第49話 広いリビングって持て余すよね
『集まれ奴隷【魔神報告スレ】崇めろ魔神』
名無しの奴隷
ここは日出ずる国大和の地に降り立った最高に可愛くてキュートな魔神、竜胆スミレ様を崇め奉るスレです
合言葉は魔神様てぇてぇ
名無しの奴隷
魔神様てぇてぇ
スレ立て乙ー
名無しの奴隷
魔神様てぇてぇ
乙
で、なにこれ
名無しの奴隷
魔神様てぇてぇ
スミレたん崇めんだよぉ!!
決まってんだるぉぉぉぉ!?
名無しの奴隷
舌巻いてて笑う
名無しの奴隷
てぇてぇはどうしたオラァ!
名無しの奴隷
でもあいつ男おるやろ
名無しの奴隷
言うなよ
そういうこと
言うなよ
名無しの奴隷
効いてて草
◇◇◇
だだっ広い何もない部屋に、大きな仕事机が運び込まれていく。続いて、パソコンと、モニターと、なんかたくさんの線。
「はい、じゃあパソコンはこっちで。佐藤くーん?」
どんどんと運び込まれる家具を横目に、広いバルコニーに出て日向ぼっこをしていると、後藤さんが中から呼んできた。
「なにー?」
「これ、ベッドはそれぞれの部屋でいいのよね?」
ベッドはそれぞれの……って。
「そうに決まってるだろ。なんの確認だよ」
「いや、二人付き合ってるんじゃないの?一緒がいいかなって。別に遠慮しなくていいわよ?防音性高いし」
「いや、付き合ってはないよ?スミレも俺のこと別にそういう対象と思ってないだろうし、本人の前で言ったら気まずくなるからやめてね?」
「…………あんた、マジで言ってんの?」
後藤さんの視線がジト目に変わる。
「なにが?ウソついてどーすんだよ、俺がモテないって、ウソついて、どーすんだよぉ!」
「ごめんて」
そんなやり取りをしていたら、魔力感知に反応が入った。空から高速で飛んでくる、スミレだ。
「ただいま戻りましたぁ!ご飯適当に買って来ましたよー!はい、清子さんからどうぞぉ♪」
「あら、スミレちゃんありがと。じゃあこれいただくわね」
そのまま止まることなく、後藤さんに貢物をする。飼いならされてやがる……。
というかあれだな。誰に媚びを売ればいいのか、きちんと見抜いてるな。なかなかやるな。
そう、俺に媚びを売っても仕方ないからな。なにせここは後藤さん個人のもので、俺は一切関係ない。クランもまだ申請中だから、俺はただのソロ冒険者なのだ。
「ちょっと、スミレちゃん……ごにょごにょ」
「ひぇ、や、やっぱり、わかりますぅ?」
「そりゃもう、でも本人、気付いてないわよ」
「あはは……ですよねぇ。はぁ……」
「う〜ん、協力してあげたいけど、剣神に目を付けられてるのよね、私。それにこういうのは周りがお膳立てしても……」
「あっ!だ、大丈夫ですぅ……そ、それは、その、自分で頑張りますのでっ……!」
なんかずっとコソコソ二人で話してるんだけど。
「何の話してんの?俺も混ぜて?」
「あんたはあっち行っときなさい」
「理不尽」
◇◇◇
引っ越し業者が帰っていったあと、すっからかんだった新居──クランハウスは見違えるように豪華になっていた。
いやぁ、なんということでしょう。
「広すぎるリビング」
「ここだけで百平米はあるわね」
「広すぎる個室」
「一人三十平米くらいね」
「謎の書斎」
「私の仕事部屋ね」
「謎の……窓のない部屋」
「納戸ね。いわゆる倉庫かしら」
「なぁ、思ってること言ってもいい?」
「なに?」
「広すぎない?」
「やっぱりそう思う?」
やっぱりそう思う?じゃねぇよ。そうとしか思わねぇよ。
「いやどうすんの?リビングとか広すぎてどこにいたらいいのか全然わかんないんだけど。角?角にいればいい?」
「角でホコリでも食べてればいいんじゃない?」
「タワマンのホコリって高級なのかな」
「やだ、本気にしてんの?ごめんね?」
「そっちのほうが傷付くわ」
「恭平くん楽しそうですねぇ」
ピンポーン
みんなでわちゃわちゃとしていたら、インターホン。……互いに顔を見合わせるが、心当たりは誰にもなさそうだ。こっそりモニターを見ると──
「おっさん?」
「あー、私関係かな?出るわよ──はーい?」
『すみません、こちら竜胆スミレ様の御自宅でお間違いないでしょうか』
「あ、あー……」
ちらっとスミレに目をやる後藤さん。
スミレがこくり、と頷く。
「はい、そうです。協会の方ですか?」
『ええ、竜胆スミレ様へ【お願い】をお渡しに参りました』
「…………わかりました。手渡しですか?」
『可能であれば』
「どうぞ、ロック外しておきます」
『失礼します──』
モニターが暗くなったのを確認してから、後藤さんへと声をかける。
「なぁ、お願いってなんだ?なんか、すげぇ重そうだったけど」
「ん、えーっと、スミレちゃん、あのことは?」
「伝えてますよぉ。恭平くん、あれです、あれ。義務のやつですぅ」
義務?義務って──
「あれか?ダンジョン討伐?」
「そうね。それのことだと思うわ。私も見たことないけど、多分──」
ポーン
後藤さんの言葉を遮るように、このフロア専用のエレベーターが到着音を鳴らす。
ドアが開いた先に立っていたのは、さっきモニターに映っていたおっさんと、二人の男……護衛か。かなりやりそうだ。
「竜胆スミレ様、お初にお目にかかります。私は冒険者協会会長の──」
「そういうのはどうでもいいですぅ。後ろの邪魔なのは、威嚇か何かですかぁ?侮られたもんですねぇ」
スミレの体から、濃密な魔力が立ち昇る。……マジか、景色が歪んでやがる。
「い、いえいえ!これらは道中の護衛でございます!決してそのようなつもりは──」
「どうでもいいって、言いましたよねぇ?」
「ひぐっ、ふ、ふぅ、そ、そうでした、申し訳──いえ、これも余計ですな。こちらを」
分厚いファイルを後藤さんへと渡す……会長、だっけ。
黙って受け取って、ファイルを開く後藤さん。有能マネージャーって感じだ。くっ、俺もそのポジやりたかった……!
「討伐許可リスト、ですか」
「はい。こちらに記載のあるダンジョンのみ、討伐いただくようお願いします」
「ふぅん。ま、適当にやりますよぉ。用事が終わったなら、さっさと帰ってくださぁい」
「はい、それでは。よろしくお願いいたします。人類の存続のために」




