第43話 これから一緒に
「お、お試しって、どこまで、行くんですか……?」
「黙って付いてこい」
「……はい」
また、だ。また、私は。
なんで、ダンジョンに来たんだろう。
すごく、体が重い。二人に付いていくのが、やっとなくらい。
「はっ、はっ、はっ」
息が切れる。
ベテランらしい剣士風の二人と私の間には、体力一つ取っても雲泥の差がある。
頭が、ぼーっとする。酸素が、足りてない。
そのせいだろうか。
前を歩く二人が足を止めたのに気付かず、ぶつかってしまう。
「あっ、す、すみませ──」
言葉が出なかった。二人のこちらを見る目が、目つきが、変わっていた。
「おい」
「ここでやんのか?」
「おう……誰もいねぇし、さっさとやっちまおうぜ」
小声で、何かを話している。けど、よく聞こえない。
「……?あ、あの」
「おう、ちょっと休憩だ。ドローン止めろ」
「へ、あ、あの、ちょ、ちょっと、早く、ないですか……?」
「いいんだよ、俺らも、我慢の限界だからよ。お前も疲れたろ?」
「は、は、い……」
「おお、じゃあ俺が切ってやるよ」
怖い。
この人たちの、目的って、もしかして──
「へへ、こんな簡単にいくとはな」
「あ、あの、休憩、しましょう?」
「ああ、するぜ?一緒に、楽しもうや」
二人が、笑いながら近付いてくる。
「こ、来ないでください!ま、魔法、撃ちます!」
ウソだ。ここで撃てるなら、きっとここまで苦しんでいない。
杖を持つ手が震える。
うまく魔力が練れない。
それでも、このウソに縋るしか──
「へっ、撃ってみろよ」
「はは、撃てるなら、な」
──バレてる。
なんで?
どうして?
じゃあ、この人たちは私のことを、知ってた?
最初から、そのつもりで?
「あ、ああ……」
「ははははっ!震えてやがる!!」
「安心しろよ!ちゃーんと、俺らが面倒見てやるからよぉ!」
やだ。
やだよ。
こんな、こんなの。
「おい、服剥ぐぞ」
「おお、さっさとな、さっさと」
恐怖で、視界が歪む。
ああ、神様──
「ダウトォォォォ!現行犯でボッシュートです!」
かみ、さま……?
◇◇◇
「ちっ、誰だテメェ!!」
「こっちのセリフじゃダボぉ!やって良いことと悪いことの区別ないの!?」
どっから見ても無理やり致そうとしてたよなっ!?よなっ!?
そういうのはもっと、こう、二人きりで、雰囲気とか、大事なやつだろ!
「あ、あな、たは……」
「おっと、お嬢さん、俺が来たからもう安心だよ。さぁ涙を──竜胆さん?」
なんでユーがこんなところに?
「う、う、ざ、ざどゔざん……」
「ほ?」
あ、これ俺知ってる。
「ざどゔざああああん!!」
「おお、よしよし」
こういうときは背中を撫でるといいよ(実体験)。よしよし。
「ゔ、ゔゔ、わ、わだじ、じゅ、じゅーじょぐ、で、でぎなぐて……」
「オッケー。わかった。大丈夫。大丈夫だよ」
全然わからん。住職?なにが?俺もできねぇよ。できるのは抱きしめることくらい。あ、下心はないぞ。さすがに。
「おいこら!それは俺らのだぞ!何勝手にイチャついてんだ!!」
「お前が遊びてぇなら、俺らの後──」
「ああ?お前ら今、なんつった?」
あー、久しぶりだ。
ムカつくな、こいつら。
「う、テ、テメェ、や、やる気か、おお!?」
俺の圧にビビったのか?腰の引けた格好で言われてもな。
つーか、この前もあれじゃなかった?竜胆さん、クジ運悪すぎないかな?
「すぅ、すぅ……」
寝ちゃったか。はは、涙でビチョビチョだ。
「よっ、と」
竜胆さんを抱きかかえて、縮地であいつらと距離を取る。
「な、き、消えた……?」
「んなワケねーだろ。こっちだよ」
おっさんになると、動体視力も落ちるのか?
竜胆さんを優しく地面に寝かせる。もうちょっとだけ我慢してくれよな。
「おい、今なら許してやる。その女置いて──」
──縮地発動。
「だからさぁ」
剛力発動。
「もう、そういう、次元じゃねえんだよ、ボケぇ!!」
渾身の右フックを、顔面に叩き込む!!
「ぐぼげええええ!」
おっさんの口から歯が何本も飛び出していく。顔面の骨を折る感触と、めり込んでいく拳。
顔が砕けたおっさんは、そのままキレイに回転しながら土の壁へと叩きつけられ、動かなくなる。
「な、な、な……」
残ったおっさんが、大口を開けてこっちを見てるけど、もう遅い。
「ほら、次はお前だぞ。どーすんの?震えてても解決しねーぞ?」
「う、う、う、ああああああ!」
破れかぶれに剣を振るう。遅い。
「シャア!」
剣を握る手を、殴る。
「いぎゃあああああ!」
「ほれ、ボディーががら空きだぞ、ラァ!」
めり込む、拳。
「お、おぼええええ!」
「そこで、一生、寝てろっ!」
膝を突いて倒れそうになる男の後頭部へトドメのパンチを叩き込んでから、竜胆さんのもとへ戻る。
あとは知らん。生きてんのかもどうでもいいわ。
「さっ、竜胆さん。帰ろうか」
彼女がこれ以上、悪意に晒されないように。これも何かの縁だろう。俺に何ができるかわからないけど、話くらいは聞こう。
運悪く、ドローン回し忘れたし、コッソリ帰りましょう。
そう、運悪くね。
◇◇◇
「ん……ここ、は……?」
ダンジョン併設の医療院のベッドで、竜胆さんが目を覚ました。
「あ、起きた。やっほー、竜胆さん。俺、佐藤恭平。わかる?」
「佐藤さん……っ!ど、どうしてここ──あっ」
急に起き上がったからだろう。ふらっと倒れそうになる竜胆さんを支える。
「っと、大丈夫?お医者さんは栄養失調だろって言ってたけど、ご飯食べてないの?ダイエットしなくても竜胆さん可愛いよ?無理な食事制限は止めよ?」
「あいっ!?い、いや、その、クラン、クビになっちゃいまして……」
顔を赤くしながら言いづらそうに話す竜胆さん。クラン辞めれたんだ。
「へぇ、良かったじゃん。アットホームパーティーでしょ?俺あそこ嫌い」
「へあっ!?よ、よかっ、た……?いや、そのあと、どこのクランにも、その、就職できなくて……」
ぎゅっと布団を握りしめ、下唇を噛みしめている。……そうか。
「わかる」
「えへ、そうですよね、こんなこと言われても……へ?」
「わかる!わかるよ!俺も!就職試験全部落ちたもん!アットホームパーティーも!落ちたから!」
「……ふふっ、佐藤さんも、落ちたんですかぁ?」
「あー、そりゃもう酷かったよ。鉈とドローン買ったらお金が無くなってさ」
「ふふ、大変そうですぅ」
「っと、そうだ、これ、さっきそこの売店で買ったんだ。好きなの食べて」
そう言ってポーチからおにぎり各種を置いていく。おずおずと遠慮がちに手を伸ばして、食べ始める竜胆さんを見ながら、彼女が寝ている間に考えていたことを口にする。
「竜胆さんさぁ、俺とクラン創らない?一緒に」
「ぶふぅぅぅぅ!」
「きったねぇ」




