ジャンの目的
祝勝祝い。その為に、少し高めのお店に足を運んでいる。ここは店の一番隅っこだ。人目に付くのが嫌だという悠斗たっての願いである。
「上出来だ、悠斗。ゲロでも吐きそうな顔してくるかと思えば、以外に丈夫そうだな」
「まぁ、一応。覚悟も決めましたし」
昨日の一連は彼を強くする出来事でもあった。まだ飲み切れてない事はあるだろうが、前を向いて立つには十分なのだ。
「随分といい顔になったぜ?」
「だと、いいんですけどね」
悠斗も、覚悟を少し決められて、ナヨッタ顔から少しまともになったと、そう受け取っている。この世界で生きていくと言う事はこんな事はいくらでも起こりえるからだ。
「ユウト、あの戦いだけ見ると、ただの悪役よ?」
「それは、俺自身そう思ってる。けど、火の粉を振り払わないといけないし、即引退を考えるレベルで叩きのめした」
「確かに、あれをされたら真剣に考えるかもしれないわね。心が折れるもの」
ブレイバーではPKが許されていた。少なからず、ゲームの中でもプサンの様な輩は居たのだ。
「言っておくけど、俺はした事無いからな」
「そんなの知ってるわよ。有名だもの。そんな事したら一気に広がるわ。ともあれ、ユウトの剣捌きは相変わらずだった。やっぱり、アレを見せられちゃうと、悔しい」
幾度なくやられてきた剣筋。あれだけは、しみついている技術がどれだけ動揺しようとも、しっかり活かせる証拠なのだ。
「エリスがデレタ?」
「な、何よ、素直に褒めてるんじゃない」
むくれて見せるエリスに謝る悠斗。その表情は、心の底から誤っているとは思えない。
「ゴメンってば。いたぁ!? 恥ずかしいからって、攻撃良くない」
悠斗も黙って攻撃を受けている当たり、さほど痛くないのだろう。
「ま、今回は、アホみたいに稼いだから遊びたい放題だぜ? どこで遊びたいよ?」
「この町って、娯楽なにがあるんですか?」
「酒、女、後は、美味い飯って所だな」
「最初の二つはちょっと勇気がいりますね。それに、未成年ですし。残りのご飯で」
「なら、俺のおごりだ。あぁ、ちょっと待ってくれ、叶とシエルは留守番だったからな。こっちに呼ぶ」
端末で電話をかけると三言ほど会話をして、端末をしまうジャン。
「うっし、こっちに呼んだから、しばらくしたら来るだろ」
◆
お酒を一口飲むと気分良さそうに、ジャンが声を上げる。
「いやぁ、ぼろもうけだねぇ」
「気分がいい所、質問、いいかしら?」
「なんだ嬢ちゃん。答えられる質問なら答えてやる」
「そう、良い事を聞いたわ」
そう言葉にして、目を細めるとジャンの瞳を覗く。
今の二人にはどうしても必要なことだ。疑問が疑問を呼びその真意を確かめなければ、不安しか残らない程に。
「ジャン。貴方達は何者? 何故私達にここまで手を貸すの?」
これが、石が光った後に二人が出した結論だ。
「そんなもん、金になりそうだからに決まってるだろ。実際、儲けた」
「それはただの辻褄合わせで言ってるだけね」
ジャンが口元を緩ませると、こう返す。
「面白い事を言うな。エリスの嬢ちゃんは何でそう思った?」
「昨日、ジャンに向けて弾が最低でも二十以上は飛んだはず。それが全部当たらないなんて変じゃない? 映画や漫画、アニメのヒーローかしら? 確かに、回避行動もとっていたけど、あの距離で全弾外すなんて考えられない。初めて銃を握った人達が集まっていたとも思えないけれど」
「運が良かっただけだ」
嘘をつくならばお粗末な返答だ。何かを隠しているのか、試しているのか。
「いいえ、強風が吹いていた訳でもなにのに、あんな弾の反れ方はあり得ない。それと、これ」
テーブルの上に置いたのは、ジャンからもらったお守りの石。
「これ、どういったわけだか、シールドと似た効果を発揮するのよ。最初は疑問だった。けれど、昨日のユウトを見て疑問は深まった。変よね?」
ジャンからは返事は戻ってこない。エリスの言葉はまだ確信に至っていないからだ。
現状ではどうとでも言えてしまう。
「事実を言ってしまえば、昨日はこれに助けられたとしか言いようがない。それが無ければ、死ぬようなことは無くても、俺も、エリスも怪我をしていた。貴方達は何者で、俺達に何をさせようとしてるんです?」
昨日悠斗とエリスが眠れなかったのは事実だが、それ以上に不可解な事ばかりが浮き彫りになったのだ。明らかにおかしいと。
「なんだったら、この石を付けた私に一発自分で撃ってみてもいいわ。昨日、試したもの。一定の条件を満たすと、弾を弾く様にしてある。見つけたのは、偶然だったのだけれど」
タバコに火を付けると一服。観念したかのように両手を上げて見せ、ジャンが語り始める。
「まず最初に誤解を解いておきたい所は、俺らは敵じゃないって事くらいか」
「それは、まぁ、一応助けてもらいましたし」
アリーナーの会場で出会って以来色々と縁がある。同じ他所のよしみとはいえ親身過ぎるほどには。
「それでも、疑問は残ってるわ」
簡単に信じないとエリスの目は語っている。納得できる答えが得れるとも思っていないのだ。
「そうだな、お前さん達がブレイバーの優勝者と、準優勝者だって事を知ってる」
表情を変えれずにいたのは、エリスだけだ。悠斗はその言葉で顔を強張らせている。
「そう怖い顔するな。コールドスリープから目が覚めて、ここに来たお前達を迎えに来た。それが、俺達だ」
「信じられないわ。なら、最初に出て来ても良かったじゃない」
「それには事情があるんだが……それを説明してもなぁ。余計に怪しまれるだろうし」
ジャンにはジャンの事情があったのだ。それを説明しても無駄な事を理解してる。
悩んで頭をかくジャンに変わって、茉莉が言葉にする。
「あのね、悠斗のハエレティクスの機体名はブロイエリッター。これって知ってるのおかしくない? それに、二人の機体が都合よくそこにある事も含めて」
「だって、機体情報を調べてたんじゃないの?」
はっとするエリスが言葉にする。
「機体情報がでるのは、機体の型式番号だけ。機体名は分かるはずがないわ。あれは、自分で付ける名称だもの」
「正解。その事を忘れてて叶姉に怒られたんだよね、あの後」
「気づいていないご様子でしたのでひとまず良かったのですが、あの場での発覚は望ましくなかったのです」
と、茉莉に続いて叶が答える。一つずつ理解してもらう算段だったのだ。信頼は簡単には得られない。手を貸すのも計画の内だった。
「言っちまえば、お前達の実力を見たかったんだ」
「私達の実力を見て、何をしたかったわけ?」
「結局そこなんだよなぁ」
どう答えたものかと、頭をかくジャン。これにたいしては、万全を整えた上で話したかったのだ。でなければ、信用など得られるはずがない。
「暫くはじっくりと協力体制を整えて、場を温めてから話すつもりだったんだ。この新東京を見て、どう感じたのか。その上で協力を頼もうと思ってた」
「何かをさせたいっていうのは分かりました。何をさせたいんです?」
「一言で済ませるなら戦争だ」
「なっ。そんなのに手を貸せるわけないじゃない!」
怒鳴り散らすエリス。戦争を起こそうとしてる人間相手に、力を貸すなんて出来るはずがない。それは、人殺しの片棒を担ぐのと同義だ。
「分かってる。だからこそ隠さずに言葉にした。先ずは、腰を落ち着かせちゃくれないか? エリス嬢」
興奮気味のエリスを何とか宥めて、水を口に運ぶ悠斗。
「頭がごっちゃになりそうだ。えっと、なんで戦争をしなきゃいけないんです?」
「施設での映像を見ただろ? 壊れた世界で、力があれば何が出来る?」
悠斗は頭を捻るが適切な答えは出ない。出た答えは口にすれば一笑もののくだらない言葉だからだ。
「誰が世界の舵取りをするかどうかね。何、第四次世界大戦が始まるとでもいうの?」
「その通りだ」
迷うそぶりも無く、そう返事が戻ってくる。エリスも情報抜きの想像を口にしたのだから、世界大戦というのは、冗談半分でしかなかった。それ以上に、町の外の情報を仕入れるのには、その地域に向かわないと手に入らないのが、現状である。
「三次以降通信障害が出ているって話だけれど? どうやってそんなの調べたのよ」
「半分は俺は起こした側だからな」
「じゃあなに、貴方は一〇〇年以上生きてるとでも? それこそお笑いよ」
「今の世の俺を人間と定義するかは自由だが、その通りだ」
だた俺は百年の時を生きているとでもいえば笑い飛ばしただろうが、自分を人間と定義するのかは自由だと言葉にした。それは、人の枠を何らかの形で越えたのだ。
寿命なのか、それとも違うものなのか。それに、二人には心当たりがある。
「「うそ……」」
何から何まで信じてるわけではないが、今の言葉はあまりにも現実離れが過ぎている。
「その石の技術、お前達の機体を作ったのも俺だ。ブレイバー。アレは、世界が次の技術を手に入れる為の擬似世界。シュミュレーションだったんだよ。世界が金を出してまで欲しかった技術の集まりだ。実際は、他国に後れをとるのが怖かったから出来た組織でもあるんだろうがな。そして、数多くの科学者技術者が没頭できる最高の研究場所。ジェノヴァ鉱石を発掘してから、既にハエレティクスは想像されていたんだ。最初こそブレイバーの情勢がそのまま世界の力関係にあったが、実物が完成し、第三次世界大戦は起こるべくして起きた」
そこまで聞いて、作り話だとも一蹴出来ない。嘘をつくならば、もっとまともな嘘というものがあるからだ。だからといって、それを全部信じるのにもまた無理がある。
「話は何となく理解しました」
「悠斗、物分かりが良過ぎよ! それに巻き込もうってわけ」
「その通りだ。敵は俺自身。絶望した俺が世界に復讐しようとしてる」
言葉の言い回し、もう一人のジャンが居るかのような言葉。ジャンの言葉を理解するには、落ち着ける時間が無さすぎる。
「アンタ、何者なのよ……」
エリスの言葉には、恐怖すらある。
「笹森憲明。聞いた事くらいあるだろ?」
その名前には悠斗もエリスも覚えのある。ただ、エリスの方は記憶漁っている最中だ。
「ブレイバーの創作者」
悠斗が驚くようにして、言葉を洩らす。生きては無いはずの人の名前であり、悠斗の記憶からは遠くかけ離れている容姿でもある。
「そうだ。だが、俺は偽物だな。憲明の頭の中のコピー。それが俺だ。敵はオリジナル。自分のせいで世界を壊して、絶望して、壊れたまま世界をまた壊そうとしてやがる狂った奴になり下がった。だから殺す。まぁ、絶望するには十分な理由があるんだけどな」
「でも、それなら、俺達は何でジャン達の駒になってるんです?」
「駒と来たか。まぁ、間違ってない。殴られてもおかしくないしな」
「分かってるんじゃない。で、ジャンの駒になる事が前提の私達は何で貴方側にいるのかしら?」
「憲明には右腕が居たんだ。そいつがオリジナルと袂を分かった。もしもの場合にと残した頭の中身を盗みだし、俺を作ったわけだ」
「ちょっと待って。そんな事……」
クローン技術は勿論ある。だが、人のクローンは非人道的だという理由で表向きは許可されていないはずなのだ。
「あぁ、普通なら出来ないだろうな。ま、人のクローン体なんてとうの昔に完成してるんだ。別に驚く事じゃない。それに、ブレイバーの関係者は世にいう天才の集まりだぞ? じっくり話すにしても、本題は戻ってからにしたい。説明するにも見た方が早いからな」
「それに付き従う価値が私達にあると?」
あれやこれやと話が進む中で、エリスの感じる当たり前の疑問。旗色の悪い方に付くつもりは無い。
「あるな。お前さん達、ここに来たときにグルーグを使って換金しただろ?」
「しましたけど……何か問題でもありました?」
「ここのボスは俺だぞ? 最高の実験道具を逃すかよ。いずれバレる日が来る。これがもっと大量に換金されてたら、既にアウトだったかもしれねぇ。この前の襲撃も関係があるかと思ったが、あの怯えようじゃただの小物だ。だが、気づくのも時間の問題だと思っておいた方がいい」
「ちなみに、向うにつくと俺達ってどうなるんです?」
「お前達の体に流れていナノマシンは、今やロストテクノロジーになってる。解剖されて、薬漬け。嬢ちゃんなら、いい母体かもな」
悠斗にエリスも顔を引きつらせる。戦わなければ、碌な未来が待ってないと言う事だけは理解出来た。
「笑えない冗談ね。根拠は?」
「捕まってみるか? 俺の予想でしかないわけだからな」
散々ビビらせておいて、捕まりに行くという選択肢は取れないだろう。もしもが常にチラついている状況での身の安全などあり得ない。
「辞めておくわ。ジャンに付いた方が幾分かマシね」
「なら、決まりだな。予定より早いが俺達の基地に戻る」
「基地って、あのハエレティクスがあった場所ですか?」
「そことはまた別だ。より見つからないだろう所にある。まぁ、
なによりも飯だ。飯を食わないと、いい考えも出ない」
それから料理を頼み、それぞれが料理に手を伸ばしていると、ジャンの顔が険しくなる。
「おい」
途端にジャンが低い声をだして、悠斗達に声をかける。その理由は、武装をしている兵が五人。それに守られるようにして、入ってくるスーツ服の男。
このレベルのレストランは武器の持ち込みを禁止こそしていないが、限度というものがある。あからさまな武装をして、銃を構えている人が入って良い場所ではない。
「何か、あったんですかね?」
「悠斗、いつでも逃げる準備を」
茉莉の声がいつものおどけた感じではない所から、どういう手合いなのかを理解して、悠斗は席に座っている面々の顔を見回す。
「嗅ぎつけやがったか? それにしては早すぎる。叶、茉莉、シエル。術の使用を許可する。ターゲットが俺達ならハエレティスク回収後、即座に撤退だ」
「稼ぎ過ぎたのが問題だったんじゃない? ジャン」
そう口にすると、パスタの最後の一口を口に運ぶエリス。
「確かに荒稼ぎはしたが、あちらさんが怒らないギリギリの線でやったつもりだ。あー、よそ者ってが悪かったのかもしれないが、それにしたってあれは変だ」
端末に浮いている映像を見ながら、真っ直ぐに悠斗達の方へと向かってくる。
「ジャン=フリーデン殿で間違いないかな?」
兵士を押しのけて、ジャンの前へやってくると、名刺をテーブルに置くスーツの男。
「そうだが? 俺の知り合いにはお前達みたいな、おっかない奴は居ないんだがな。流れのバイヤーに何の用だ?」
「申し遅れました。私、加賀修と申します。ジャン殿は何度かこの都市に足を運んでるのは存じ上げているのですが、おツレが居るのは珍しいと思いまして。しかも、ハエレティスクの操縦が素晴らしい。これだけのパイロットが我が都市以外に居た事に感銘を受けた次第ですはい。因みに、どちらかいらしたのかお聞きしても?」
「京の都だ。生きている都はいくつかあるが、こいつらは、そこのお坊ちゃん、お嬢ちゃんだ。で、今回の商品で護衛対象だ。何か変か?」
「いえ、それだけの腕前、暫くこの都市で活躍なさってはいかがでしょうか? とお誘いにきたのでございますよ。物々しいのはご容赦くださいませ。私、これでも重役でして、色々と恨まれる事もありましてね」
「悪いが、明日には出発だ。帰りの時間も考えるとそれが限界でな。分かってると思うが、世界大戦以降、ジャミングが酷い。ここからじゃ、相手側との連絡が付かないんだよ。明後日のには京の都県内に入って連絡をしなくちゃならない。こっちも商売なんでね」
「なるほど。商売の邪魔をしてはいけませんね。私共も、他の都から入ってくる品物には感謝しております。次の御滞在の時にはぜひとも、もう数日は観光を楽しんで頂けるようお願いします」
終始温厚に話し、帰り際には現時点に居る客相手にお騒がせいたしましたと大金を置いて、食事代をタダにすると、このレストランにも言葉が溢れてくる。
「何もなかったですね」
少子抜けしたと言わんばかりに、肩の力を抜く悠斗。
「ただ飯になったんだ。たらふく食っておけ。だがな、悠斗。この後は、撤退作戦だ」




