第50話 デートのお誘い
「なーなー後藤さーん」
「なーにー?」
だだっ広いリビングに置いた、これまたデッカいソファに寝っ転がって、さっきのおっさん(冒険者協会会長)が置いていったリストを眺める。
「この討伐許可リストってさぁ、もし、載ってないの討伐したらどうなんの?怒られる?」
キッチンでコーヒーを淹れながら、こちらを見ずに返事をする後藤さん。
「奥多摩第四とか討伐したらどうなると思う?」
「……あー、怒られるじゃ済まないか」
「何人くらい死ぬのかしらね?そういうの、試算してそうだけど」
今の社会、完全にダンジョンに頼ってるもんなぁ。オーク肉しかり、お米や小麦が落ちる奥多摩しかり、そういう有益なやつは討伐するな、ってことか。
「ふぅーん。……あ、足立第三百八あるじゃん」
通称ゴブダン。ゴブリンメインのクソダンジョンだ。あいつらの存在意義は初心者の練習用だけ。国や協会からしたら討伐していいダンジョンってことだな。
「恭平くん、気になりますかぁ?」
俺の隣。つまり、寝転んだ俺の頭の隣に座って、こちらを覗き込んでくるスミレ。
「まぁな。俺にとっちゃ初めて入ったダンジョンだし、スミレに出会って……また、出会って、今こうしてるわけだし。思い出……っていうと美化しすぎだけど」
ちょっと恥ずかしいけど、でも、本心だからな。
俺に覆いかぶさるようにして覗いていたスミレの顔が、幸せそうにほころぶ。
「んふふ、私も同じですよぉ。あそこで恭平くんと出会えて、ほんっとーに!良かったですぅ」
「スミレは魔神だったわけだし、俺がいなくても何とかなったんじゃないか?」
「そんなことないと思いますぅ。私は、あの瞬間まで、本当にポンコツでしたからぁ」
「そうか」
「そうですぅ」
「はよ付き合え」
うるせーな後藤さん。そんなんじゃないっての。
つーか今は、そんな余裕ねぇよ。
◇◇◇
「クランハウス?どちらに建てられたんですか?」
「あ、ああ!いや!たて、たんじゃ!なくってぇ!だぁ!」
翌朝、俺がアパートにいないことに気付いたユキナからの鬼電により、呼び出されて数分後にこれである。
問答無用で打ち込んでくる剣神から、君は逃げられるか?俺は無理。
「ああ、既設の施設を買い取られたんですね?それでどちらに?」
淀みなく話を続けながらも、鋭い剣戟を打ち込む剣神様。
口を動かすなら、手を止めろよぉ!
「し、新宿、のタワ、マンんんんん!」
ユキナから嵐のような連撃が放たれる。上下左右お構いなし。こいつ不機嫌だなぁ!?
「住まいが変わるなら共有するべきかと思いますが、いかがですか?」
「あー!あー!そう!思う!ごめーん!」
ピタッ
「少し休憩しましょう」
「た、助かった……」
お前は俺の保護者か──と喉まできた言葉を飲み込む。そうですけど?とか言われたらもう逃げ場がない。
「では、今の間に新居の住所を共有しましょう。さぁ」
「……はい」
このあと家に来んのかな……来そうだよなぁ。スミレとケンカとかしないでほしいけど……しそうだなぁ。やだなぁ……。
◇◇◇
「なぜあなたがここにいるんですか?」
「私のセリフですけどぉ?」
「私コーヒー買ってこよ」
「待てこら後藤。コーヒーあるだろ」
「離してよぉ!無理だって!コーヒー!外のコーヒー飲みたいぃ!」
嫌がる後藤さんの首根っこを掴んで止める。許すわけねぇだろ。
ユキナから剣呑な空気が、スミレから濃密な魔力が立ち昇る。
え?マジでこれ俺が止めるの?俺ここで死ぬ?
「ちょっと!マンション破壊したらさすがにやばいわよ!一般人の生き死にとか超絶レッド案件なんだから!二人はともかく私たち死刑よ!」
多分それすらも二人が止めるんじゃないかなぁ、と思わなくもないが、犠牲を出したくないのは俺も同じである。
「う、ぐ……ぬおおお!ストップうううう!」
すでに鼻と鼻が引っ付きそうなくらいの距離でバチバチに睨み合っている二人の間に手を入れて割り込む。
「あ、恭平くーん♡」
「恭平さん、説明をお願いします」
スミレが腕にしがみついてくるのを見て、さらに声が鋭くなるユキナ。
「え、えーっと、ここはクランハウスでぇ……スミレは家がないし、俺も家狭かったから、クランハウスに住もうかなって……」
「…………それだけですか?」
「それだけ!それだけです!それすらも怪しい!」
何言ってるかわからん?俺もわからん!でもここに望みを見つけたのだ!縋るしかあるまい!
「むぅー」
不機嫌そうにむくれるスミレは無視。こいつは距離が近いだけで無害。御すべきはユキナだ!
「…………わかりました。では、私も今度からはこちらに迎えに来ます。鍵をいただいても?」
「へ?」
「鍵をいただいてもよろしいですか?私も扉を毎回壊すのは気が引けるので」
「はいはーい、こちらになりまーす」
ずっと気配を消していた後藤さんがルームキーをユキナへと渡す。おいおい、ユキナは一応部外者だぞ。
「む、む、むぅ〜」
ふくれてる!ふくれてるよ!もう爆発しそう!?まだいける!?
「確かに。では、恭平さん。そろそろ失礼しますね。また明後日、お迎えに上がります」
それだけ言うと、スタスタとエレベーターへと向かい帰っていくユキナ。
「清子さぁ〜ん!?なんであんなのに鍵渡したんですぅ!?」
「しょーがないでしょ、渡さなかったら壁よじ登ってでも来るわよ。それなら平和的に来てもらったほうがマシ」
「むぅ〜それはそうですけどぉ」
「大丈夫大丈夫。剣神さんはそもそも自覚してないから、スミレちゃんが一番リードしてるわよ」
「え、えへ、そ、そうですぅ?な、なら、いいかなぁ?」
「大丈夫大丈夫……多分」
あ、目を逸らした。怪しいなぁ。でもスミレは納得してるみたいだ。むふーっ、とやる気満々に鼻息荒くしてる。
俺?俺の発言は基本的に考慮されないよ?クランマスターなのにね?ふしぎ!
「あ、恭平くん、その、明日、なんですけどぉ……」
「おん?どしたん?」
「えっと、一緒にダンジョン討伐行きませんかぁ?」




