第42話 お試し
あれから──アットホームパーティーをクビになってから、二ヶ月が過ぎた。暑さは落ち着いてきたけど、これからどんどん寒くなる。そうなる前に、なんとかしないと。
「はぁ……どこも、雇ってもらえないなんて……魔法使いって、レア職なんじゃなかったんですかぁ……」
お腹の虫が鳴り止まない。クランハウスを追い出されてから、協会直営の安宿で何とか繋いできたけど、もうお金が尽きた。
手のひらに載った千円札を見る。
これが無くなれば、私は──
「でも、冒険者の知り合いなんて……あ」
あの人。
冒険者になってから、初めて私に優しくしてくれた人。あの人なら、何か力になってくれないだろうか。
「はは、すっごく図々しいですねぇ……迷惑しかかけてない、これからもきっとそう、なのに……」
それなのに、私の足は、足立区へと向かっていた。
◇◇◇
「後藤さーん、ミスリルまだー?」
「あんた毎日それ言うつもり?」
奥多摩から足立へと帰ってきて、はや二ヶ月が過ぎた。ミスリル一番に作ってもらってんだから、いい加減もらえても良くない?
「つーかいつ来るのか教えてくれよ。じゃないと毎日聞くぞ!」
「はいはい、今日の朝イチに入ったわよ。まだ開けてないけど。明日でいい?」
「あんのかよ!明日で良いわけねーだろ!」
俺は客!あんた店員!物を売れよ、物を!
「わかったわかった。もう、しょうがないわね」
「なんか俺がワガママ言ってる感じ出すのやめて?」
当然の要求だからな?
俺の抗議を一切気にせずに、後藤さんが販売所奥にある倉庫へと歩いていく。マジでこっち見ないんだけど。
「佐藤くーん?これこれ、このダンボール。中身確認してくれる?」
後藤さんが倉庫に入ってすぐのところに置いてあるめちゃくちゃ大きいダンボールを指差す。
「開けるのも俺かよ。まぁいいけどさ」
収納から短剣を取り出して、ダンボールの封を開ける。まぁダンボールだしな。簡単だ。
高鳴る胸のドキドキを押さえながら、ゆっくりとダンボールを開いていくと、アタッシュケースのような物がいくつか中に入っている。焦らすなよぉ!
箱からアタッシュケースを取り出して、フタをゆっくりと開く。
中から現れたのは、柔らかいスポンジに包まれた、武器の数々。
「ふおおぉおおぉ……」
一言で言うと、キレイだった。
武器のはずなのに、芸術品であると言われても信じてしまいそうだ。
青く輝くミスリル特有の光沢に目を奪われる。思わず手に取った片手剣の軽さに、さらに驚かされる。
「このサイズで、この軽さかよ」
「一応片手剣は、軽さ優先でオーダーしてあるわ。斧とかメイスとか、大剣とかは重さも大事だから、芯材と側にミスリルで、そのあいだのつなぎは魔鋼にしてるってさ。メンテナンス用のミスリルも貰ってるから、気になることがあったら言ってくれ、だそうよ」
「へぇ、そりゃ頼もしい」
他にも色々と後藤さんが説明してくれていたが、全然耳に入らなかった。今の俺は、こいつらを試したい想いでいっぱいだったからだ。
「後藤さん……もうこれって貰ってもいい?」
「大丈夫よ。あんまり、遅くまで遊ばないようにね」
「うん。じゃ、またね!」
アタッシュケースに入っている武器と防具を残さず収納へと入れていく。
あ、ちなみに魔鋼製の武器は全部腰に着けたポーチ型のアイテムボックスへと入れている。奥多摩の後しばらくしたら、後藤さんがくれた。ニコニコ笑顔でプレゼントって言ってたから、相当儲かったみたいだ。
それはともかくとして、久しぶりに足立第三百八ダンジョンに行くか!
あれからちょっと足が遠退いてたけど、お試しならやっぱりあそこだな。ゴブリンちゃん、待っててね。
◇◇◇
「らせ〜」
相変わらずやる気のない店員さんがいる売店。なんか磨きかかってない?まぁ悪い人じゃないし、仕事はちゃんとしてくれるのでどうでもいいんだけど。
「おにぎりとー、パンとー、お茶にー、あ、ホットデリ何あるかな」
腹が減ってはなんとやらだ。高楊枝している場合ではない。
「すみませーん、これと、あとファミリーチキンください。三つ」
「お客さん、よく食うっすねー。お支払いはBペイすか?」
「ははは、ちゃんと食わないと動けないですからね!もちろんBペイで」
ピッ
「あらしたー」
ファミリーチキン美味いよなぁ。溢れ出る汁が美味い。もぐもぐ。たまらん。
「は、離してくださいっ!」
「んあ?」
女性の悲鳴?穏やかじゃねぇなぁ。
声のする方へと顔を向けると、ローブを着た魔法使い風の女性の手を掴む、小汚い装備の剣士風のおっさんが二人。痴話喧嘩、って感じじゃないな。
「おいおい、そんな態度取っていいのか?クランに入れなくて困ってんだろ?」
「ほれ、俺らのクランに相応しいか試してやるからよ、ダンジョン行こうや」
「ク、クランに、入れてくれるんですかぁ……?」
「へへ、お前がちゃんとよ、俺らの言うこと聞くんなら、悪いようにはしねぇよ」
「ほれ、金に困ってんだろ?仕事だ仕事」
「わ、わかり、ました……手、離してください」
「へ、わかりゃいいんだ。じゃあ行こうぜ。おい」
「ああ、お前らわかってんな!付いてくんじゃねぇぞ!」
…………そこまで話をして、ダンジョンへと消えていった三人。なーんか、きな臭いなぁ。
付いてくるな、ってのも気になる。
「とりあえず追いかけてみるか?何もなきゃ帰るだけだし」




