望んでなどいないからだ。


「また随分と昔な」


 悠斗を追い抜き、ターンをして悠斗達に向くのは岬である。


「それでは皆さん、今日は楽しかったのであります。今後もお付き合いしてもらえれば、嬉しいであります」

「当たり前だよ。またあそぼ」

「はいであります。あの、このタイミングを置いて、言えるチャンスと言いますか、流れが無いと思うので言うであります」


 一呼吸。それは岬にしてみれば必要な時間だ。その一呼吸を置いて言葉にする。


「此度の戦争。私は、参加出来ないでありますが、皆さんが無事で戻ってくる事を願っているであります」

「大丈夫よ。レッドバレッドとブロイエリッターが負けると思う?」


 自信満々に胸を張るエリス。それに賛同するのは勿論シエルだ。


「そうよ。狙撃組は完璧」

「ボク達白兵戦組も完璧だよ。ね? 悠斗」

「まぁ、そう簡単に負けるわけがないよね」


 これが、強がりとまでは行かないにせよ、命のやり取りをする以上、刈り取られる可能性はあるのだ。絶対はない。


「ここは温かいであります。でも、外の世界では戦争をしようとしてる。最初は自分の見解を広めるために表の世界を見ようとしたのであります。言ってしまえば思っていたのと違ったのでありますよ。荒野に、鉄の町。暖かさが感じられないのであります。こんな世界に変えた人達、そんな世界に住んでいる人達。自分が戦えないのも、全部、全部が怖いのであります」


 だからこそ、戦う道を選んだのが岬だ。だからといって、足がすくまないわけがないのだ。

 戦争は殺し殺され、残るのは憎しみと怨念だけ。人は、正義と言う名のもとでしか、大きな力を振るうことが出来ない。自分達のしている事が悪だと思い続けながら他者を傷付けられる人など、少数でしかないのだ。


「岬、貴女はそこらへんの候補生よりもずっと優秀よ。今までは違ったのかもしれないけれど、今日の模擬戦を見ていれば分かる」

「私が、でありますか」

「そうよ。だから、自信を持ちなさい」

「はいであります」


 岬に微笑んで見せるエリス。


「いい子ね。なら、この話はこれでお終いよ岬。また、お茶しましょ。それが、友人との挨拶だと思うのだけれど」

「はい。いい友人と巡り合えたのであります。また、明日お誘いしてもいいでりますか?」

「もちろん」


 この世の中に唯一残った悠斗達にとってのノスタルジックな場所なのかもしれない。

 ずっと居続けたいとそう思えてしまうほどに。


「大丈夫。俺達が守るから。この世界も気に入ってるんだ。無くなるのは悲しい」

「ボク達の故郷だしね」

「ええ、そうね。また皆で、ね」


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