第60話 時は来た
「全然ダメ?」
「技術とかそういうのは、詳しくないしわからないけど、補正だけで言えばそうよ」
辛辣な言葉。だけど、これが現実なのだろう。
「補正はスキルごとに冒険者を強化してくれるわけだけど、その内訳や数字は、剣神さんのおかげでかなりわかってきてるわ」
剣神……ユキナのおかげで、か。あいつなりにアキラに追いつくために色々とやってんのかな。
「最近神の祝福が発表したことだけど、剣神スキルとレベル五十の剣聖スキルだと、補正に十倍の差があるそうよ」
「十倍……」
「剣聖と剣術は五倍ね、知ってると思うけど」
知らなかったよ、そんなこと。
「つまり、剣術と剣神だと……五十倍?」
「そうなるわね。もちろん他のスキル補正の内容も違うし、あなたは剣士じゃないから比べるのはおかしいけど、スキルの数が三十くらい、それにレベルも二十じゃ、死神には届かないと思うわ」
つまりあれか?俺はあと、二十個スキルを覚えて、しかもレベルを五十まで上げないと勝てないってか?
できるかって?あと二ヶ月で?……はは、無理だろ。
「絶望じゃん?」
「大丈夫ですっ!私が絶対に守ってみせますっ!」
スミレの声が力強い。
でも、アキラは絶対にそれを許さないだろう。そんな気がする。
そして、そんな不安を解消する革新的な手立てが思い浮かばないまま、必死に試行錯誤を繰り返していたら、あっという間に二ヶ月が過ぎてしまった。
◇◇◇
ピコン
『渋谷第一ダンジョン、一層、今日二十二時』
後藤さんとスミレと三人、そろそろ夕食をどうしようかと考えていたところに、アキラからメッセージが届いた。
そっけないメッセージだな。
アキラらしいと言えばアキラらしいけど。
「これすっぽかしたらどーすんだろ」
「地獄の果てまで追っかけてくるんじゃない?」
「シャレになってねぇんだよなぁ」
「恭平くん、その、大丈夫、ですよね?」
俺が聞きたいけどね。でも、空元気でも言うしかねぇよなぁ。
「大丈夫だよ、きっと」
スミレの顔から不安の色は消えそうにない。言ってる本人がヤバそうな顔してるからな。しゃーない。
「あと、五時間か」
今は夕方、と言っても外はもう真っ暗だ。世間はクリスマスとかいう、何を祝ってんのかわからんイベントに勤しんでるが、先日正式に発足した我がクランにそんな余裕はもちろんない。
俺が死ねば、解散になるしな。結成した月に解散とか前代未聞だぞ。
「っと、そうだ。ユキナにも知らせとかないとな」
きょ、う、の、じゅ、う、じ、っと。
あ、既読付いた。
ピコン
『向かいます』
来んなよ。見世物じゃねーぞ。無理か。見世物だな。
「剣神さんはなんて?」
「来るってさ。まぁ半年かけて鍛えたんだから、見届けてくれるんじゃないかな」
何考えてるのかよくわからんけど、悪いやつではないからな。
ポーン
専用エレベーターから到着音が鳴る。……早くね?
「お待たせしました」
「待ってないよ。全然待ってない」
「……そうですか?それは良かったです」
あ、伝わってないな?はっきり言おう。俺は恐怖を感じてます。君が来るのが早すぎることに、恐怖を、感じてます。ごめん、やっぱ言えない。
「ちょっと、大丈夫?休んだ方がいいんじゃない?」
「ああいや、大丈夫大丈夫。今休むと逆に鈍りそうだし」
「じゃあご飯でも食べますかぁ?」
「それなら私が何か作りましょう」
「はぁぁぁ!?ここ私たちのクランハウスなんですけどぉ?」
「む、貸してください」
「い、や、で、すぅ!」
「ストップストップ。スミレにお願いするから、ユキナに質問してもいい?」
二人の間に入って、ヒートアップする前に結論を渡す。
仲裁しないと、こいつらいつまでもやり合うからな……。さすがに二ヶ月もやってたら慣れるわ。
「それじゃあ、さっと作っちゃいますねぇ〜♪」
選ばれたのは私!と勝ち誇りながらキッチンへとスキップしていくスミレを見送る。
「……それで、聞きたいこととは?」
「ああ……アキラに指定されたダンジョンなんだけど、渋谷第一なんだよ」
「はぁ、あそこですか……」
「おう、通称・死神の遊び場……だよな?あそこのこと、全然知らなくてさ」
死神の遊び場。アキラがちょくちょく狩りに出かけているダンジョン。ドラゴンと戦っている映像は見たことがある。
俺の言葉に腕を組み、少し考えるような仕草をするユキナの返事を待つ。
「……あそこは、私も何度か行ったことがありますが、討伐は無理と感じました」
ユキナの言葉だ。疑う必要はないだろう。
「……それは、なんで?」
「一層ならまだしも、それ以降の魔物の強度が高いから、ですね。神の祝福でも何度かチャレンジしたことはありますが、二層には到達していません」
「ユキナ一人ならまだ行けたのか?」
「どうでしょう。余裕はありましたが、継戦できなければいずれジリ貧になって死ぬでしょうし、軽々には判断できませんね」
一層なのは温情かね?邪魔が入りにくくて、かつ俺が来れるところか。
「そっか。ありがとう」
どっちにしても、いいニュースはなさそうだな。
「恭平くーん。そろそろできますよー!」
「はーい!せっかくだし、ユキナもどうだ?」
「……そうですね、ご相伴にあずかりましょうか」
その日のご飯は、なんだか静かだった。




