第9話 余裕だオラァ!
「オラァ!!」
「ギャイン!」
薄暗い森の中で、体を低く屈ませながら足へと噛み付いてくる狼型モンスター──ウルフの横っ面をトゲトゲメイスで殴る。
「ウガァ!」
「死ねオラァ!」
穴だらけになったウルフが、魔石へと変わっていくのを横目に、俺の左手に噛み付こうとするウルフのアゴを鉈で切り裂く。
残りのウルフたちが、円を描くように俺の周りをグルグルと回っている。
『うわぁ……』
『え?なんかメイス上手くない?』
『職業殺人鬼だっけ?』
『いやそんなわけ……マジ?』
『いや知らんけど』
『つーか今何体目?ずっと狩ってない?』
『多分三十くらい?ウルフってすぐトドメささないと永遠に仲間呼びするからな。あ、ほら』
「アオオオオォォォォ!!」
残ったウルフのうち一匹が、再び遠吠えを行う。
「たまんねぇ……」
『あ』
『さすがにやばい?』
『誰か助けに行ったほうがいいんじゃ』
「たまんねぇ!!探す手間省けるううう!!」
『…………』
『…………』
『…………』
なんかコメント静かだな?まぁいいや。
「オラァ!もっと来い、もっと!」
鉈とトゲトゲメイスを打ち合わせて、ぐるぐるウロウロしているばかりのウルフたちを煽る。
金属同士がぶつかる甲高い音が森の中へと溶けていくと、ウルフたちの目の色が変わっていくのが手に取るようにわかった。
意外と繊細なの?
──挑発スキルを獲得しました。
あ、なるほど。俺のせいね?
「グルルルルル……」
「ガウッ!ガウッ!」
『なんか急に興奮してる?』
『挑発か?まだスキル持ってんの?検証班いるんじゃね』
『いやいや、それどころじゃねぇだろこれ』
『やばいやばい、めちゃくちゃ集まってるぞ!!』
気配感知は遠くから走ってくるウルフたちをしっかり捉えてる。その数ざっと、五十くらいか。
「魔石拾うのが楽しみだね!」
『あ、やっぱイカれてるわ』
『いけいけー』
「アオオオオォォォォ!!」
ウルフたちが一匹の雄叫びに反応するかのように、四方八方から一斉に飛びかかってくる。
「上等だあああああ!!」
左手で強くメイスを握りしめ、その場でコマのように鋭く回る。断続的に左手に鈍い衝撃が伝わり、それと同時に短い断末魔が続く。
『メイスってあんな速く振れんの?』
『知らん』
『鎚聖並みか?』
『いや、さっきより速くなってね?』
『レベル上がったんだろ』
『早すぎるだろ』
『それはそう』
「はっはぁ!!」
気配感知と危機感知の反応のままに体を動かし、腕を振るう。ひと振りごとに減ってはまた増えてを繰り返す気配と反するように、危機感知が大人しくなっていった。
『うわぁ……』
見える。
『あれ?今後ろのやつ切らんかった?』
わかる。
『声とか?いやでも、周りであれだけ吠えられて、わかるのか?』
感じる。
──空間把握スキルを獲得しました。
「きちゃあああああ!!」
『うおっ!』
『イカれた?』
『イカれてはいるだろ』
『そっかぁ……』
コメントがなんかムカつくけど、もうどうでもいい。さっきまでうっすらと感じてた気配が、今じゃ輪郭までクッキリしてる。
今は両手を伸ばしたのより、少し広いくらいの範囲だけど──
──空間把握スキルのレベルが上がりました。
きたきたきた!!
さっきよりもわずかに、でも確かに広がった範囲。
「ひひっ、敗北を知りたいなああああっ!」
『その時は死ぬんだけど』
『わかって言ってんの?』
『ノリやろ』
『ノリだなぁ』
『昨日死神に負けてなかった?』
聞こえん聞こえん!
ぬはははははは!!
◇◇◇
「これでラストだらああああああ!」
鉄の鉈を横へと振り、最後の一匹となったウルフを切り捨てる。
『マジで全滅させたぞ』
『無傷だよな?』
『見てる限り噛まれてはなかった』
『ウルフの群れ、しかも百超えてただろ?』
『百八十くらいだよ多分』
『めちゃくちゃやな』
「じゃーこれから魔石拾いしていきますねー」
一言そう断ってから黙々と魔石を拾い始める。狩り始めてから一度も拾ってないので、ものすごい量が落ちてる。ちょっとめんどくさいが、これをやらないと金がないからな……。
「よっ、よっ、よっ……ん?なんだこれ」
魔石に埋もれるようにして落ちていたのは、一メートル四方くらいの毛皮……ウルフのやつか?
『あ、レアドロだ』
『あんだけ狩ればさすがに落ちるんだな』
「よっ──と、でっけぇな。高く売れんのか?」
『十万くらいだっけ?』
『あ、今ってそんなにすんの?』
「じゅうまん!?」
マジで!?ぱっと見た感じ、まだ三つくらい落ちてるけど!?これだけで四十万円!?
心臓がバクバクいうのを尻目に、震える手で毛皮を拾う。できるだけ丁寧に。
四つ重ねて……ロール状に丸めて束ねる。ヒモなんてないから、手で抱えたままである。
『ウルフの魔石っていくらだっけ?』
『千円くらいじゃなかったか?』
『じゃあ今日だけで六十万近い稼ぎか』
あ、魔石拾うの忘れてたわ。あぶねー。
コメントに感謝をしながら、毛皮を丁重に置き直して、残った魔石をリュックサックへと放り投げていくのだった。
◇◇◇
「はい、ウルフの魔石が百八十三個と、毛皮が四枚で合計五十八万三千円になります」
「〜〜〜〜〜〜っ!よっし!振込でお願いしまっす!!」
大勝利!半日でこれなら、百万なんて余裕だな!!喜ぶ俺を尻目に、受付のお姉さんが何気なく呟く。
「でも、一日でこんなに落ちるなんて珍しいですね」
「あ、そうなんですか?」
「そうですねぇ……私も数えたわけじゃないですけど、多分二百匹に一回くらいじゃないかなぁ……」
「マジすか。じゃあ、めっちゃラッキーっすね俺」
「ふふ、そうですね」
受付のお姉さんに軽く会釈をして、その場を離れる。向かうのはそう、売店である。
「しっつれいしまーす!アイテムボックス付きのドローンっていくらですかー?」
そう、今日拾ってて思った。リュックめんどくさい。ドローンなら片手で持てるし、多少高くてもアイテムボックスは欲しい。
「一億です」
「いちおく」




