第53話 ゴブダン四層、あとちょっと
「よいっしょお!!スミレぇ!水ぅ!」
「ふふっ、はい、どうぞぉ」
あれから本当に何事もなく、二層三層とノンストップで走り抜けてきた。四層に入る前にさすがに一度休憩しようとスミレへ水を要望したわけである。ノリノリだ。
スミレの指先から水が発生して、俺の口へとゴーシューティン!されていく。ナイスエイムぅ!
「んぐ──ぷはぁ、普通にお願いしちゃったけど、嫌じゃなかったか?もしあれなら、水持ってきてるから出すぞ」
よくよく考えたら道具みたいに使ってるもんな。ついノリノリで言ったし、スミレも笑ってるけど無理やりなんてのはゴメンだ。
恐る恐るスミレの様子をうかがう……おお?
「んふぅ♡恭平くんのためならぁ、喜んでなぁんでもしますよぉ?」
「お、おお……ありがとう?」
「どういたしましてですぅ♡」
ブルッと体が震える。あまりにも彼女の笑顔が満ち足りていたから、だろうか。
……俺の口に水突っ込んで?とんでもねぇ女だな。何に興奮してんだこいつ。
『なにこれ』
『なにこれ(血涙』
『スミレたん……』
『諦めろって』
そういやドローン切るの忘れてたな。まぁいいか。
「次の四層には何が出るんだ?三層は正直大したことなかったけど」
「あはは、アーチャーとソーサラーは、厄介なはずなんですけどぉ……次はジェネラル、いわゆる指揮個体ですぅ」
「ジェネラルかぁ」
あれだろ、ボロボロの鉄の鎧と、錆びた大剣持ってるやつ。ダンジョン教材の人気者、初心者キラーとして有名なゴブリンだ。
後ろで仕切ってると思ったら、いきなり前に出てきたり、とにかく人が嫌がることばかりしてくるらしい。
「ですです。でもぉ、私たちには正直……」
「あんまり関係ないよなぁ。俺とスミレの二人だし」
そもそもスミレは魔神なので、止めれるもんなら止めてみろって話だな。
ま、その前に俺を抜けるもんならだけどな!
「よしっ、んじゃ四層に行きますか」
「はいっ!さくっと討伐しちゃいましょー!」
◇◇◇
四層へと入ると、周囲の様子が一変……ということはなく、相変わらず土に囲まれた空間だった。
ただ、プレッシャーだけが増している。
「へぇ、こりゃなかなか」
「感じますぅ?」
「あ、気配感知ないのか。ちょこちょこゴブリンよりもデカい気配がいるぞ。ちょっとやってみる?」
「うーん、まぁ……苦戦することもないでしょうし、私は構わないですよぉ?」
というか苦戦してる場合じゃないしな。ダンジョン討伐するのにジェネラルに苦戦してたらね?
「よーっし、じゃあやってやりますか……おらああああああ!クソゴブ共おおおお!!」
──クソゴブ共おおおお
──ゴブ共おおおお
──おおおお
辺りに、濃密な殺気が満ちていく。空気の重さが一段変わる。
震えている。壁が、地面が、奴らの悪意で、敵意で、震えている。
「恭平くん──」
「スミレは、見ててくれ。俺がやる」
「はぁい♡」
通路の向こうから音がする。数十メートル離れた丁字の曲がり角。その左右から、こちらへと向かってくるたくさんの足音。
「きたきた。いっちょやってやるか」
「頑張ってくださいねぇ〜」
「おうっ、応援よろしくぅ」
っと言っても、初手から手を抜くつもりはない。俺のできる最大効率で殲滅させてもらうぜ。
ポーチから長弓と鉄の矢を取り出す。ポーチに変わったおかげで、矢は大量に持ち歩けるようになった。
「そんだけ通路にいたらよぉ、狙いなんか適当でいけらぁなぁ!!」
弓に矢を番え、先頭に立って走ってきているソルジャー目掛けて放つ──
「ギギャア!」
胴体に当たればそれでいい。それだけでソルジャーが転び、そのもつれは後ろへと波及していく。
矢を番え、放つ──
「グガァ!」
ソルジャーの後を追っていたウォーリアーへと突き刺さる。
矢を番え──
「グガアアアアアア!!」
「ちっ、お早い判断だねぇ」
タンク役を務めるナイトが先頭へ躍り出てきやがった。……面倒くせぇな。斜めに盾を構えてやがる。あれじゃ矢が滑ってまともに刺さらねぇ。誰の入れ知恵かは……考えるまでもねぇな。
ゴブリン共の後ろに引っ込んでるから全貌は未だに見えねぇけど……。
「あれがゴブリンジェネラルか。思ったよりもデカいじゃん?」
小柄なゴブリンの中にいて一際目立つ巨漢。
おそらく俺の一回り、高さは二メートルほどだろうか。
醜悪な顔を嫌らしく歪めたクソゴブが、楽しそうにこちらを見つめていた。
◇◇◇
クソモブ共を捻り潰して、数日。
アタシは自分の体を研ぎ澄ませるためにトリックスターのクランハウスにある修練場へ篭っていた。
「ふぅぅぅぅぅ……」
体内の気を練る。
気功スキルによって極限まで高められた力が、内気功によって更に純度を増していく。
熱く、静かに。
「はぁぁぁぁぁ……」
練りに練った気を拳へと集中させていく。体中の点穴から闘気へと変換したそれを、漲らせ、それでもなお内からも気を込める。
内と外、相反する力を、拳に。
足首、膝、腰、肩、肘、そして、拳。全ての関節を動員して、地面から得た力の全てを拳に伝え、気と共に放つ。
──闘気功・破軍っっ!!
拳から力が溢れる。誰も止められない、誰も防げない。他の神スキル持ちだって、これを食らえば跡形もなくなるだろう。そう確信できるだけの、力だ。
外部へと溢れた気を操り自身を強化する闘気と、内部を循環する気を練ることで自身を強化する気功。その二つを極めた者にだけ、可能な技。
スキルとは違う、純粋な技術の極み。
拳が突き出たその先に、何者も存在することを許さない。暴力的な力が、前方数十メートルを瓦礫の山へと変えていた。
小紅アキラは知っている。自分が人類最強であることを。
小紅アキラは望んでいる。自分の横に並び立つ者が現れることを。
小紅アキラは諦めている。どうせ誰も、並んでなど、くれない。
「恭平、お前はどっちだ……?」




