第56話 ゴブダンのボス、現る
「ここが五層か……」
「ですねぇ」
『おお……』
『ついにボスか』
気を取り直して……いや、取り直せてはないんだけど、それをなんとか、取り繕いながら。
階段を降りて五層へと到達する。
第一印象は、狭い。
ミスリルゴーレムのときは、野球ができそうなくらいだった。今はこれ、体育館よりも小さいくらい……か?
その中心に、二メートルを超える偉丈夫──ゴブリンキングが、二体立っている。
『二体?』
『ボスなのに?』
「…………」
ちらりと、後ろに控えているスミレを見る。俺一人でやれるか、正直わからない。
「ハァァァァァ……」
二十メートル余りの距離にいるゴブリンキングが、動き始める。もう時間はない。
片手剣とメイスを取り出す。ゴブリンキングの目が開く。
四つの瞳が、こちらを射抜く。
「カアァァァ……!」
「シイィィィ……!」
狭い五層の中に、濃密な殺意が満ちる。
「へっ、お前らの子分は軒並み俺がぶち殺してきたぞ。次はお前らの番だ。どっちからがいい?」
剣の切っ先を、ゴブリンキングへと向ける。右、左、どっち?
「カアアアアアア!」
「シャアアアアア!」
俺の意図が正確に伝わったのか、歯をむき出しにしてこちらへ威嚇を仕掛けてくる。猿みてぇ。
「怒った?怒ったの?はっ!じゃあ来いよ!」
トドメとばかりに両手を広げて挑発を繰り返す。
二体の姿が消える──
「オラァ!」
「ガァ!」
「シィ!」
右ゴブキンの貫手を、片手剣で弾き返す。
左ゴブキンの右ストレートを、メイスで叩き返す。
「どうしたぁ?そんなんじゃ俺は殺れねーぞぉ?」
『ボスにも煽ることを忘れない』
『バーサーカーの鏡』
『自慢のバーサーカーだ』
『スミレたんを守れ!』
「カァ!」
右ゴブキンが貫手を引いた勢いを利用して左回し蹴りを放つ。嵐のような風を巻き起こしながら向かう奴の脛を斬りつけるが──硬い!!
「ぐっ、うぉ──」
「シィ!」
回し蹴りの勢いに押されて生まれた隙を突いて、左ゴブキンから左フックが、俺の脇腹へと吸い込まれていく。
回避──は無理!
急いで全身に魔力を漲らせて、不壊を発動させる。
メキ、という嫌な音が体に響く。
不壊発動により急速に魔力が体内から消えていく。
「ぐっ、ラァ!」
左手に握ったメイスを振り、左ゴブキンから距離を取る。
「クソッタレ、速すぎだ。手数が足りねぇ」
脇腹がジクジクとした痛みを訴える。骨は折れてないが、生身で受けるのはいかにもマズい。不壊をした上で貫通してくるなら、躱すかいなすか。直撃だけは避けねぇと。
剣とメイスを振り回しながら考える。こいつらは俺の懐に潜り込んで手数で叩いてきてる。
オマケに体も硬い。多分魔剣術じゃないとマトモに刃が立たない。
でも魔剣術を使う余裕は、こいつらから貰えそうにない。
「詰んでる……いや、発想を変えるべきか、な?」
剣とメイスをポーチへと戻す。
相手の攻撃が速い。手数が足りない。オマケに硬くて刃が通らない。
「じゃあ、素手喧嘩しかねぇよな?」
両手を握りしめ、顎を隠すように持ち上げる。
ミスリルの篭手があって助かった。帰ったら後藤さんになんかごちそうしてあげよう。
「カァァァ……」
「シィィィ……」
中腰に屈みながら、こちらを警戒するようにうかがうゴブキン共。
「おいおい、数で勝ってんのに先手譲るとか正気かよ。押して押して押して推して参る!」
短期決戦だ。
両手と両足に魔力を注ぎ、剛力と縮地を発動。更に篭手へも魔力を注いで、魔剣術──魔拳術か?──を発動。
縮地を細かく使いながら、左右にフットワーク。少しずつ間合いを縮めて──
「シッ!シッ!シャア!」
ワンッ!ツー!アッパーだオラァ!
コンビネーションを左ゴブキンの顎へと喰らわせる。
「ジッ……」
膝から力が抜けて倒れていく左ゴブキン──の陰から右ゴブキンのハイキックが襲いかかる。
「カァァァ!」
「はっ!ハイキックとは、わかってねぇなぁお前も!」
縮地を細かく発動し、真後ろへとステップバックをしてハイキックをやり過ごす──と同時に、再度縮地を発動し、再び間合いをゼロへと戻して、渾身の右ストレート。
顎が砕けた右ゴブキンが、そのまま力なく倒れていく。
「けっ、テメェで隙を晒してりゃ世話ないってな」
相方がヤラれて焦ったか?青いね。
『おお!ボス撃破!』
『ソロでダンジョン討伐とか、神スキル以外で初めてじゃね?』
『初のはず』
『これが個人企業勢か』
「オラアアアアア!ゴブダンなんぼのもんじゃーい!!」
エイドリアアアアアアアン!!
『めっちゃ調子乗ってる』
『まぁソロ討伐だし』
『実際すごいしなぁ』
『あれ、今なんか動いた?』
その時、俺は完全に油断していた。
「キャキャ」
危機感知──




