第8話 ほならね、強くなりますよ
「嵐のような奴……でもなかったか。異常なまでにマイペースというか、まぁ変な奴だったな」
月城さんが帰ったあと、彼女の連絡先を見つめなおしながら、敷きっぱなしになって久しい布団へと転がりこむ。
まさか冒険者を始めて数日で、トップレベルの冒険者二人と、しかも神スキル持ちと知り合いになるとはな。
「まぁ、一人はお近付きになりたくなかったけど。いや、二人ともか?」
昨日の死神は言わずもがなである。死にかけた以上の言葉はいらない。そしてその原因に近付きたくなる奴なんていないだろう。
「一応、死神の連絡先も貰ってんだよなぁ……いつ連絡したらいいんだろ。暗殺依頼?」
……どうしよう、めちゃくちゃしっくりくる。笑いながら殴り殺してそう。
まぁ怖くて連絡なんてできないんだけど。
ピコン
「うおぉ!!……月城さんか、早速だな。どれどれ」
スマホの通知欄に浮かぶ月城ユキナの名前をそのままなんの気なしにタップする。
地獄の始まりである。
『拝啓、佐藤恭平様。風が夏の匂いを運び、少しずつ草木の緑が色付くなか、いかがお過ごしでしょうか。ダンジョンを共に攻略し、人類に繁栄をもたらさんとする冒険者の方と出逢う機会に恵まれたことに心満たされる思いです。さて、早速ではございますが下記日程にて、貴殿の強化訓練を行いたいと考えております。つきましては──』
「長すぎぃ!!」
ピコン
「ひぃ!」
『やっほー!恭平っち!ユキナだよー☆トレーニングの件だけど──』
「いやあああああ!!」
ブブブブブ──
「着信んんん!?」
──ピッ
「も、もしもし」
『すみません、月城です。どちらの文面が好みでしょうか』
「つ、月城さん……」
『……?はい』
「電話でやり取りしよう……?」
『……?わかりました。それでは私の予定ですが──』
◇◇◇
「──はい、じゃあもうそれで、はい。いいです。はい。大丈夫。わかった。うん。はいはい、じゃあ──うん、わかった。わかりました。じゃあ、また三日後に──すっぽかさない。約束。うん。もう切──切るよ!切る!」
プッ──
つ、つかれた……。
「なんなんだ……体調崩したらとか、そんとき決めればいいだろ……」
これで体調崩すわ。アホか。
神スキルって頭おかしくないと取れないのか?
「しかし、トレーニングか。何するつもりか知らねぇけど……」
『三日後までに、できるだけ強くなっておいてくださいね』
握ったままのスマホを持ち上げ、時間を確認する。もうお昼か。三日後か……使えるのは今日、明日、明後日。
「強くなれか……。欲しい武器もあるし、ちょっと頑張っちゃう?」
そう、ゴブリンはもはや、ただのザコである。それならばあのダンジョンにこだわる必要はない。
もっと難易度の高いダンジョンに行っても良さそうな気がする。その方が稼げるし。
「うーん、家賃の四万は置いといて、食費は毎日稼いだ分から出す、武器の予算として百万……いや、二百万……はさすがに無理か?うーむ……」
昨日と一昨日の収支はざっと二十五万。そこから家賃の四万とステーキ代とコンビニのおにぎりやら水を諸々買って、残金十八万。目標百万なら一日三十万でお釣りがくるくらい、かな?今日はもう半日しかないけど。
「それでも昨日の俺の倍か。夜通しやればゴブリンでもいけそうではあるけど、ここは素直に違うダンジョンにしよう」
身支度をしたあと、スマホで地図を確認して家を出る。待ってろよ剣神。目に物見せてやる。
◇◇◇
「──えー、映ってるかな?はい、というわけで、本日は別ダンジョンでーす」
配信用ドローンのスイッチを押して、カメラへと挨拶をする。まぁ誰も見てないだろうけど、一応スマホで視聴者数確認しておくか。
『どういうわけだよw』
『説明なくて草』
『頑張れよー恭平ー!』
『死神おる?』
『ああ?殺すぞ』
『居て草』
「ほわぁ!?」
始めたばっかなのに、結構人いる!?
慌ててスマホ画面を確認する。
視聴者数:396人
視聴者数:580人
視聴者数:963人
すげぇ勢いで人数増えてるう!!
なんでぇ!?
「……もしかして、してる?お気に入り登録」
『しとるやで』
『もちのろん』
『やってるー』
『つーかそれより、森林?』
『森やな』
「あ、気付いた?そうです、本日はこちらとなります」
ババーン、と両手を振って、カメラへとダンジョンを見せびらかす。まぁずっと映ってたんだけどな。
辺りは大小様々な木々に囲まれている。日の光も遮られていて、昼なのに少し薄暗い。そう、ここは時間の概念があるダンジョン、森林ダンジョンである。
『ソロ?』
『森ソロって危なくね?』
『危ないどころか下手すりゃ死ぬぞ』
『どこに潜ってるんですか?』
『死神必死やん』
『笑う』
『あ?殺すぞお前』
『効いてて草』
死神おるんかい。つーか場所聞き出そうとしてる?半年の約束は?反故なの?保護なの?どっち?
「残念だけど、ここがどこかは秘密でーす。東京じゃないかもね?」
まぁ東京なんだけど、というか練馬区だけど。まぁ今は言わなくていいだろ。
そんなことよりも今日はこれだ。さっき売店で新たに買った、ニューフェイス!
「ジャジャーン!今日はこれを使いまーす!」
先っちょにトゲトゲついた鉄の棒、いわゆる──
『メイス?』
「正解っ!モーニングスターとも言うけどね」
こいつで殴ればだいたいの奴は死ぬ。無敵である。
お値段なんと驚きの五万円。鉄の鉈だけじゃ片手が寂しいからね。こいつで二刀流をすれば、狩りの効率も倍になること間違いなしだ。
『あれ?剣術じゃなかったっけ』
『鉈持ってるし、剣術だろ』
『メイス……てかモーニングスターは?』
『鎚術だろ』
「ふひひ……ふんっ!」
ブゥン、と風を切りながらメイス──モーニングスターを振る。
──鎚術スキルを獲得しました。
「ぬはははははははっ!たまんねええええ!!」
『うわぁ……』
『うわぁ……』
『うわぁ……』
『あ、茂みが』
おほっ!きたな!?かかってきなさい!!




