第67話 いざ大阪へ
「次は、新大阪、新大阪〜、お降りのお客様は──」
「降りるわよー!佐藤くん!起きなさい!」
「いってぇ!!」
頭に走る衝撃に、飛び起きる。
「お?おお……大阪か」
アキラとの決闘から三ヶ月。今年の適性検査が行われるタイミングで、俺たちは大阪へとやってきていた。目的は新人のスカウトだ。
え?この三ヶ月?納税するための金策で潰れたわ。前年の稼ぎの半分くらいだって。前年の稼ぎ?億超えだよ!
「私、大阪って初めてですぅ。怖い人とか、いないですよねぇ?」
「いたらどうするつもりだよ。俺はそっちの方がこえーよ。早く降りるぞ」
なんでちょっと笑ってんの?笑うポイントなかっただろ。
どうせ聞いても返事は返ってこない。わかりきっている結論を引っさげて、新幹線の扉をくぐる。
「へぇ……ちょっと空気が違う?」
何がって?わからん。雰囲気だ。
空気だしな。
「ほら、ホームで立ち止まってたら邪魔よ。キビキビ動いた動いた!」
「へいへい」
多くの人が行き交う中を流れに従って歩いていく。
「後藤さーん。どこ行くのー?」
「とりあえず梅田の協会に行きましょう。人が一番多いのもそこのはずよ」
「まだ電車乗るんですかぁ?」
「ごめんねスミレちゃん。もうちょっとだけ頑張ってくれるかしら」
「お母さんみたいだな」
「あんたが頼りないからでしょうが!クラマスならシャキッとしろ!」
頼りがいのある後藤さんが悪い。
◇◇◇
新大阪から電車で数駅移動した梅田駅直結の冒険者協会。もともとあった商業施設を使ったからか、バカみたいに広いそこは、とんでもない戦場だった。
「おおぃ!査定辛すぎやろ!どないなっとんねん!」
「せやからこれが今の相場やねん。気に食わんねやったら、よそ行ったらええやん」
「待てや、そうは言うてへんやろ?もうちょい色つけてくれてもええやん?あかん?」
「は〜、ほな、これでどうや?これ以上はアカンで」
「おっしゃ、交渉成立や!毎度!」
すっげぇ。別世界やで。
十を超える数の受付に、その数倍の人たちが列に並んでいる。普通に考えれば、かなーり待たないといけないはずなのに、すごいスピードで列が進んでいく。俺の目の前の人も、交渉してたと思ったらあっという間に話が付いたみたいだ。
「はい、次の人ー?はよ来てやー!!」
「あ、すみません」
筋肉質な冒険者が納得して去った直後、速攻で呼ばれる。忙しすぎねーか。大丈夫?
「はい!納品するアイテム出して!」
「あ、いや、納品じゃなくてですね、えーっと」
「はぁ!?冷やかしかっ!?油売ってんとちゃうんやで?舐めてんか?おお?」
受付が喧嘩腰すぎるだろ。なにこれ。地域性?地域性で片付けていいのか?
「ごめんなさいね。ここは初めてなの。今年の新人名簿はもうある?スカウトは個別に声掛けしてもいいのかしら?ここの流儀があるなら従うのだけど」
俺が押されているのを見兼ねたのか、後藤さんが間を割って入ってきた。
「ああ、スカウトかいな。ほなら、あっちの掲示板にかかってる冊子から探してくれたらええで。スカウト探してる子はおぼこい子がその辺ウロウロしてるわ。適当に話しかけたらええで」
受付さんが指差した先には、横幅が数メートルはある巨大なミスリル製の掲示板にかかったたくさんの冊子と、ソワソワした様子で落ち着きなく歩く、新人らしき少年少女。
……ミスリル?なんで?見栄とか?
「わかったわ、ありがとう。二人とも行きましょう」
「はい!次の人ー!」
おっと、早く退かないとな。
◇◇◇
「後藤さんありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。大阪の受付はせっかちって噂は本当だったのねぇ」
せっかち?いや、そんなレベルじゃねーだろ。
「大阪はかなり狭い範囲にダンジョンが密集してるからね。協会もダンジョンごとに作るわけじゃないから、冒険者も一か所に集まるらしいわ」
「まぁいいよ。とりあえず冊子見てみようぜ」
幸い見てる奴は少なそうだし。
掲示板へと近寄って、冊子をペラペーラと。ほうほう。ふむふむ。
剣士・がんばります
弓使い・月給要相談
盾使い・笑い優先
なんじゃこれ。これで何を判断すりゃいいんだよ。もうちょっと、こう、ないのか。自己PRとか。
「どうですかぁ?」
「うーん、見てみる?ほい」
スミレが興味ありげに尋ねてきたので、そのまま冊子を渡す。
「後藤さん、ちょっとこれじゃわかんないや。面接ガンガンしていくしかねーかも」
「しょうがないわね。こっちは東京での活動前提になるし、それで条件を出して──」
「っだとコラァ!もっかい言ってみろや!」
突如響く男の声。なんだぁ?
「何回でも言ったるわ!誰がおどれのタレなんかになるかい!生まれ変わって出直してこいやっ!ボケっ!」
振り返ってみると、男二人に啖呵を切った女性……というか、鎧……?
「後藤さん、タレってなに?焼肉?」
「焼肉なわけないでしょ。こっちの言葉で彼女とか、そういう感じじゃない?」
へー、つまりナンパか?こっちにもそういう奴いるんだなぁ。
「ふぅん、ムカつきますねぇ」
あ、スミレの機嫌が悪そうだ。あいつらが殺される前にこの場を収めないと。
女性と二人組の間に割って入る。ふっ、この程度の仲裁、何ということはない。
「やめたまえ君たち。嫌がる女性に無理強いするのはよくないよ」
「ああ?なんやお前。きっしょい喋り方やのぉ。東京モンか?おお?」
うーん。ガラが悪い。問題起こす奴なんだからガラ悪いのは当然か。どこにでもいるよなぁ、こういう奴。
「ちょいちょい、兄さん。気持ちはありがたいけど、これは自分のケンカやで。チャチャ入れんといてや」
「おう……?困ってない?」
「あたり前田のクラッカーやで。冒険者やねんし、こんなん自力でなんとかせな、ソロなんかやってれんわ」
「お、おお……?ソロ、なの?パーティー探してるんじゃなく?」
「やから、そう言うとるやん。耳イカれてんの?」
「おっほう毒舌ぅ」
これが、後に四人目の神スキル持ちとなる、武神・城ヶ崎ヒトハとの出会いであった……。こんなんばっかだな。




