第72話 健啖、けったいな呪いや
「ほな、正式に加入っちゅうことで、よろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
梅田にある冒険者協会の一室で、ヒトハと握手をする。
ヒトハとの出会いから二週間、ついに彼女の加入が決定した。
この二週間、ダンジョンへと一緒に通い続けて、ヒトハ自身も俺たちに納得してくれたみたいだ。
俺?そもそも誰かと一緒にってのがほぼ初めてだからな。サンプルゼロの俺に評価などできるはずがないのだ。スミレは何もしないのでノーカン。
互いに握手をしたのを見届けて、後藤さんが契約書をヒトハへと差し出している。
「それじゃあ、これが契約書ね。内容は初めに話した通りになってると思うけど、確認してくれるかしら」
まじまじと契約書を見るヒトハ。後藤さん、いつの間にあんなものを……ってダンジョン行ってる間か。
「うん、これで問題あらへん」
内容に納得したらしい。もちろん俺は細かい契約内容は知らない。途中から聞いてなかったし。
「よかったわ。それじゃあ、活動の拠点は東京になるけど、引っ越しの準備はどれくらい必要?特に急いではないから、無理しなくてもいいわよ」
後藤さんの話を聞いて、考え込む様子のヒトハ。引っ越しなら一ヶ月くらいかな?荷物まとめたり諸々あるし。
「ほな二週間で頼むわ。ちょうどお試しもそのくらいの予定やったしな」
「あら、早いわね。大丈夫?」
「問題あらへんよ。そうなると思ってちょこちょこ片付けてたし、その間ダンジョンは休みたいけどな」
当然だな。引っ越し準備終わってなかったら元も子もないし、準備で寝不足なのにダンジョンとか、怖いしかない。
「じゃあ、しばらくは二人きりだな。スミレはどっか行きたいところある?」
「ぶひゅう!!イ、イキたいところですかぁ!?」
自分で淹れたお茶を盛大に吹き出しながら、目を見開いてこっちを見てくるスミレ。
「いや、食いつき過ぎだろ。ダンジョンだぞ?あと、できれば討伐許可でてるところがいいな」
アキラの話が本当なら、ダンジョンはちょっとでも減らさないとだし。
「あ、あはは、そ、そうですよねぇ?うーん、どこがいいでしょうか……」
「あそこはどうや?大阪城ダンジョン。ちょっとした観光名所みたいになってるし、ガワは見応えあんで。討伐はキツイやろけど」
「あ、大阪城ダンジョンなら、リストに載ってますよぉ。討伐しますぅ?」
大阪城ダンジョン……確か大阪でもかなり古いダンジョンじゃなかったか?二人で討伐できるかなぁ?
「……引っ越し準備が終わったら、三人で行ってみてもいいかな?それまでは近隣の許可でてるところを潰していこうか」
「かしこまりましたぁ」
「おお……普通に討伐できる前提で喋っとる。これが神スキル持ちのおるクランか」
なんだ。今更気付いたのか?君もその一員だぞ。
「んじゃ、今日はこれで解散かな。とりあえず、引っ越し準備が終わったら連絡してくれよ」
「アイアイ、ボス。できるだけササッと終わらしたるわ。大阪城討伐とか、夏の陣みたいでワクワクすんなぁ♪」
どっちの立場で言ってんだこいつ。
◇◇◇
みんなと別れてから数日、独り暮らしの部屋の整理が、ようやく一段落ついたところやった。
「ふぅ、これで粗方片付いたか──っと、これもやな」
オトンとオカンと、ガキンチョの自分が写った写真立てを手に取る。相変わらずアホみたいに笑っとるなぁ。
「オトン、オカン、ウチのこと受け入れてくれたクランが見つかったで」
まだ健啖のこと、うまく伝えられてへんけど。サトやんとリンちゃんと姐さんやったら、笑って受け入れてくれそうや。
『おお、いい食いっぷりだな!』
『いっぱい食べたほうがいいですよぉ?』
『おかわりー!』
「くふふ、楽しかったなぁ……」
ウチが飯どんだけ食っても、笑ってたし。
「大丈夫……よな?やっぱ、ちゃんと言うた方がええか?」
姐さんは、衣食住は任しとけって言うてくれたし、サトやんも飯かなり食う方やったけど。
みんなで飯食べたときのこと、つい思い出してまう。アホみたいに酒に飲まれる姐さんと、アホみたいに食い意地はったクラマスと、そのクラマスにどう見てもほの字やのに気付かれてない魔神。
「ひひっ、ええ食いっぷりやったし、サトやんも健啖持ってたりして」
まぁ、そんなはずはないやろうけど。
あれは、城ヶ崎家の呪いみたいなもんやと自分では思っとるし。
食っても食っても、まだ食べられる。普通がわからんから、周りよりも食いすぎて学校ではよう怒られとった。
健啖スキル使ったら力は強なるけど、すぐに疲れる。腹が減ったら終わりで、燃費が悪い。
そのせいで、いっつも金がなかった。腹が減っては戦はできん言うけど、まさにそのとおりや。
ばあちゃんがダンジョンで飯食ってたのも、別に見栄えとかやない。そうせな生きていかれへんかったからや。
そうせな、家族を養われへんかったからや。
「ばあちゃんがソロに拘ったんが、間違いやとは思わん。それでも……」
それでも、ウチも仲間が、友達が、ほしい。
冒険者は命懸けや。学校の奴らとはどうしたって疎遠になる。
色んなクラン入ったけど、色目使ってくるクソ共ばっかやった。飯奢ったるから、ってな。でも、ここは違う。
ウチは、個人企業勢で、成功したい。
そう思えば思うほど、伝えるべきやと思うほど、喉から出る言葉は、重たなってもうた。
「……明日、大阪城ダンジョンで、伝えよう」




