バトルアリーナー
新東京。悠斗達がこの場所に来て一週間は経つ。彼等がこの場所で得た情報は、何もないに等しいだろう。ただ本当に、戦争で壊れてしまったという現実を知るだけ。
この新東京も無駄に堅牢だという疑問点も、戦争後に再建したのだから身を守る為、堅牢にしたのだと考えれば説明はつく。ただ、戦争など出来る状態ではないし、町の外に敵などいるはずがないのだ。
けれど、この町は城塞都市をしている。
『さぁさぁ始まった本日の第二回戦目。今度の試合はルーキーの参加だ。なんでも、西にある京の都から来たという、どこぞのお坊ちゃんらしい。金持ちの道楽で、この町にバトルしにくるとは、これもまた狂ってる! 自殺願望でもあるのか? しかも機体の色は青! 黒や白、緑なんかは良く見るが、これじゃ目立って仕方ない。対する機体はテンガロンハット。ミサイル、ライフル。高価な武装で敵を捻じ伏せるCランクの厄介者だぁ! 情け容赦ない攻撃を見に来る過激な客も居るって話だ』
何処かで聞いたような解説の声が機体を通して聞こえる。それは外の音を拾えるようにしてあるからだ。戦闘が始まれば、外部の音は遮断されて大きな音は聞こえない。
「また随分な言い分ですね」
悠斗は一人で愚痴っているのでは無く、コックピットには、悠斗のセコンドの立場であるジャンと、叶、茉莉の姿がモニタリングされている。
悠斗が白旗を上げそこなっても、ジャン達が白旗を上げればそれで試合終了となる。
『まぁ、実際に坊ちゃんだろうよ。ここに居る奴らからしてみればな』
この世界を生きる者達からしてみれば、ジャンの言う通りである。このバトル会場も一発逆転の狙えるほどのお金が動いてるとはいえ、そのお金を手に出来るものは少なく、手にしたところで殺される可能性もある。
それだけ、治安の悪い場所でもあるこの町では、悠斗の様な存在はカモにしか見えないだろう。ジャンが付き添っているからこそ、ある程度の厄介払いが出来ているにすぎない。
「まぁ、それは、理解しましたけどね」
昨日の一件はそれだけの出来事だったと言える。体験をしないで終わるような時代にいたのだから、そのショックも大きい。
『流石に、昨日のは効いたか』
「あれだけの事があれば」
『いい経験だったろ』
白い歯を見せて笑って見せるジャン。アレをいい経験と言いきれる様になるには今の悠斗じゃ難しい所だ。
「二度とゴメンですよ。って言いたいところでもありますね」
寝て起きて。まだごちゃごちゃの頭ではあるが、昨日よりもマシというレベルだろう。
腹を括らないといけない事件でもあった。分かっていはいたはずの事を無理やり教え込まれたとも言える。
『よっぽど安全な所に居たんだな。だが、ここじゃ無理な相談だ。時間だ。行ってこい。負ける事は無いだろうが、手心を加えれば、お前が死ぬ。それだけは覚えておけ。昨日の一件で相手もお冠だろうからな』
「理解してるつもりです」
『悠斗くんだったっけ?』
ジャンに返事をした直後にブロイエリッターに通信を入れたのは、テンガロンハットのパイロットでもあるプサンだ。
「あってますけど、なんです?」
相手側から会話があるのは予想されていた事だ。脅しは十分にあり得る。問題はこの後だ。
どうあっても、相手が引かない状態であれば火の粉を振り払わなければいけない。
『つれないなぁ。俺の可愛い社員を甚振ってくれたらしいじゃんか』
「仕掛けてきたのは、向うの方だと思うんですけど」
『おかしいなぁ。俺の社員は皆勤勉なんだよね。お釈迦になったハエレティクス三機、耳を揃えて返してもらえない? こっちも商売上困るんだよ』
「出来ない相談ですね。お金がないから、こうやってお金稼ぎをしているわけですし」
『あのね、大人の世界には出来ないとか、無理とか言えない事もあるわけ。分かるかな、少年』
プサンに通信を入れられた瞬間から通話記録を取って、ジャン達に聞いている状態だ。
下手な言葉は使えないし、お互いが分かるような言葉でぼかされているが、記録されているという所がキモなのだ。証拠は有事の際に役立つ。
「そもそも、俺達に過失はありません。付きまとわれて迷惑しているんですが」
『あー、もうめんどくせぇな。こっちが下でに出てやってりゃ、調子に乗りやがってジャリが』
これが彼の本性。もとより、気まぐれであんな態度を取ったに過ぎない。権力を武器に好き放題して来た奴の本性などこんなものだろう。
「本性丸見えですけど、いいんですか?」
『いいもくそも、証拠なんて出やしねぇよ。それよりも、お前が出した被害の弁償をしろって言ってんだ。ぶっ殺すぞ!? あ?』
ドスの利いた声。威圧して、自分が上だと分からせるための行為だ。それが通用する相手かどうかは別である。脅しにならなければ効果が無い。
「ほんと、たちが悪い」
『ワンオフ機体の二機、寄こせよ。それで殺した奴と、機体はチャラだ』
「だから、無理って言ってるじゃないですか」
穏便に済ませられるならば、それにこしたことは無かった。八百長をしろとかならば、受けただろうが、ブロイエリッターとレッドバレッドを渡せるわけがない。
話にならないと悠斗が思考したところで、通信を一方的に切ると解説の声が再度耳に届く。
『カウントダウン開始だぁ。両者とも武器を手に持ってくれ。くれぐれも発砲するなよ? したなら、その時点で反則負け。とんでもない違約金を払わされるって話だ。ま、その額は、俺っちも知らないんだけどな』
何処かで聞いたような解説。これは、悠斗がやっていた頃と変わらないノリのものだ。
「こっちも、ノリは似てるのか……声は違うけどな。こうなった場合、戦意が消失するくらいにボコボコにしろ、か」
そうこうしているうちに、一〇カウントあった数字が四、三、二、一……
バトルが開始される。このリングに居る限り不正でもなければ、どんな事があっても、事故死で済まされる。イカれた殺し合いだ。
最初に動いたのは、テンガロンハットだ。緑色で迷彩柄のハエレティスク。武装は、肩の誘導弾ミサイルと腰のグレネード。手に持っているのは、ライフル。
バトルは、中央にお互いが立つのではなく、両端からスタートする。それは、飛び道具を持ってドンパチするからだ。既に射程距離に居るんじゃ、面白みに欠ける。
「映像で見たままの装備か。先ずは、シールドから食い破る。その先は相手の反応を見てからだ」
敵機とは比べるまでもなく、ブロイエリッターの方が上。機体の性能差も、パイロットも。
誘導弾は優秀ではあるが、デコイでも放出すれば、何基かは反れるし、ミサイルの性質上、ハエレティスクの様に動けるわけではない。着弾までの燃料を使い切れば、爆発するしかなくなる。
敵機の両肩にある誘導弾ミサイル計六発を引き寄せて、ブースターを吹かし、一気に突撃を開始する。それを制御するスラスターもフルに使い、ミサイル群を突破、悠斗の思い描いたように、すり抜けると、ブロイエリッターがライフルの徹甲弾を射出する。
「やっぱ、同じような戦い方しかできないんじゃないか。なら負ける事は無い」
『誰が予想できたか? この展開! あのミサイル群を正面から突破して、反撃をし始めたぞ! あんな事が出来る奴なんて、ブラックウィンドウを除いて他に居ない! これは凄まじいルーキーの誕生か!?』
マガジンを打ち切る頃には、想像通りシールドは剥がれている。問題はこの後だ。
「白旗は上げないってか。どんな意地だよ」
シールドが発生するだろうと分かってる時は問題なく、機体の中心部を狙えば良かった。だが、シールドが無くなった今それを行えば、数発も当たればパイロットは弾でぶち抜かれるか、装甲に挟まって死ぬ。コックピット周辺は頑丈に出来るとはいえ、撃たれづ付ければ、その限りじゃない。
『どうした? ブロイエリッター。さっきの怒涛の攻撃とは裏腹に、攻撃の手が緩んでいるぞ? シールドは剥がれた。それでも白旗を上げてないって事は、機体を壊しにかからないといけない。ルーキーに同情をかけられてるぞ、テンガロンハット!』
テンガロンハットの必死の攻撃はブロイエリッターに届かない。いくら弾を消費しても、回避されるだけ。パイロットとしての腕が無ければブロイエリッターを捉える事は出来ない。
「コックピットは狙えない」
悠斗の射撃では、機体に当てる事を優先し過ぎて、的確に部位を狙うのは無理だ。多少の攻撃ならば、装甲が守ってくれるだろうが、当たり過ぎればコックピットは潰れる。
命を取らない。そうなれば、悠斗の取れる行動は一つとなる。懐に入る事だ。
ライフルの弾を避け、敵の左腕を斬り飛ばす。右腕は当たりもしない所へ射撃をしているだけ。もし、プサンの声を拾っていたならば、怒りの声を拾っただろう。
続けざまに蹴りを入れ、吹き飛ばし、そのまま機体を追尾する。横たわる機体の足を斬り、残りの右腕の関節部に、ガンブレードを突き立てる。
メインカメラが生きているのだから、ブロイエリッターをテンガロンハットは捉えているだろう。これを見た相手がどう思うのか……
「これ、どっちが悪役なんだか」
もう戦えるはずの無いテンガロンハットの頭部にガンブレードを向ける。それでも、まだ相手からの白旗は無い。
「一応は、一つの組織を纏めるボスって事なんだろうな。死んでも自分からは負けを認めないって事ね。もしくは、殺された方がマシだと思っているのか」
面子をここまで潰されてしまえば、保っていられる威厳にも限界がある。この後に、果たしてプサンに従う者がどれだけいるのか。
頭部に突き付けていたガンブレードの大型徹甲弾を浴びせる。機体の各箇所からは、オイルが漏れだし、回路などの機械部品が露出している。誰が見ても、甚振って遊んでいる様にしか見えないだろう。
『おいおい。あのテンガロンハットがなす術も無くやられたぁ!? しかも今や見る影もないほどにボコボコだ。これ修復できるのかよ。おっと、俺ッチとした事が、解説をマジで忘れちまったぜ! 見たか? 見たかぁ!? あの動き! すさまじかった。息つく暇もないあの怒涛の攻撃。しかも恩情をかける余裕ぷりだ。不穏な動きがあれば、あのデカいブレードは、コックピットへと刺さるだろう』
歓声が飛び交う。一方的だったとはいえ、とてつもない戦闘が見られたからだ。
『テンガロンハットには戦える余力は残ってはいない。最後まで白旗を上げなかったテンガロンハットにも称賛の言葉を送りたいが、とてつもない戦闘を見せつけて、完全試合をした、ブロイエリッターの称賛の方が先だ。てか、ブロイエリッターって、初めての登録で武装も大したこと無かったから、オッズが凄まじい事になってたんじゃないか? 誰か当てたやつ、今晩の酒奢れこの野郎!』




