第46話 神様のい、う、と、お、り♡
「ほぇぇ……」
体から、力が溢れてくる。
今、魔神……って聞こえたような。
マイナンバーカードを取り出して、スキルを確かめる。随分と久しぶりだ。
『冒険者適性アリ』
『職業:魔神』
『スキル:魔神・魔力操作(49)・魔力回復(50)』
「あれ……」
なくなってる。杖術と、基礎魔法だったかな……。なんでだろう。
「ま、イイですぅ。ふふっ、今の私なら、何でもできそう」
そう、それこそ、私を捨てたクラン。アットホームパーティーのクランハウスを、更地にすることだって──
「あはは、やっちゃいますぅ?もう、どうでもいい人たちですしぃ……」
顎に指を当てて考える。
恭平くんにとって、最もいいのは、どんな形でしょう?
「……あはっ♪そうですぅ、それがイイですねぇ。そうと決まれば、早速──」
周囲の魔素を束ねて操り、自分の体を浮かせる。百聞は一見に如かず、見せてやるのが一番早い。
「恭平くん、待っててくださいねぇ。私の贈り物、きっと、気に入りますよぉ♪」
◇◇◇
「恭平さん。今日はこれくらいにしておきましょう」
「あり、ありが、とう、ござい、ましたぁ!」
後藤さんに申請用紙を押し付けた翌日。神の祝福でユキナにボコボコにされるという、もはや恒例行事と化したそれを終えて、殴られたお礼を言う。変態かな?
あ、ちなみに神の祝福は、もう顔パスだ。通さないとユキナが不機嫌になるからである。神スキル持ちが不機嫌とか笑えないのでこうなった。強い。
「恭平さん、剣術レベルは上がりましたか?」
「えー、ちょっと待って。見てみる」
マイナンバーカードを取り出して、ほい。
『冒険者適性アリ』
『職業: 』
『スキル:早熟・遅咲・剣術(26)・遠見(20)・気配感知(21)・マップ(20)・危機感知(22)・気配遮断(20)・超回復(21)・鎚術(20)・挑発(20)・空間把握(20)・槍術(20)・斧術(20)・短剣術(20)・盾術(20)・弓術(20)・拳術(20)・杖術(20)・魔力操作(21)・魔力回復(22)・疾走(20)・跳躍(20)・魔剣術(20)・暗殺術(20)・収納(20)・魔力感知(20)・剛力(20)・不壊(20)・縮地(20)・健啖(21)』
「お、剣術上がってるぜ。やったね」
「どれど──恭平さん……?」
「はい」
「またスキルが増えてますね?すごく、増えてます」
「はい」
「そういうのは言ってください」
「えぇ……?でも──」
「言ってください」
「はい、たくさん増えました」
「よろしい」
むふーっ、と満足気に鼻から息を吐く剣神。それでいいのか。
触らぬ神に祟りなしというし、これは言わぬが花ってやつか?……でも俺、死神にも剣神にも、自分から近付いた覚えがないんだよなぁ。呪いかな?
そんな風にユキナと休憩がてら喋っていると、珍しくスーツを着た鬼塚さんが歩いてくる。
「おう、月城。足立に行くぞ」
「鬼塚さん、私は今──」
「マスター命令だ。三人目が出た」
「三人目、ですか」
「ああ、三百八にいるらしい。急ぐぞ、トリックスターにだけはやらせねぇ」
「わかりました……恭平さん。申し訳ありませんが、本日は……」
「ああ、なんか大変そうだし。なんかあったら協力するから言ってね」
「……なるほど、では行きましょう」
ぽん、と手を叩いたあと、俺の首根っこを掴んで──えええええ!?
「おおおあおおあああ!?歩く歩く歩く!自分で歩く!」
なんで何も言わずに引きずるの!?
「佐藤ぉ……相変わらずだなお前ら……」
「鬼塚さんも見てないで助けて?」
「一張羅が汚れちまわぁ。お断りだ」
酷い男だよ!
◇◇◇
足立第三百八ダンジョンは、興奮のるつぼと化していた。るつぼって何?
「うわぁ、人がすっげぇ……」
「ちっ、乗り遅れたか……渋滞してたからなぁ……」
「帰りますか?」
「そういうわけにゃいかねぇな。トリックスターが持ってっちまったら、俺らに勝ちの目がなくなっちまう」
「ままならないですね……」
うーん……とは言ってもこれ、どーすんの?
コンビニを併設したくらいのちっさいダンジョンだ。具体的に言うと郊外の薬局くらいのサイズしかない。そんなところに俺たち含めて、百人は人が集まってる。
「そーいや鬼塚さん。三人目って?」
「ああ、言ってなかったか。魔神だとよ」
「魔神……ってことは魔法系だよね?強そうだなぁ」
「なに遠い目してやがる。お前も似たようなモンだろ」
「えー?そりゃ過大評価だよ鬼塚さん」
「どの口で言ってんだボケ。そもそ──」
そこまで言いかけた時、強烈な気配が建物から溢れてくるのを感じ取る。思わず戦闘態勢を取ってしまうくらいに濃密だ。
ユキナが刀の鯉口を切り、鬼塚さんがポーチに手を入れて武器を取り出している。
俺?俺はファイティングスタイルだ。姿勢が大事なので。
「おいおい、こりゃあ……魔力か?俺でもわかるぐれぇには、濃いな」
「油断なさらず。ものすごい殺気です」
建物のドアが開き、地面を這いつくばりながら慌てて出てくる男……あれ、あいつ見覚えが……。アットホームパーティーの、クラマス?
そして、ドアの前にはキラッキラの笑顔で手を掲げるスミレの姿。
「今更気付いたってぇ、もう遅いですぅ!消え去りやがってくださぁい♪」
スミレの手のひらに特大の炎の球が発生する。この距離にいても、肌が焼けると錯覚する熱量。
おい、あれをこんなところでぶっ放したら──
「さよーならー♪」
「ひいいぃぃぃ!!」
スミレが勢いよく手を振り下ろす。
それに呼応するかのように、猛スピードで男へと向かう炎。
って、あれじゃ周りの人も──
「止めます」
言葉だけを残して、隣にいたユキナが消える。
「──シッ!」
幾筋もの剣閃が、瞬く。
いつの間にか八つ裂きにされた炎はそのまま散り散りに消えていった。
「なんですぅ?邪魔するんですかぁ?私、そいつに殺されかけたんですけどぉ?」
「そうですか。それでも、多くの人を巻き込むような行為は慎むべきです」
「もう、その周りの人、逃げてますけどぉ?」
「……本当ですね。では、どうぞ」
「ひいいぃぃ!」
なんだこれ。って止めないと!
「おーい!スミレー!」
「あっ♪恭平くーん♡」
「お、おお、どわぁ!」
フワッと浮き上がり、不自然な軌道でこちらへ飛んでくるスミレを慌てて受け止める。
「助けにきてくれたんですかぁ?怖かったですぅー」
ウソつけ。殺そうとしてたじゃん。
「恭平、くん?」
ギ、ギ、ギ、とユキナの顔がこちらへと向く。感情のこもってない目が、とっても怖い。
「なんだ、またお前かよ」
鬼塚さん?またってなに?




