第68話 城ヶ崎ヒトハ
「おいこら、俺らが先に目ぇ付けてんぞ、いつまでくっちゃべってんねん」
「くっちゃ?何か噛んでるのか?ガム?」
「おお?いてまうぞコラ!」
「なはははっ!兄さん、ええ感じにフカすやん。しゃーないなぁ、ほな、一人は兄さんにあげるわ」
なんか勝手に話が進んでる気がする。とりあえずどうしたらいいの?殴ればいい?
「日和ってんか?今更やなぁ。オラ!鼻の穴に指ぃ突っ込んで、脳みそガタガタ言わしたらぁ!」
兄さんは何も言ってないよ!?いくら何でも短気すぎるだろ!
二人組の男の片割れが、こちらへと殴りかかってくる。
「オラ!拳聖の拳、しっかり、味わわんかい!!」
「いや、拳聖が殴り合いしちゃダメだろ」
俺も拳聖持ってるから、対応できるけどさぁ。俺じゃなかったら下手すりゃ死んでるぞ。
相手の拳を手のひらで受け止めて、そのまま勢いを利用して相手の体を掲示板へと叩きつける。
「ぶへぇ!!ご、ごのやらぁ!」
あ、ミスリル製なのはこれでか、揉め事多くて備品壊れるからだな?ってことはここではこれが日常茶飯事か。
「別に続けてもいいけどさ、実力差はわかるだろ?拳聖ならなおのこと」
「……テメェ、覚えとけよコラ」
鼻血を垂らしながらこちらを睨む男も、分が悪いと悟ったのか、捨て台詞を吐いて協会から出ていった。
……なんか、厄介ごとの予感だなぁ。俺とスミレは大丈夫だとして、後藤さんに危害加えられないように気をつけないと──
「なぁなぁ、兄さん」
そんなこと考えてたら、服の袖をくいくいと引っ張られた。さっき俺が庇った女性だ。つっても、フルプレートアーマー着てるから外見は全くわからん。
「なんやスマンなぁ、面倒ごと巻き込んでもうてからに」
「ああ、いや、自分で突っ込んだから、別に気にしてないよ」
「ほんま?いやぁ、そう言ってくれたら肩の荷も降りるってもんやで。あ、こんなカッコもあれやね──ぷはっ、ウチは城ヶ崎ヒトハっちゅうもんや、よろしゅう」
「お、おお……城ヶ崎?」
クローズヘルムを外して出てきたのは、金髪をお団子にまとめた、八重歯の見える人懐っこそうな女性だった。
「ああ?城ヶ崎やったら文句あんのかコラ」
「いや、ねぇよ。いきなり喧嘩腰になるなって」
前言撤回だよ、名前呼んだだけで眉間にシワ寄せて睨みつけてくんなよ。
「まぁ兄さんらは地元ちゃうっぽいし、しゃーないね。ん?地元ちゃうってことは……なぁなぁ、兄さんらスカウトに来たんか?」
ちょっと考え事をしたあとに、俺たちの目的を言い当ててくる。意外と頭回るタイプか?
「そうだよ、東京から。さっき着いたばかりで、掲示板見に来たらこうなった」
「ほーん……ほな、ウチ雇わん?今ならお得にしとくで?」
逆スカウトとは、これは予想外。右手の親指と人差し指で、お金のマークを作りながらニマニマ笑っている彼女を見ながら、少し考える。
フルプレートアーマー着てても、全然余裕っぽいし、前衛……それも腕力とか体力に補正が掛かってるタイプか。女性ならスミレや後藤さんも抵抗は少ないだろうし、俺が気を使えば済む。前衛は多いほうがいいし、ありかも。
「うん、詳しく話を聞いてもいいかな?ここじゃなんだし、個室かどっかで」
スキルなり職業なり聞かないといけないしな。個人情報は守らねば。
「ふぅん?兄さん、意外と積極的なんやね?……顔は好みやけど、後ろの子が怖いなぁ」
その指摘に振り返ると、不機嫌そうに目を細めているスミレの姿。
「えー、スミレさん?」
「別にぃ、仕方ないのはぁ、わかってますけどぉ」
むぅ、と唇を尖らせながら、不満があります!と主張している。
「ま、スカウト目的だからな。とりあえず話をしてみよう。な?」
スミレの頭をポンポンしながら、少しでも理解をしてもらうように努める。なぜか頭を撫でたりすると機嫌が良くなるのだ。犬かな?
「〜〜っ♪んふ、まぁ仕方ないですねぇ、恭平くんのお願いですしぃ?」
お、良かった。理解してくれた。
「んじゃ、どっか個室で話でも──なに?」
「いやぁ?兄さん結構罪作りやなぁーってな?この人いっつもこんな感じなん?」
「残念ながら、うちのクランはこんな感じよ。どうする?話聞く?」
「オモロそうやし、聞くだけ聞きたいわぁ。悪い人やなさそうやしね」
「…………そうね、それは保証するわ」
◇◇◇
協会に申請をして商談用の個室を借りて、全員で移動する。
十畳くらいの広さに、ローテーブルを挟んでソファが二つ。お誕生日席にも一人がけのソファが置かれている。
「ほー、こんな感じなんだな」
「ま、遠慮せんと座りーや。お茶は適当に淹れたってや」
「ここはお前の家じゃねーだろ。なんで我が物顔?」
「なはは、バレたか」
いまいち緊張感がねーな。俺もそういう雰囲気苦手だからいいけどさ。
「それじゃ、まずは条件面かしらね?」
「せやね。月給と、何回潜るんかと、パーティー構成と、求められる役割と、福利厚生くらい?細かいとこは応相談で頼むわ」
「こちらはあなたの職業と、スキル、今までのダンジョン経験と、パーティー経験ね。諸々の条件はそれ次第かしら」
「おお……」
なんか本格的。当たり前のように後藤さんが対応している……!俺の経験したことのない光景だ……!!
「せやなぁ、職業は斧聖。スキルは斧聖と、健啖、剛力、魔力回復。ダンジョンはこれでも何回も潜ってるから、心配せんといてや」
斧聖か。そりゃとんでもない話だな。聖スキル持ちがこんなところで見つかるとは──
「ん?健啖?」
「やっぱり、あなた城ヶ崎彩芽の関係者ね?」
やっぱり?




