第7話 俺は個人事業主なので
『つまりだね、佐藤恭平君には是非うちで活躍してもらえないかと思っているんだよ』
「はぁ……」
あー、ミスったなあ。最後に面接受けたとこ……アットホームパーティーのメッセージ見た瞬間、電話かかってきて、つい取っちゃった。
そのままビデオ通話に切り替えて、丸テーブルへとセットして、十五分くらい……?ダラダラと長い話が続いてる。
面接のご案内ってか、スカウトかな。
どうも昨日の小紅アキラとのいざこざは、俺が思ってるよりもショッキングな出来事だったみたいだ。
少なくとも、面接強制終了された相手が手のひらを返してくるぐらいには。
『もちろん、待遇だって整えるつもりだ。高卒初任給としては破格の月給五十万円。もちろん土日祝休みだ。ああ、でも月二十時間のみなし残業代を含むよ。他にも福利厚生として──』
「結構です」
『ありがとう!それでは今後は仲間として共に──え?』
「結構です。そんなはした金、一週間もあればよ、ゆ、う、で稼げるので」
『は、はは……君、テレビに出て、ちょっと勘違いしてるのかもしれないけど──』
「遊びで面接されても、迷惑なんですよねぇ?」
『あ、遊び?いやいや、恭平君。私たちは──』
「今更スカウトしたって、もう遅いんだよ!俺は個人事業主じゃあああ!!」
『こ、個人……!?いや、ちょっと待っ──』
ポチィ!!さよならああああ!!二度と関わらないでくださぁーーーい!!
「ふはは、スッキリしたぜ。イェイ」
つーか月五十万円とか舐めてるよな。昨日のゴブリンも結局十五万くらいになったし、二日で二十五万だぞ?四日で月給超えるわ。
「やはり俺の存在は、大手クランにこそ相応しいのでは?あー、どっかからスカウト来ねーかなー♪」
ピンポーン
思わず小躍りしそうになっていると、部屋にインターホンが響く。誰か来たみたいだ。
……誰だ?まだ朝だぞ?無職の俺に用があるやつなんか、誰もいないだろ。まぁ、考えても仕方ないか。
悲しいかな、四畳半一間の俺の部屋では、居留守は通用しない。なぜって?台所の窓から丸見えだからだよ。灯りもついてるし、居るのはバレバレだ。
無駄な抵抗はしないに限る。ということで、ささっと立ち上がりドアを開けると──
「うわぁ……なんでぇ?」
「単刀直入に申し上げますと、スカウトというやつです」
目の前に立っていたのは、今話題の神スキル持ち、剣神こと、月城ユキナ。
そんな奴がスカウト?
「天下の月城ユキナが、俺を?」
「はい。昨日あなたが死神に付きまとわれていると通報が入り、私が駆けつけました。そこまではよろしいですね?」
「あ、ああ、もちろん」
「──その後、その事実を面白がったクランマスターが、私をここに寄越した、というわけです」
「なんか、端折ってない?」
「今ので全てですが?ああ、加入条件についてご説明いたしますね」
「い、いや、俺はまだ──」
「まず、基本報酬として月に五百万円」
「ごひゃくぅ!?」
「それにインセンティブとして、納品された魔石の半分をお渡しします。さらにご自身で狩られた素材の優先買取権。基本的には以上になります。サインはこちらへ」
俺の言葉に聞く耳を持たず、契約書だろう白い紙を差し出してくる月城ユキナ。
ちょっと、こう、なんだろう……。
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
「……?はい、私にわかることでしたら」
「なんで、おたくのクランは俺にスカウトに来たんだ?俺ってそんなに才能ある?」
「……いえ、面白半分だと思います」
「おもしろ」
「死神が興味を無くしたら、クビになるのではないかと。一年更新ですし」
「一年……」
「はい。それくらいあれば死神への嫌がらせには十分だろうという判断かと」
「嫌がらせ、か」
「ええ。違いますか?」
無表情のまま、首を傾げてそう問い返すのを見て気付く。
こいつ、素で言ってやがるな?面白半分だの一年でクビだのと、悪気なく自分の考えを……。
「お気を悪くされたならすみません。どうも昔から、よく人を怒らせることがありまして」
「いや、いいよ。まぁ、直せとは思うけど」
俺の目をじっと見つめてくる月城ユキナを負けじと見つめ返す。何だてめぇ。俺にも人の心はあるんだぞ。
「……それは初めて言われました。気をつけます」
「お、おお……?」
目を見開きながらそう言う月城ユキナに、思わずこちらも目を見開いてしまう。
「失礼しました。これからもご指導ご鞭撻のほど、お願いいたします」
そう言って丁寧に両手を揃えてお辞儀をしてくる。
こいつ、無邪気とか純粋とかを、煮詰めてドロドロにしたような感性してやがる。どこで育ったらこんな性格になるんだ?
まるで降り積もったばかりのパウダースノーのような心だ。できればこのままでいてほしいという気持ちと、このままでいることの危うさに目が眩む。
「ああいや、待て待て。俺はクランには入らねぇぞ」
「……そうなのですか?何故?」
「何故って……いや、だって一年でクビになるんだろ?やだよ」
「そういうものですか。わかりました。ふむ……」
少し困ったようにして、アゴに手を当てて考え始めた。なんだ、ノルマとかあんのかな。新人だから厳しいのか?
「そう、ですね……毎日は無理ですが、トレーニングにお付き合いしましょうか。うん、その方が良いでしょう」
ポンッと手を叩き、満足そうに頷く月城ユキナ……もう月城さんでいいや。なんか一人で納得してるけど、トレーニングってどういうつもりだ?
「では、私のオフの日をお伝えしますので、連絡先を交換しましょう。さぁ」
「あ、はい」
差し出されたスマホへ、反射的にスマホを当てる。
ピピッ
「はい、ありがとうございます。ではまたこちらから連絡させていただきます。本日はお時間をいただき、ありがとうございました」
やることは終わったとばかりに立ち去ろうとする月城さん。
「いや待って?トレーニングってなに?俺が月城さんとやるの?っていうかなんで俺の家知ってんの?」
「……?アキラさ──んんっ、死神と戦うのでしょう?お手伝いします。家については、協会で教えてもらいました。大手クランなので」
大手クラン怖すぎぃ……。




