第44話 俺たちは個人企業勢だ!
「く、くくく、くくら!?ああ!倉ですか!?建てます!?」
「なんでよ。それなら竜胆さんに頼まないでしょ。クランだよ、クラン」
「クラン…………」
なんで呆然としてんのよ。つーか誘うのも結構勇気いるんだから、早く返事欲しいんだが。
「…………ぐすっ」
すぅ、っと竜胆さんの目から涙が溢れる。
……そんなに嫌だった?俺の背中にも汗が流れそうなんだけど。
「あー、竜胆さん?その、嫌だったら、無理にとは……」
「ち、違うんですっ!その、これは、ビックリ、しちゃったというか、その、佐藤さんは、私でいいんですかぁ……?」
照れ隠しだろうか。手をバタバタと振りながら俺の心配を吹き飛ばしていく。
よ、良かった……。嫌がってたらどうしようかと思った。
「そりゃもう、俺から誘ってるわけだし問題なんてないよ。あとは何をしてもらうかだけど……」
そこまで言って、お互いに目を合わせる。
何がいいかなぁ。とりあえずあんまりダンジョンに行きたがってないんだし、事務作業とか……?クランになれば毎月の収支とかもしっかり出さないといけないだろうし。
俺が頭を悩ませていると、竜胆さんがハッとした後、下を向いてモジモジし始める。
「あ、あのぉ……そ、その、私、こういった経験が、なくて……初めてなので、その、優しくしていただけると……」
「ん?ああ、もちろん。っていうか俺も経験ないし、上手い下手なんてわかんないし、一緒に頑張っていこうよ。これから二人でやっていくわけだし」
「あ、そ、そそそそ、そうですね!さ、き、恭平くんも、初めて……なんですぅ?」
お、煽ってんのか?俺どこのクランも落ちたって言ったよな?
「俺も初めてだよ。多分色々と迷惑かけるけど、見捨てないでくれると嬉しいかな」
「──は、はいっ!末永くお願いしますぅ!!」
「うん。こちらこそよろしくね、竜胆さん」
「あ、あのぉ……私のことは、スミレと呼んでいただけるとぉ……」
「ん?ああ、えーっと、スミレさん?でいいかな?」
「いえ、スミレがイイですぅ」
「あー、スミレ?」
「はいっ!恭平くん♡」
花が咲いたような笑顔だ。ちょっとだけ背筋がゾクッとする。可愛い子が笑うとこうなるのか……?
だけど、酷いことにならなくて本当に良かった。名前呼びはちょっとこっ恥ずかしいけど、そのうち慣れるだろう。
でもそうなると、後はクランの創設方法と、事務作業の内容か……後藤さん案件だな。
「スミレ、ちょっと俺、クランの創り方聞いてくるよ。今日はこのまま休んでてくれていいから、細かいことはまた明日話そう」
「わかりましたぁ、ちょっと寂しいですけど……待ってますねっ♡」
おおう、ブルっとくる。蠱惑的ってやつ?クラン創るなら、俺がクラマスだろうし、しっかりしないとな。
◇◇◇
「後藤さ〜ん、クランの創り方教えてー!」
「なんで試し切りに行ってそうなるのよ……」
すごいよね。俺もビックリだよ。でもこれがリアルだからさ。受け入れていこう。
「なにその顔……」
「受け入れていこう?」
「むかつく……はぁ、クランね。三人以上で協会に申請すれば創れるわよ。資本金も一応いるけど、これは一円でも構わないから問題ないわね」
「三人?」
「三人」
ふむ。俺だろ?スミレだろ?…………後藤さん。うん。いけるな。
「これから一緒に頑張ろう!」
「あんた私を頭数に入れてるわね?……もう、それは構わないけど、何があったの?今の感じだと、もう一人いるのよね?」
さすが後藤さん。相変わらず察しがいい。さらに諦めも早い。
とはいえさすがに説明ゼロでは納得してくれるはずもない。俺は今日あったこと、さらに三ヶ月前に起きたダンジョンでの強盗未遂について、後藤さんへと説明をしていく。
後藤さんの顔が、どんどん険しくなっていくのがやけに印象に残った。
「……ってわけで、クランを──後藤さん?」
後藤さんが特大の苦虫を噛み潰したような顔でこっちを睨んでる。……シワになるよ?
「〜〜〜〜〜っ!あんた、どんだけ厄ネタ持ってんの!?」
「うーん、これで全部かな?」
「────っ、はぁ……言ってもしょうがないわね……」
なんだ。悩みでもあんのか。相談乗る?
「佐藤くん、その事件なら私も知ってるわ。界隈じゃ有名だしね。その上で、あなたが、嫌がると思うけど、これだけは知っててほしいの」
後藤さんが、本気の目で、俺を見る。
「まず、その子、竜胆さんの追放は、クランとしては当然よ……なんでか、わかる?」
いや、当然?だって、スミレは、何も……。
「わからない、って顔ね。その子はね、仲間を売ったのよ。彼女なりに理由はあったんだろうけど、そんなことはクランには関係ない。クランを裏切ったのよ」
「いや、でもそれは──」
「わかってる。佐藤くんを守るため、よね。私も、それは正しいと思う。でも、冒険者の理屈は違うの」
後藤さんが、ゆっくりと、言い含めるように続ける。
「クランはね、運命共同体なの。今日死ぬかもしれない冒険者が、命を、背中を託す相手。それが、理由はどうあれ、自分たちを売ったなら?仲間を売った人間と、あなたはダンジョンに行きたい?」
行ける──とは即答できなかった。だけど、それは──
「あの子は違う?」
「そう……だと思う。俺にはむしろ、自分を犠牲にしてでも正しくあろうとしてるように、見えた」
「うん……。佐藤くんがそう感じたのなら、本当だと思う。でも、周りはそう見てくれないわ」
後藤さんが、苦虫を噛み潰した顔をしていた理由が、よくわかる。言いたくないんだな。こんなこと。
「佐藤くん。もし彼女をクランに入れたら、その噂はすぐ広がるわ。あなたのクランに人は入らなくなると思う。それでも、本当に大丈夫?」
それでも、大丈夫か。
後藤さんをダンジョンに連れて行くわけにはいかない。俺と、スミレの二人で、これからずっと、か。
「もちろん、私にできることは協力するわ。でも、多分、人は増えないと思う。人は、弱いからね……」
「後藤さん、ありがとう」
「へ?」
「でも俺、もう決めてるんだよね。見捨てないって」
「…………そう」
困ったような、喜んでるような、なんとも言えない微妙な顔で、そう言う後藤さん。
「そう!誰も入らないなら!俺たちだけでデッカくなってやるぜ!俺たちは、個人企業勢だあああああ!!」
「なにそれ?」
「……さぁ?」




