第70話 ヒトハの実力や如何に
「ほな、今日から一ヶ月、お試しいうことでよろしゅうな」
串カツ屋の乱(後藤)から一夜明けて、三人でダンジョンへとやってきた。後藤さん?知らない。部屋で寝てんじゃね?
まぁ、あんなダメな大人のことは忘れて、ダンジョンへと切り替えていこう。
「んじゃ、まずはフォーメーションからかな?俺の得物はこれなんだけど」
そう言いながら、ポーチから片手剣を取り出す。ヒトハのことを疑うわけじゃないけど、一応ここでは俺は剣士としてやるつもりだ。
「剣士か。意外とベタやなぁ。ウチの得物はハルバードやから、ウチが前衛で、中衛にサトやん、後衛にリンちゃんでええかな?」
「おっけー。スミレもそれでいいか?」
「大丈夫ですよぉ。ヒトハさんのお力も見たいですからねぇ」
「んじゃ、あとはドローンだけど、ヒトハのでいい?」
「あー……ウチ?構わんけど、誰も見てないから収益なんかないで?あんたらのがええんちゃうん?」
「俺らの配信だと騒がしすぎてな。ヒトハもやりづらいだろうし」
バカ言うんじゃねぇよ。そんなことしたらイジられるに決まってんだろ。ただでさえ神スキル持ち侍らせてるイカれた男として認識されてんだぞ。これ以上変な噂はゴメンである。
「ふぅん?まぁええけど。ほならウチのん付けるで」
ヒトハがドローンを展開して配信を始める。
…………おお、静かだ。そうだよな。普通はこうだよ。五人に一人が配信してる世界で、数万人に見られてる俺がおかしいんだ。やはりダンジョンとは、静かな命のやり取りが行われる、神聖にして清浄、残酷な魔物がテーゼなのだ。
「…………なんや胸に手ぇ当てて、バカにしてんか?」
「してないしてない。さぁ、ダンジョンダンジョン」
「なんか怪しいなぁ……まぁええけども。ほな、梅田地下ダンジョン、サクサクいくでー」
そう言ってクローズヘルムを被り、ハルバードを肩に担いで歩き始めるヒトハ。
ここ、梅田地下ダンジョンは、一層が非常に広いダンジョンらしい。なんでも横に広いだけじゃなくて、上下にも広いとかって話だったが……入れば理由はすぐわかった。
「まんま地下街だなぁ。あれはエスカレーターか?」
「ですねぇ。動いてはないみたいですけど、死角も多そうですぅ」
床や壁に張り巡らされたタイル。三メートルほどだろう天井には、排気ダクトらしい管がいくつも走っている。
幅広の通路の左右にはシャッターが降りていて、魔物が商売でもやってんのかと夢想してしまう。
遠くにはエスカレーターと階段が見えているが、通常のダンジョンと異なり階段周りも開かれており、階層の切り替えがわかりにくい。
ヒトハ曰く『昔と似た感じ』らしい。なんでも、ネタがガチになったそうだ。なんじゃそりゃ。
「──っと」
スミレと二人でキョロキョロしながら歩いていると、先行しているヒトハが手を上げて俺たちを制止してくる。
指を三本立てている……魔物が三体ね。
チラリと背後を確認。魔物の気配はなし。スミレへと目配せをしてから、ヒトハへ合流する。
「──背後はオッケーだ。魔物は?」
「あそこや。ゴブが三体。どうする?お試しやし、ウチ一人でもええけど」
くぐもった声で喋るヒトハの指の先を見る。十数メートル先で、シャッターにもたれて寝ているゴブ。……そうだな。斧聖なら一人でも問題ないだろうし、俺は周りを警戒しておこう。
「なら、頼めるか?俺は周囲を見ておくよ」
「ロジャー、ほな、よろしゅう」
そう言って、ゴブたちへと視線を戻すヒトハ。ハルバードを構えて──って、この距離で?
さすがに届かないだろ。そう口から言葉が出そうになった瞬間、ヒトハの魔力が足へと集まっていくのを感知する。縮地?疾走?いや、これは──
「────っらああああああ!!」
両足にこもった魔力により発動させた剛力で、地面を蹴りつけ一足飛びでゴブへと飛びかかるヒトハ。
マジかよ。剛力って、移動にも使えんの?
「ギィィ!?」
床を踏み砕いた音で異常を察知したゴブが飛び起きる。が、もちろん、間に合うはずもない。
「ギ──」
「ガ──」
「ギャ──」
あわれ、ゴブたちはハルバードのひと振りによって仲良く天に召されました、ってか。
「──クリア。周囲は?」
「ああ、近くに魔物はいなさそうだよ。お疲れ」
「まぁこれくらいはな。ウチのアピールもしてかんと、不採用にはなりたくないし?」
鼻で笑うようにそう言うヒトハ。次はお前の番だぞってか?望むところだよ。
「ヒトハ、この近くで魔物が多くて開けた場所はある?」
「ん?ああ、ちょっと行ったところに、噴水広場があるで。上位ゴブの巣窟になっとるから、オススメはせんけどな。ウルフも飼っとるから、めちゃくちゃメンドイで」
無理無理、やめとけって?ヒトハ、まだまだだな。
「そんな話聞いたらさぁ、行かないわけないよねぇ!」
「せやろ、それが賢明や──はぃ?」
恭平、春のゴブ祭り!開催決定じゃーい!!




