第71話 怪しい気配がしますねぇ?
「あっひょおおおおおお!!」
一体何を見せられてんねやろか。
「たんのしいいいいいい!!」
ここは地獄の一丁目、梅田地下ダン噴水広場のはずやったのに。
「待てコラァ!クソゴブゥ!頭置いてけぇ!!」
聞こえるのは、ゴブリンたちの叫び声と、それ以上の大きさで響くイカれた叫び声。
仲間が欲しくて、隣で一緒にこの大惨事を見ているリンちゃんの方に目を──
「恭平くぅん、カッコいいですぅ……♡」
ヨダレを垂らしながら、恍惚とした表情でサトやんを見とるリンちゃんの横顔から慌てて目を離す。
なんやこれ。R指定やろこんなん。
あかん。
ここにはイカれた奴しかおらん。
お試しや言うたけど、さすがにこれは──
「ギキャア!!」
下ろしっぱなしにしていたバイザーの隙間から、こちらへと襲いかかるゴブリンウォリアーの姿が映る。
「しまっ──」
油断してた。サトやんがあんまりにも目立つもんやから、つい、自分も観客になってもうた。ゴブリンウォリアーの斧は、フルプレートアーマーでもさすがに痛い。
ハルバードは──間に合わんか。しゃーない。駄賃やと思って、受け入れたるか。
そう考えて、体を固くしたその瞬間だった。
「危ねぇええええ!!」
向こう側で暴れまわってたサトやんが、ゴブリンウォリアーの頭をドロップキックしながら右から左へと流れて視界から消えていく。
何やそれ。
自分、剣士やって、言うてたやん。ドロップキックて。
「くっ、くく、なはははははっ!」
あかん、オモロすぎる。
こんなめちゃくちゃな奴、ばあちゃん以来や。
◇◇◇
「何ぼーっとしてんの?オーディエンスか?オーディション開催中だぞ?」
「いや、すまん!ホンマ、サトやんの言う通りやわ。気ぃ抜けとった」
両手を合わせて素直に謝るヒトハ。そんだけまっすぐ来られたら、言うことは特にない。
「んじゃ、気をつけてくれよな。間に合ったから良かったけど、いつでも行けるわけじゃねぇし」
「うん、ありがとな。ほな気を取り直して……って言いたいところやけど」
ヒトハが言葉を濁すように、辺りを見回し始める。
「こんだけ狩ったら、もう今日は終わりか?ザッと十万はあるやろ。三人で割ったら日当としては十分やし」
「え?まだ全然だろ」
「はぁ?いやいや、あんだけ戦ったんやから、かなり疲れてるはずやで。無理せんほうがええよ?ウチのことやったら気にせんでも──」
やたらとこちらを気遣うヒトハ。もちろん俺は全く問題ない。スミレも別に戦ってるわけじゃないし、足立のゴブダンのときも二人で日帰りだったわけだし。
「マジで大丈夫だよ。いつもならもっと狩ってるし」
俺の顔をマジマジと見ながら、ヒトハが驚いた声を上げる。
「マジ……か。マジなんやな。いや、ガチのバケモンやったか……すごいなぁ」
「ガチ?何がだよ。別に俺はガチ勢でもなんでもないぞ?」
ガチ勢ってのはあれだ。配信とか世間とか興味なし、ダンジョンこそ至高!って奴だ。倫理観ぶっ飛んでる奴が多いぞ。
「ちゃうわ。そんなんと比べる気もせぇへん。サトやんは、とびっきりやな」
なんか嬉しそうな声に変わった気がするけど、バイザーのせいで全然わからん。
「とりあえず、俺らは大丈夫だぞ。ヒトハが戻りたいなら、それでもいいけど」
「なはは、ほな、もうちょい狩り尽くしていこうや。今度は二人でやろ?」
「お、いいねぇ。俺に付いてこれるかな?」
「サトやん、かなり動きええからなぁ。置いてかれへんように頑張るわ」
「うーん……まだ、大丈夫ですかねぇ?」
スミレがなんか考え込んでるけど、今日はもうちょい稼ぐぜー!
◇◇◇
「サトやん!」
ヒトハがハルバードを振るい、最後の一体となったオークソルジャーをこちらへと弾き飛ばす。
「ナイスパァス!」
吹っ飛んできたオークソルジャーを魔力を通したミスリルの長剣でもって真っ二つに切り裂く。剣なら持ち替えていいだろ。いいよな?
「ふぅ、これでいっちょあがりやな。お、こっちも肉落ちとるやん。ラッキーやな」
ヒトハが、オークソルジャーの落とした肉を目ざとく見つけて拾いにくる。
「ラッキー?そうなのか?」
「ん?せやで。オーク系って、意外と落とさんときは落とさんからな。だいたい八割くらいか?十体倒して全部落ちとるんはラッキーやろ」
拾った肉をポーチに入れながらそう言うヒトハ。ふぅん?じゃあ、俺って結構ラッキーなのか?割と肉落ちてる気がするし。
「ま、こんだけあったらさすがに十分やろ。もう腹減ってきたし、そろそろ帰ろや」
「そうだな。まぁザッと百万くらいか?どうだ、慣れたらもっといけるだろうし、中々だろ?」
「せやね、中々悪ないし……うん。とりあえず初日は合格やなっ!」
バイザーを持ち上げながら、ニシシと笑っているヒトハ。
「なんだそりゃ。……ま、一ヶ月あるし、急いで決める必要はないけどよ」
俺はさっさと他の武器も使いたいんだけどね?
「ま、ええやん!ほな、飯にしようや。後藤の姐さんもさすがに回復しとるやろ」
「そうだなぁ、んじゃそろそろ戻るか」
◇◇◇
──大阪城ダンジョン、最奥にて
「ふぅぅぅ……神の、気配、が、する、な……」
オーガエンペラーの座すボス部屋に、突如現れた存在。
エンペラーが素早く反応し、その存在を排除せんと襲いかかる。
「ウグルアアアアアアア!!」
「じゃ、ま、だ──」
オーガエンペラーと比して、ちっぽけな存在。人間とさして変わらない大きさのそれが、オーガエンペラーの拳を片手で止める。
「死ね」
空いた片手を振るい、オーガエンペラーを引き裂いてしまう。
同じ仲間であるはずの、ダンジョンボスを。
「ふぅ…………これでいい、これがいい。ここは、俺の場所だ。お前のじゃ、ない」
オーガエンペラーの遺した魔石の上に座り、待つ。
自身の獲物、神スキルを持つ人間を。
「ふはっ、この世の全ては、俺のものだ。早く、早く来い、神スキル──」




